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「法律なんでも1000」No.021 他人(ひと)任せこそ、ひとの道

これは、神田英明氏が発行するニュースレター「法律なんでも1000」のバックナンバーです。

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 歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵の合計数をご存じでしょうか? 答えは、53枚ではありません。53ヵ所の宿場数にスタートの日本橋とゴールの京都三条大橋を加えた55枚です。
 では、江戸時代の人は日本橋から京都までを何日間かけて歩いたでしょうか? 53日間ではありません。答えは、14日前後です。492kmの距離を時速4.4kmで1日8時間、35kmも歩いている計算になります。
ところで、東京-京都の移動時間は、東海道新幹線のぞみ号に乗ればたった2時間10分です。夜行高速バスや青春18きっぷ(各駅列車を5回乗り換え)では7~8時間で、ローカル路線バスの乗継ぎ(一部に徒歩移動)の場合は7日間だそうです。
今まで何度かお勧めしている公正証書遺言の話に喩えますと、(イ)公正証書遺言はあたかも2時間の新幹線のぞみ号に、(ロ)自筆証書遺言は7日のローカル路線バス乗継ぎの旅に、(ハ)遺言がないケースは14日の徒歩移動に、ちょうど喩えられます。徒歩移動で京都に辿り着けば良いのですが、何かしら問題点があり、専門家の力を借りてやっと何とか到達するというのが現状です。一緒に徒歩旅行に同行しなければならない司法書士や弁護士は「やれやれまたですか」と頭の中で思うことしきりです。

 今回は専門家の力を借りるメリットについてのお話です。上記は遺言の喩えでしたが、以下は、各都道府県の新型コロナウイルス感染症拡大防止協力金を例にして説明します。
 行政書士に3万円支払って処理したA店主は天国、かたや自力で協力金申請にトライしたB~E店主は地獄だったというお話です。

B 世の中に存在するあらゆる補助金の類は、その存在を知らなければ申請も出来ません。※残念なことにB店主は補助金の存在を知りませんでした。

C 当該補助金の存在を知っていても、締切日までに申請しなければ1円も貰えません。※残念なことにC店主は数時間遅れてしまいました。

D 締切日を守って申請したとしても、支給要件を全て満たさなければ1円も貰えません。※残念なことにD店主は時短を知らせるチラシを作成して店頭に貼るのが一日遅くなってしまいました。

E 要件を満たしたため通常の補助金はもらえましたが、なんと特別補助金というものがありました。※残念なことにE店主はそれに気付きませんでした。

 このようにB~E店主は行政書士に3万円を支払わなかったばっかりに最大360万円(一日あたり6万円×補償期間60日間と仮定した場合)の協力金を逃してしまったのです。

 ところで、残るF店主はB~E店主のようなミスをしまいと時間をかけてネットで情報収集し、自信満々に申請しました。しかし、結果は不支給でした。チラシを写真撮影したものの、その背景が全く写っていなかったために「チラシを店頭に貼ったこと」の証明がないとされてしまったからです。
 F店主、頑張ったのに大失敗でしたが、今となっては逆に良いきっかけになったと大満足です。というのは、このミスをきっかけに常に専門家に依頼するという方針に変更したところ、自分一人では絶対にゲットできない有益情報をゲットできるようになったのみならず、全ての時間を本業に専念できるので、見違えるほどの成果が出たからです。その経験をもとに、税金、保険、年金、相続その他すべてのジャンルに専門家パワーをフル投入して、今や大成功を収めています。

 外注は利益をもたらすという話を人生全体の話に拡大しますと、人が不老不死だったら、全ての事を自分で行っても良いでしょう。しかし、人生は有限です。有限の時間をどう割り振るかで人生の質が全く変わります。
少々壮大な話になりますが、人類が高度な文明を築いたのは、人が高度に社会的動物だからです。集団の中での役割分担が人類としての発展を築きます。それぞれが自分の専門に専心して技術を磨き、次世代はそれを継承して更なる技術革新をするという形が人類の発展をもたらしました。
 昨日は中秋の名月でしたが、例えば、宇宙開発者が自分の衣食住、すなわち、食糧としての米や肉や、衣服、家財道具や建築を自給自足しなければならないとしたら、何百億年掛けても、人類は月に降り立たないでしょう。
人が人としての性質に適合した生き方は、自給自足ではなく、どんどん他人(ひと)任せにする、餅は餅屋的生活なのです。自分が得意な専門分野のみに注力し、他は外注する。それにより実効性ある結果が伴い、人生が充実したものとなるでしょう。
自律した人生の為には、「何をするか」ということ以上に、「何をしないか」の選別がとても大切なのです。決断力を持って他人(ひと)任せにしましょう。そうして捻出した時間の多くを、あなたが得意かつ好きなことに費やされてはいかがでしょうか。そうすればより自律的な人生になり、そのような生き方が主流になることで、人類はますます発展していくことでしょう。

「なんでも1000」No.026>「法律なんでも1000」No.021

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神田英明(民法学者・東京弁護士会弁護士)

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神田英明氏のプロフィール

民法学者(明治大学)、弁護士(東京弁護士会)、法曹教育の第一人者(司法試験首席合格、20歳合格者を輩出)。教え子弁護士が全国各地に100人。
自身の海外経験をもとに、遺産相続に関するミュンヘン講演(在ミュンヘン日本国総領事館後援)や「親が認知症になる前にすべきこと」のフランクフルト講演、「脳が喜ぶ勉強法」という教育に関するデュッセルドルフ講演、さらには国をまたいだ往来が気軽にできなくなった状況をふまえ、世界規模でのzoom講演(「日本にいる老親のためにすべきこと」など)を開催中。
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