だから言ったじゃん

彼女の実家に初めて伺った日の帰りの駅で、スマホのゲームをいじりながら彼女はふとつぶやいた。

「あめくんて、人が失敗しそうなとき、後から「だから言ったじゃん」みたいなこと、絶対に言わない人だよね」

なぜわかるのだろう。

「いや見てて言われたことないなっていまふと思ったの」

確かにその通りで、失敗しそうな人を見ても、可能な限りその失敗しそうに思えることを選択するのを黙ってみていられる人になりたいと思っているくらい。

「だからいったじゃない、って後から言ってくる人って、その人が気持ちよくなるために言っているんだろうね。なんで言いたくなっちゃうんだろうね」

上手くいってほしいと思うし、そのうまくいったのが、自分のてがらって思うと気持ちいいよね。

でもあなたもぜんぜんそういうこと言わないよね。

「ううん、私も言いたくなっちゃうときあるもん」

「実はね、うちのお母さんってそういうとこあるんだけど、あめくんは言わないなって思ったの」

お母さんは失敗したくないし、あなたに失敗してほしくない人なのかもね。

「うん、不安なんだよね」

そう思う。子どもだからなおさらだよね。コントロールできると思っちゃう。

「それは二者関係っていうよりも、一体感みたいな感じなのかな」

人って、自分のコントロールできると思ってる範囲がそれぞれあって、例えば車に乗ると気が大きくなるのは、車を操作できることでコントロールできる範囲が広くなったと思ってしまうからだし、でもその分、自己とかの不安も増えるからイライラしやすくなって煽り運転とかしちゃうのかもって思うよ。

子育てもきっとそうだよね。自分の分身のように感じるし、大切だし心配だから不安になってコントロールしたくなっちゃう。

って普通そういうとこまでは考えないよね。

「うん、私もそう思う」

とくすっと笑いながら地下鉄のホームを歩きだす。

いつか子供が出来て成長して、言うことを聞かなくって困っているときに、またこの話を二人で出来ますように。