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ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ

温泉日記vol.1【露天風呂 水沢温泉】

1.瑠璃色の湖

田沢湖は空の色を映していました。

鏡のように穏やかな湖面は、訪れる季節と時間によって、その表情を変えます。

時として、夏の日の夕焼けを反映し、鮮やかな朱色をしていたり、また時として、秋の日の曇天の午後には、くすんだ鈍色をしていたり。

ただ、その日の田沢湖は目が覚めるような、見事な瑠璃色をしておりました。

2.これより先にガソリンスタンドはありません。

今回、訪れたのは湖畔から車で20分。駒ヶ岳の麓にある水沢温泉郷です。

温泉へと向かう山道の入り口には、エネオスのガソリンスタンドがあり、「これより先にGSはありません」という標識が、ドライバーを警告しています。

確かにその先には、エネオスも出光もコンビニもなく、当然のことながら、スターバックスもありません。

緩やかな傾斜が続く山道を進み、「田沢湖高原」の大きな地図が描かれた看板のところで、右に曲がり、脇道に入ります。

そこから先は、やや急な坂道となっていますが、心配することはありません。わずか800メートルほどで、すぐにブナの木を模した「水沢温泉」のモニュメントが見えてきます。

ちなみに先ほどの分岐をそのまま直進し、つづら折りの山道を抜けると、田沢湖高原温泉郷。そして、その奥には乳頭温泉郷があります。

どちらも共に素晴らしい温泉で、特に乳頭温泉郷の鶴の湯は、全国的にも有名ですね。

ただ、僕たち原住民からすると、観光地化されていて、いささか商業的にすぎるという感じがします。

アトラクションとしては楽しいと思いますが、山道を登っていくのも大変ですし、海外からの観光客で騒がしいし、森の熊さんに出会う危険性もありますので。

もし、あなたが「本物の温泉」を求めていて、お湯さえあれば、他に何もいらないというのであれば、そこまで行かずとも十分に「本物」を味わうことができます。

それが今回ご紹介する、温泉施設「露天風呂 水沢温泉」です。

3.温泉地の顔役

場所は「水沢温泉」のモニュメントのすぐ後ろ、まさにこの温泉地の顔役です。

駐車場が坂道に段々畑のように連なっており、第3駐車場まで設置されています。60台ほど駐車できるということですので、初心者の方、運転の苦手な高齢者の方でもご安心ください。

ちょっとした秘湯気分を味わえるのに、実はアクセスも良いというのが、この温泉施設の美点でもあります。

受付で入湯料(500円)を支払い、建物の中に入りました。男湯は廊下のつきあたりにあります。

初めて訪れた方であれば、まず脱衣所の広さに驚かれることでしょう。

男湯と書かれた暖簾をくぐり、年季の入った木の扉を開けると、脱衣所が左右に分かれて、二つあります。ロッカーも二つ。洗面所も二つあります。

なぜ、このような造りにしたのかは、さだかではありません。

もしかすると、建設当初は男湯と、女湯に分かれており、その後に気前よく、壁を取っ払った…というストーリーを考えたのですが、誰に聞いても明確な回答は得られなかったです。

貴重品を(右側の)ロッカーに入れ、服を脱いで、いよいよ浴室に入ります。

浴室へと続くガラス扉も二つありますが、どちらか片方の扉を選ぶと泥んこになる…というような、ウルトラクイズ的な仕掛けはありませんので、ご安心ください。

4.微かな青みを帯びた白濁の湯

硫黄の匂いが充満した浴室には、やはり内湯が左右に二つ。

それも、並みの旅館であれば、片方だけでも、大浴場と命名されるような、大きな湯船です。

その大きな湯船に、微かな青みを帯びた白濁の湯が、惜しみ無く注がれています。

水沢温泉郷には、20件ほどの旅館やホテルが点在しておりますが、独自の源泉を保有しているのは、この「露天風呂 水沢温泉」と同系列の「水沢山荘」の二軒のみ。

つまり、ご近所さんの顔色を伺わずに、毎分1,000リットルの湧出量を誇る源泉を、(まさに湯水のごとく)ジャブジャブと使用できるわけなんです。

左側の湯船が「ぬるい湯」。右側の湯船が「熱い湯」となっています。ここの源泉は59℃もあるため、清掃などの換水時に水を加えて、温度調整をしています。

それでも「ぬるい湯」は42℃。「熱い湯」に関しては、44~45℃とかなり高めに設定されております。

その日の体調と相談して、3分入ったら、3分休むというようなローテーションを組まれた方が良いかもしれませんね。

テクスチャーは軽やか。
ph6.6の弱酸性のお湯は、ぬめりの少ない、さらりとした感触をしています。

「しっとり+うるうる」というよりは、
「さっぱり+スベスベ」という感じでしょうか。

ただ、温泉成分が強烈なのと、硫黄が含まれておりますので、肌の弱い方、特に乾燥肌の方は、ご自身の肌との相性を確かめながら、入浴なさってください。

内湯を堪能した後は、締めの露天風呂です。
ここの露天風呂は、広さがちょっとしたプールぐらいあり、深さも1mあります。(そして、やはり二つ…。)

噴出、奔流、横溢。

そこには、まさにあなたの望む「本物の温泉」が満ちています。
浴槽は、かなりの広さがありますから、先客が居ても、気になりません。

日頃の人間関係のストレスなども忘れて、ただただ、お湯との対話に集中することができるのです。

清涼な初夏の風に吹かれながらの露天風呂は、格別ですね。
浴槽からオーバーフローしたお湯を眺めているだけで、元気が出てきます。

ここの温泉には、サウナがありません。
それどころか、寝湯も、ジャグジーも、電気風呂もありません。

その代わりにお湯だけはふんだんに、汲めども尽きぬほどあるのです。

「温泉にはお湯があれば、十分だろ!」

そのようなソリッドな佇まいが、僕はどうしようもなく好きなのです。

5.村の緑を守る会

水沢温泉をあとにし、炭酸ジュースを飲みながら、車を走らせました。

カーステレオからは、ザ・キンクスの『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』が流れています。

レイ・デイビスがこの曲を書いたのは、1968年のことで、世界はベトナム戦争の戦火と、麻薬のパープルヘイズの中で混沌としていました。

そんな激動の時代に、彼は架空の村の、架空の共同体を舞台にした、少し風変わりな歌を書いたのです。

我々は「村の緑を守る会」

神様。ドナルドダックと古くからの娯楽をお守りください。
神様。ストロベリージャムをお守りください。

彼は古くからの田舎の風景を称賛し、他にも多数の文化の保護を、神様に訴えます。

「生ビール、カスタードパイ、ビリヤード台、ドラキュラ、小さなお店…」

レイ・デイビスは、変わりゆく時代にあっても、変わらないことを求め、その思いを自らの音楽に付託したのです。

我々は「村の緑を守る会」

神様。ドナルドダックと古くからの娯楽をお守りください。
神様。村の緑をお守りください。

やがて、車はエネオスのガソリンスタンドの前を通り過ぎます。
僕の着ていたワイシャツの襟ぐりから、ふわっと硫黄の匂いが漂ってきました。

【日帰り温泉データ】
○泉質…含硫黄・カルシウム・マグネシウム・ナトリウムー硫酸塩・塩化物泉(硫化水素型)
○使用位置…42℃
○料金…500円。(ホームページだと600円になっていますね。でも、確かに500円です…。)
○バリアフリー…館内はバリアフリーになっておりますが、浴室へ入るところは結構な傾斜をしております。介助者の方がいれば、安心です。

(「露天風呂 水沢温泉」ホームページ)

http://www.tsukamoto-sogyo.co.jp/mizusawa/index.html

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