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NOと言う勇気を持つ

AMIは写真が撮れない

モデル事務所のオーディションに受かり、所属時の面談で言われた言葉は今でも覚えています。

悔しい…そう思うや否や、負けず嫌いな私のやる気に火がつきました。そこから、怒涛の写真作りが始まります。

今回は、そんな新人時代から取り組んでいるテストシュートについて、撮られる技術向上のためにやっていたこと、取り組む中で感じた不安や恐怖、今まさに感じていることについてお話しします。

◆真似したものに価値はある?

テストシュートをするにあたってまず最初にしたのは、事務所のホームページをくまなく見ること。所属前の「目標となる人を見つける」という視点から、今度は「どんな写真を撮ればいいのか」という視点に変えて、他のモデルの写真を再度見直すことにしたのです。それは所属事務所に留まらず、東京にあるあらゆるモデル事務所の写真を片っ端からチェックしていくことになりました。

当時の私は、コンサバなモデル(モデルとしては王道と言われる、綺麗なお姉さん系)を目指してほしいと言われていたため、そう思われるモデルの先輩たちをリストアップ。見ていく中で、やはりプロフィールのトップに据えられている写真が、そのモデルにとってのベストだと思い、早速真似をして撮影することにしました。

実際に、服装や髪型、ポーズ、表情に至るまでを真似してみると、写真を見ていただけではわからなかった、細かなことに気づかされました。

顔や肩のわずかな角度の差によって、写真の見え方が大きく異なること、どこを見ているかわからないような、少し目線を外した表情の魅力、真似したモデルと自分自身の強みの違いなど…多くの発見が、突如として自分の中に流れ込んできました。

この「表現の引き出しが増えていく」ような感覚にやりがいを覚え、いい写真を作りたいと思う気持ちと同等かそれ以上に、こういった気づきの多い撮影をしたいと思うようになりました。

結果、真似して作られた写真は「なんか違う…」と歯痒はがゆい思いをするものばかり。いくら頑張って寄せても、全く同じものにはならないことを改めて実感しました。
と同時に、大切なのは真似で完成したものではなく、その過程で得ることのできる気づきや技術であるという、「真似する」ことの価値にも気づくことができました。この考えは、のちに経験したテストシュート以外の出来事でも、大いに役立つこととなります。

そんな真似から始まったテストシュートは、髪型をバッサリとショートヘアにしたところから、また新たな道を進むことになります。

◆自分の身は自分で守る

ショートヘアにして徐々に写真を撮れるようになってから、声をかけてもらう機会が多くなりました。それは、いい写真が1枚どんっとあったことや(詳しくは、note「1枚の写真がモデル人生を変える」をご覧ください)、新人で声をかけてもらいやすい立場にいたこともあるでしょう。

私自身も撮影に夢中になっていき、様々なテストシュートに意欲的に取り組んでいました。そんなノリに乗っていた時期に、私は初めて、恐怖を覚えることになります。

この日も朝からテストシュート。ロケとスタジオの両方で撮ることになっていました。
スタジオに入ると、中には男性フォトグラファーしかいません。いつもの撮影だと、フォトグラファー1人、ヘアメイク1人、モデルの私を含めた3人が最小人数です。

ヘアメイクさんが来ていないことを不思議に思って聞くと「今日はポートレートだからいらないと思って」とのこと。正直戸惑いました。事前に言ってくれていたら、こんなボサボサな頭で来なかったのに…!という軽い不満も覚えましたが、それよりも、フォトグラファーと2人きりという急にできた空間が、妙に私を緊張させました。”でも、こういう撮影もよくあることなのかもしれない…”と、自分の不安な気持ちに蓋をして進みました。

撮影が始まってしばらくすると、「胸は手で隠していいから」と上半身の服を脱ぐように言われました。え…なんで?と抵抗はあったものの、指示にNOと言う選択肢が私の中には無く、この業界ではこういう要求も普通なのかもしれない…と思い、受け入れてしまいました。

けれど、そもそもそういう写真が欲しいかったわけではないし、気持ちが追いつかない状態でのその格好は、私にとって恥ずかしい以外の何物でもありませんでした。やってみたものの、私の気持ちは、カメラのシャッターが切られる度に疑問から羞恥・恐怖へと変わっていきました。

さらにその状態でスタジオの床に寝っ転がるように言われ、その人が私の体を跨いで真上から撮ったことは、今でも不快な記憶として鮮明に残っています。そういう撮り方もあるかもしれないけれど、その瞬間、血の気が引いていくような感覚を覚えました。”なんでこんな撮影受けちゃったんだろう…”心の中で強く強く思いました。

新人の私は、何が普通で何が普通じゃないのかわからない、と常々感じていました。だからこそ、自分が経験していないだけで、こういう撮影もあるのかもしれない、恥ずかしくても我慢しなければいけないのかもしれない、言われたものはこなさなければいけない…そう思ってやってきた撮影はいくつもあります。

けれど、今思い出しても、やらなくてよかった。断ってよかった。嫌な気持ちを抱いたまま撮った写真は、絶対にいい写真にはならないのです。その業界で「普通か普通じゃないか」は関係ない。たとえ仕事だとしても、自分が辱められたり惨めになるようなものは断らなければいけなかったのです。

もちろんマネージャーに相談すれば、細心の注意を払って組んでくれるけれど、現場では急に無茶な要求をされることも多い。事前に言っていたことと違うなんて、たくさんあります。それに加えて、人は直接頼み事をされると断りにくいものです。

また、別の現場でのこと。海外誌の撮影現場で、一通り撮り終わった後に、フォトグラファーのパーソナルワークの写真を撮ると言われました。

体にペイントして撮りたいと言われ、承諾しましたが、まさかの全裸(確かTバックショーツは履いたままだったと思いますが)。ペイントは上半身に文字を書いただけ。けれど、下も脱いでもらって全身で撮りたいと言われました。

スタジオの真ん中にポツンと立ち、カメラには背を向けて顔だけ振り向く形。真っ白な壁に囲まれた明るい中で、背中からお尻、足の先まで全て見せて立たなければいけないことを理解したときは、今すぐに逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。

加えて、照明の調整のためにアシスタントの男性が体の正面側に断りもなく入ってきたときは、恥ずかしさと怒りで泣きそうになりました。撮影したのは女性のフォトグラファーでしたが、同性だからといって嫌な気持ちにならないかと言われたら、そんなことは微塵も関係ありません。

事前にこういうポーズで裸で…と言われていたら、マネージャーと一緒に断っていたでしょう。しかし、そういう断られやすいものについて、頼む側は特に曖昧にしがちです。行ってみたら、想像していたのと違う…そんなとき、今だったら自分で断ることもできますし、「事務所に確認します」と言って間接的に断ってもらうこともできます。…ただ、当時の私にはできなかった。

それは渡航した先のNYでもありました。テストシュートの依頼が来たというので行ったら、フォトグラファーと2人きりだったこと。しかも場所は、彼が住んでいるアパートの一室だったこと。その状況だけで、私からしたら恐怖でした。
そのときも、下は下着だけでと言われて撮りましたが(なんの色気もないショーツを履いててよかった!)、結局使える写真にはならなかったし、まずそういうことを事前に事務所に伝えていない時点で、その人への信用はなくなりました。

そんなとき、アメリカでは、そういった2人きりの撮影でモデルが襲われる、辱められるという事件が多発。フォトグラファーのブラックリストまで出回るほどでした。それは何も男性フォトグラファーと女性モデルの組み合わせに限ったことではありません。同性同士も然りでした。

どんなに写真が欲しくても、何か違和感があったり、自分の要らない写真だと思ったら断る。それはとても勇気の要ることですが、自分の気持ちに蓋をして撮ってしまうことは、後で必ず後悔が残ります。モデルは、自分の顔が写真となって表に残ってしまいます。けれどそれよりも最悪なことは、そのとき感じた恐怖が記憶として残ってしまうこと…そんなことは絶対に避けなければいけません。

私が経験したことは、もしかすると、他の人にとっては何の問題もないことかもしれません。けれど、それは個人の許容範囲の違いです。

モデルだから裸を見られることに抵抗がない…?周りが勝手に思っている、都合のいい考えです。皆が皆、同じ羞恥心を持っているわけではありません。自分が心からYesと言えるもの以外は、断ること。その上で、自分のできるものを極めたらいいのです。

◆終わりのないもの

そんな経験もありましたが、それ以上に多くの素敵な経験に恵まれたこともあり、現在も私はテストシュートを続けています。常にアップデートしたいという気持ちに加えて、より良いものを求めて皆の力を出し合う撮影が、仕事という枠を超えて大好きだからです。

新人の頃に比べると、テストシュートの数は圧倒的に減りました。それは年齢を重ねると仕事が減っていくと言われたことに関係があるのかな…と落ち込むもありましたが、この考えは、この前会ったある人とのやり取りで変わりました。

「AMIちゃんってまだテストとかやってるの?」と聞かれて、もちろんやってます!テストシュートやりたいです!と答えたら、「え!」と驚かれました。
話を聞いてみると、どうやらテストシュートをするのは写真がまだ揃っていない新人がほとんどで、モデルは仕事をし出すとテストをしない、と思われているよう…そんな馬鹿な…!

確かに、有難いことに、私の手元には仕事でできた素敵な写真がたくさんあります。でも、それとこれとは別の話。ただ撮影が好きだからやっていきたい。それにまだまだテストシュートで違う自分に会いたい…!(本来の趣旨と違うのは、私かもしれません)

だからこれからも、新人のときのように、テストやりたい!と叫んでいこうかなと思います笑
モデルをやっている限り、この気持ちは変わりそうにありません。もし、私が撮影に対してそう思わなくなったときは、もしかしたらモデルを辞めるときなのかもしれません。

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