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新世代ヒップホップとLoyle Carner

前回紹介したJ HASやPa salieuの魅力

それは彼らが自らの生きざまを赤裸々に語っていることにあると思います


アフリカンヘリテージの彼らは社会的・経済的に決して恵まれた環境にあるわけではなく
日本人には想像出来ない人種問題や階級による抑圧の中で生きています

そういった大きな社会問題を背負う彼らの音楽は

どこまでも説得力があり

どこまでも力強い


ヒップホップの特徴として
一般的なポピュラーミュージックより言葉をたくさん伝えることが可能という利点があります

よりストーリー性をもち

より細部を表現する


そのため語り手のキャラクターに深みがあるほどおもしろく、人生の経験値があるほどストーリー性が高くなります



しかしギャングスタやアンダーグラウンドの生きざまだけがストーリーとしておもしろいのか??

ここ数年そんな疑問に答えるように、もっと等身大な生き方を伝えるヒップホップアーティストが増えたように感じます

この人間らしさが愛おしくてたまらないアーティスト、Loyle Carner

サウスロンドン出身のLoyle Carner
ジャジーなトラックと囁きかけるような優しい声は、いわゆるマッチョなヒップホップとはかなり遠い存在

Tom MischやJordan Rakei、そしてJorja Smithなどとのコラボ作品から見てとれるように、その音楽性はモダンでありながら音のひとつひとつはとてもクラシカル
ヒップホップを普段聴かないリスナーを虜にしているということが理解できます


しかし曲のクオリティ以上に注目してほしい最大の魅力はやはりその人柄と生きざまです

彼は自分がADHDと難読症であることを公言しています

ADHDを抱える子供たちのために料理教室をひらき支援活動をおこなったり、自殺を防ぐための慈善活動に寄付するなど、自分がかつて苦しんだことがあるからこそ、少しでも多くの人たちに活躍できる機会を与えたいとインタビューで語っています



また、彼を語る上で欠かせないことが家族の存在です

こちらは彼の継父が突然亡くなってしまった時のことをうたっています
家族への愛と信仰心の深さを感じるこの曲は彼のラップスタイルを象徴する一曲です




そしてこのPVのかわいらしい世界観

ギャングスタラップにありがちな不良少年の軍団や腰を激しく振る女性ダンサーたちは登場しません
黒光りするSUVも、プールも札束も

オットレンギという有名なシェフの名前をタイトルにするあたりも、Loyle Carnerの料理好きという趣味がセンスよく表現されていて素敵です

この曲の中で母親が少女に『雨が降らないと花もそだたない』と伝えるシーンがあるのですが

この言葉もまた人生の雨降りを表現しているようでとても彼らしいです




環境やテクノロジーが大きく変化し、今はひとりひとりが自分の存在を様々なツールで発信していくことが出来る時代です

権力に抑圧された大衆のなかの誰かではなく

ひとりひとりが権力の代わりにパーソナルな存在価値をもつことで、私たちは誰もが第2のLoyle Carnerになることが出来る

彼が特別ではなく

ひとりひとりが特別であり

ひとりひとりがストーリーを持ち

ひとりひとりが自分のことを愛し

世界はもっと美しくなると思っています


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