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自分じゃない自分になりたかった

モデルにとって嬉しい写真とは、やはり自分の顔がしっかり出て格好良く写っているものだと思っていました。顔が出てなくて誰かわからない写真なんて、撮っても何の得にもならない…全然嬉しくない…。

そんな気持ちは、あることをきっかけに変化していきました。その変化によって、現場での妙な緊張感がなくなり、仕事の幅が広がっていった…今回はそんなお話です。

◆顔の写りを気にして、一喜一憂する日々

新人の頃は、BOOKに自分の体型や顔立ちがはっきりわかる写真を入れたい・入れなければならないので、もちろん顔が写っていないものや隠れているものは論外。作品撮りでは、できるだけシンプルに自分という素材がわかるような写真を撮ってもらっていました。

けれど、仕事ではそうもいかない。モデルの仕事は基本、商品ありき。服を見せること、ヘアメイクを見せることが最優先のため、しばしば顔が映らないポージングを要求されることや、モニターを覗いたら首から下しか写っていないなんてことも。

BOOKに入れたいのに顔が写っていないことへの焦り、それに加え、元々自分の顔にコンプレックスがあったためか、写してもらえないのは自分が良くないからだと、余計に落ち込んでいました。

◆自分が自分じゃなくなる瞬間

ネガティブな気持ちが変わり始めたのは、撮影で派手なヘアメイクをしてもらうようになった頃でした。

一重を強調するようにすっと真横に引かれたアイライン、ぽってりと塗られた赤リップ、一直線に切りそろえられたおかっぱヘア…自分とは別の何者かになりたかった私にとって、それは自信のない素顔を隠してくれる最強の仮面であり、より一層表現に集中させてくれる導入剤のような存在でもありました。

鏡の前で別人になった私は、自分の中にあるイメージに従い、ポージングや表情を試すことに夢中になっていきました。(思えばこのときから少しずつ、顔の有無を気にしなくなっていたのかもしれません。それよりも、ただただ色々な動きを試すことに夢中でした)

私は私で自由に動くから、その瞬間をうまく切り取ってもらえばいい、その中で一番格好いいと思うものを選んでくれたらいい、そう思うようになりました。それがたとえ、顔が写っていない写真だとしても…望まれているものが作れたならそれでいい。そうして選ばれた写真は、意外にも、私も含めた皆の意見が「これが素敵!」と一致しているものばかりでした。

こうした心持ちで撮られていくうちに、ビューティーの撮影が増えていきました。バストアップで構成される世界は、細かい作業をコツコツと進めるのが好きな私にとって、とても興味深い世界でした。

自分の目の細め方や開き方、口角のちょっとした上げ下げ、口をしっかり閉じたかと思ったら、今度は逆にわずかな隙間を作ったり、顔の向きを1mm単位で動かしてみたり、遠くを見ていた目で急にカメラをとらえたり。

バストアップと言っても、ときには首から上や、目のクローズアップといったとてつもなく限られた範囲を写すビューティー撮影では、こうした細かな動きによって、写真の印象が大きく変わります。小さな枠の中で試行錯誤しながら形にしていく時間は、それは魅力的なものでした。

◆隠す魅力

そんな時間を楽しんでいるうちに、今度はファッションの仕事がやってきました。そしてその中に、私の気持ちをさらに変化させてくれる撮影との出会いがありました。

それはLOOK BOOKの撮影。途中でハットを目深にかぶるルックがありました。撮影の際もフォトグラファーから、「顎を下げて、目を隠す感じで」という指示が。

そのときに私が真っ先に思った気持ちは、「顔写らないんだ…」というネガティブなものではなく、「チャンス!」というポジティブな気持ちでした。

それまでにビューティー撮影が続き、顔の細部まで気を遣わなければいけなかった私にとって(顔全体に神経を使うことは、楽しくも気を張り続ける大変なものでした)、口元だけに集中できるのはなんと余裕のあることか…!そして、目を隠すことによってこれほど表現の幅が増えるだなんて、、!私にとっては新たな発見でした。

口元だけの世界観が、楽しい。目元を隠した私は、突然何かから解放されたように自由になった心地で、なんだってやっちゃうんだから!といつもより大胆な気持ちになったことを覚えています。

あれだけ「顔が写らないと意味がない」と思っていたのに。上がりを見ても、そのカットが一番好き!と思えるくらいに、とても素敵なものになりました。

◆顔が写らないという自信

様々な撮影をしてきた今なら、顔が写らないカットがあるのも理解できるし、この服を見せたいなら自分の顔が隠れてる方が格好いいかも…?と自ら写らないようにポージングすることさえあります。

そんな私が今思うのは、顔が写らないってことは、それだけ他のパーツが信頼されているということ。

たとえば、顔の下半分しか写らないビューティー撮影は、顎の形、唇の形、少しだけ写る可能性のある鼻の形が重要で、実は誰にでもできる仕事じゃない。背中しか写らない撮影は、ネックレスを垂らしたときに綺麗に見える背中しか選ばれないし、指先が美しくないと指輪の撮影には呼んでもらえない。ショーでサングラスをかけるのは、サングラスの似合う骨格をしているから。ハットを目深にかぶるのだって、、、以下略です。笑

顔が写らないということは、その他のパーツでも勝負ができるということ。どんなパーツも、綺麗にしておいて損はないということ。

私の場合は、撮影で横顔しか指示されない時期がありました。4ページのファッション撮影で、全部横顔なんてことも…!そのことから正面顔に自信が持てなくなったこともあったけれど。。それは受け取り方の問題だったんだな、と今になって思います。みんながみんな「横顔!」と言ってくれるくらい自信を持っていいということなんだ、と思い直したら、それまであったネガティブな気持ちがふっとなくなっていきました。

何かが「いい」と言われることって、他がダメなんじゃなくて、それが特出しているということ。バリバリ自信を持っていいということ。いいと言われる部分はとことん信じて伸ばしていって、困ったときにはいつでも取り出せる、そんな頼もしい武器の一つとして持っていようと思いました。

また、何かが特出している人は、その噂が広がって終いにはその他の部分でも取り上げられるようになるというストーリーを、目の前で何度も見てきました。
実際に私も、横顔の多い時期が終わると、正面顔を求められることが増えていきました。こればっかり…と思うこともあるけれど、続けていくと、それが実は人生のほんの一瞬の出来事だったんだと気づきます。だからこそ、めげずに信じて続けていきたいものです。

ちなみに最近では、ショーでサングラスをした私はるんるんです笑。以前の私だったら、「また目を隠された…!」とマイナスに感じていたことでしょう。けれど今は、隠れている方が気持ちが入りやすく、自分だけれど自分ではない感覚になるので「サングラス、似合うでしょ?」という気持ちで堂々と歩くことができます。
それとは逆に変わらないのは、素顔だと変身できていないのでちょっと自信がなくなること。これもいつしか変わるのでしょうか…?次なる変化が待ち遠しいです。

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