誠実でありたい。
誠実でありたい。
この一年で、師と仰ぐ人から学んだ一番大きなことかもしれない。誠実でありたい。【誠実さ】の重要性に直面する日々だ。ビジネスでも、クリエイティブでも、生活においても。
「簡単なスマホの設定もできない老人からサポート料を取る携帯ショップ」が叩かれていた時期がある。商売の基本は裁定だ。「誰かがお金を払ってでも欲しい物(やってほしいこと)を安く買い付ける(実現する)」ことで、差額が稼ぎとなる。スマホの専門家である携帯ショップが、老人相手のサポートを商売にするのは正しい。
けれど、叩かれてしまった。私個人としても、悪くはないけれど、よくないことだと思う。そこに横たわるのが【誠実さ】の問いだ。
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誠実であることは難しい。強く意識しなければ、私たちはすぐに不誠実に生きてしまう。
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誠実であることは難しい。「商売の基本は裁定である」という前提を踏まえると、特に難しい。
お金を稼ぐには貿易商になるのが一番だ。売りたい人と買いたい人、両者を繋ぐことで生まれるビジネス。誰かが知らないことを知っている=情報強者であることが商売になる。
ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』を引き合いに出すまでもない。「ほとんど賛成する人がいないような大切な真実とはなんだろうか?」まだ見ぬ新世界との貿易で誰も知らない真実を知るのが、最高の商売であり仕事なのは当然のことだ。
けれど最も誠実でいることが難しいのが、この貿易商でもある。その理由は、情報をひとところに押し込めておくのは不可能だからだ。
人の口に戸は立てられぬ。加えて今はインターネット、SNSの時代。自分が買ったものの製造過程や原価すらも、検索すれば簡単に呼び出せる。「不当に安く買い叩いている」なんて言い掛かりを相手にする必要はない。けれど、自ずと拡散する情報を無理に隠匿・独占したり、短縮できるやり取りに無理に分け入って冗長にしたりするのは、どんな言い訳をしても己の利益のための不誠実だ。
あくまで貿易商として継続的に大きな利益を生むならば、次々と新しいことを知る旅を続けるか、不誠実に走るしかない。(先に引用したピーター・ティールが言っているのは前者。世の中の誰も知らない真実を手に入れて、すべての人達に売りつけることこそ、最も誠実で、最もお金を稼げる商売だ。)
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リーズナブルな範囲で飛躍しつつまとめると、こうなる。
【1】業界歴=業界の常識・ルールへの理解、キーマンとの関係値を元手に商売するのは、【誠実さ】に欠ける
【2】同じように、「業界に独占された知識」を元手に商売をすることも、【誠実さ】に欠ける
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【2】の具体例として、私の専門領域に寄せたものがある。
シナリオや物語の作り方には「王道」がある。メディアやターゲットに最適化する必要はあるが、基本的には「人々が感動するお話」の筋書きは、同じフォーマットに則っている。(だから、ヒット漫画のアニメ化ができる。)
そしてそのフォーマットは、「三幕構成」として定式化されており、シド・フィールドの教本や、『Save the Catの法則』、『シナリオライティングの黄金則』といった数々の名著で紹介されている。しかしこれを、業界人が「あたかも自分自身の知識かのように」素人やワナビ相手に講演会を開いたり、更には有料noteに転載してお金を取ろうとしている事例が目につく。「巨人の肩に乗っていることを誇る」のは、非常に不誠実で、恥ずかしい振る舞いではないか。
その点、先日公開された『アニメーターの課題集』は、まさしく誠実であり、矜持に溢れた資料だと言える。know-howのみによって商売をするのではない。
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自分の立場を元手にするのではなく、巨人の知識を元手にするのでもない。私たちが【誠実さ】を忘れずに商売をする上で重要なものはなにか。それはスキルだ。
「シナリオライティングの方法論を知っている」ことと、「面白い物語を書ける」ことは違う。「学問としてのデザインを修めている」ことと、「デザインができる」こととは違う。
クリエイティブな面だけではない。営業であれ、エンジニアリングであれ、身につけたスキルこそが身を立てる。立場や知識はスキルを獲得し、活用するための補助線に過ぎない。
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誠実である為には、ただ、スキルによって身を立てなければならない。
誠実でありたい。
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