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環境で自分を変える

2016年、ミラノの事務所が決まったのは、NYファッションウィーク(以下FW)に向けてオーディションを受け始めていた8月。所属決定の連絡とともに、急遽ミラノFW(以下MFW)にも参加することが決まりました。

NY、ロンドン、ミラノ、パリの順で開催される世界四大コレクションは、1週間毎に次から次へと続いていくかなりタイトなスケジュール。
私もNYFWが終わった翌日、余韻に浸る間もなく、すぐさまミラノへ出発。バタバタなミラノ2週間生活が始まりました。

◆ミラノの洗礼

FWのオーディションは、早くて2週間前から始まります。でも、私が到着した時にはすでにMFW開催の1週間前。
先に現地入りしていたモデルによると、有名どころや日程の前半に行なうブランドのオーディションは、早い段階で終わってしまったとのこと。それでも、後半のショーに出るべく、残りのオーディションを回ることとなりました。

その時がミラノ初上陸だった私は、土地勘がないため、指定されたオーディション会場に行くのにも一苦労。google map片手に行ったり来たり。
ようやく会場に着いたと思ったら、今度は長蛇の列。NYのオーディションには相当数のモデルが来ていましたが、ミラノも負けず劣らずな印象でした。

会場に着くと受付でチェックインし、自分の番号を把握、ある程度順番が近くなってきたら並ぶ、もしくは呼ばれるということが多かったのですが…ミラノは様子が違いました。

一度、あまりにも列が長かったため、待ち時間に一旦外に出たことがあったのですが、、


戻ってきた際に自分の番号を再度受付用紙で確認し、並んでいるモデルたちに「あなたは何番?」と聞くと、「さあ?知らない」とちょっと意地悪な返答。

どうやら番号関係なく、来た順で並びっぱなし。受付担当者や順番を整理する人も不在だったため、自然とこういうことになったようでした。。NYだったら、みんな番号を教えてくれて、順番通り列に並ばせてくれるのに。。

郷に入っては郷に従え、です。結局、100人はいるであろう列の最後尾から並ばざるをえなくなり、余計に時間がかかってしまいました。

◆オーディションの立ち回り術

また、別の会場ではこんなことも。

正面玄関から入ると、まずオーディション場所と思われる、長机に椅子が3つ並べられたスペースがあり、その奥に中庭が見えました。
来たモデルから順番に中庭に通され、列を作ってオーディションが始まるのを静かに(みんな疲れてたから静かだった笑)座って待っていました。

と、急に中庭にいたモデルたちがザワザワとし始めました。窓から室内の様子が見えるのですが、なんと、、中庭で先に待っていたモデルたちを差し置いて、たった今入り口から入ってきたモデルたちからオーディションが始まっていたのです…!!

これには待っていたモデルたちも激怒。皆が室内に入ろうと、小さなドアに一斉に押し寄せました。私が到着した時点で30〜40人はいたので、それは悲惨な光景に。。自分たちが抜かされたことに怒っているし、順番が関係ないなら誰よりも先に行きたいというモデルたちの気持ちが伝わってくる、凄まじいものでした。

私はというと、一瞬その光景に怯んでしまいましたが、客観的に見ている場合じゃない!これは自分も行かなければそれこそ何時間も待つことになるぞ、、!とすぐさまスイッチを入れ、その波に突入。ドア寄りに並んでいたためまだ良い方でしたが、おそらく最初に来ていたモデルはドアから一番遠い場所に座っていたので、なんとも可哀想なことになりました。

ようやく中に入ると、そこはもうさらにカオスな状態。横10人ほどの列を作って並んでいたのですが、みんな我先にと前に並ぼうとする。何も事情を知らずに入ってくる入り口からのモデルと、怒りに身を任せた中庭からのモデルでごった返し。

私なんて「あなたが前に行ってくれないと私が前に行けないじゃない!」と後ろのモデルに怒られ急かされ。。怖かった。。

ちなみに、その様子を見ていたデザイナーやディレクターは何も言いません。彼らにとってはこちらの順番の問題なんてお構いなし、淡々とオーディションを進めていました。
なかなかにイラっとする状況でしたが、それを態度に出しても仕方がない。こちらも自分のことに集中して歩くのみでした。

ちなみに、中庭ではたまたま合流した友人モデルと一緒に並んでいたのですが、彼女はカオスな状態になった瞬間にうまく前に行き、私よりも30分先にオーディションを終わらせていました。

ミラノではそういった立ち回りのすべも必要なようです。FW後半戦ではみんな疲労困憊状態なので、いかに自分が休む時間を多く確保できるかも大切になってきます。

ちなみにそのカオスなオーディション、受かっていました。本番の写真。


◆1人の動きが業界全体を変える

実はMFWのオーディションを受けているとき、1人とても気になるモデルがいました。

並んでいたときに真っ先に目で追ってしまったその子は、アジア人(後で聞いたらマレーシア出身のモデルでした)。背が大きくて目立っていたのはもちろんですが、それよりも鮮烈な印象を放っていたのは、口元の真っ赤なリップ。

それまでNYでしかオーディションを受けていなかった私は、赤リップでくるモデルなんて見たことがなかったし、特にショーのオーディションでは「メイクを落としてほしい」と会場でメイク落としシートをもらうことさえあったので、基本メイクはしないで行くものと思っていました。だから、彼女の姿は私にとってかなりの衝撃。

西洋から見たアジア人のイメージを最もわかりやすく表現したその顔立ちは、同じ人種の私が目を奪われたのはもちろん、現地のデザイナーたちの興味も引いたようです。結果、様々なブランドのショーで彼女を見かけることとなりました。

同じショーに出たときには、順番が前後だったということもあり、少しだけ話す時間がありました。
彼女はお喋り好きで笑顔の多い、けれど意志の強さも持ち合わせた、同じ女性から見ても格好いいモデルでした。歩く姿も颯爽としていて素敵だった!

この衝撃的な出来事があった約1年後、日本でも赤リップをしてオーディションにくる子を見かけるように。自分の個性を活かそうとしているその姿に、従来のオーディション環境が世界規模で大きく変化しているのを感じました。

◆たかが2週間、されど2週間

怒涛のショーが終わった後も、撮影で急遽ミラノを出てボローニャに行ったり、遊園地で撮影予定だったところを警備員の人に怒られてフォトグラファーがこどもみたいに激怒する様子を見たり笑(許可取りしてなかったみたいだからね。。)、滞在していたアパートでは途中から知らない男性とシェア生活をすることになったり…本当に色々な出来事が起こり、とても濃い日々を過ごしました。

そんなバタバタな中で唯一感じた、ミラノの良かった点は、英会話。
NYではかなり苦戦していた私ですが、ミラノではイタリア語訛りの英語だったため、こちらの方が聞き取りやすく(イタリア語は日本語の発音に近いからかな)、やり取りが簡単にできたのを覚えています。
普段なら絶対にしたくないマネージャーとの電話連絡も、ミラノにいるときは自分からかけたくらい。第二言語同士の会話って結構楽しいなと思ったのは、この時が初めてだったかもしれません。

総合的に見たらかなりハードで、帰国後すぐは、もうミラノには行きたくない!とまで思いましたが、この「たった2週間」と言える経験が、私をまた一段とタフにしてくれたことは疑いようのない事実です。
でも、次は仕事じゃなくて、プライベートで行って楽しみたいなと思いました!

(って言って、この数年後にまた仕事で飛んだんですけどね笑)

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