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とりふね読書感想

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読書にまつわるあれこれ。
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記事一覧

【読書】三島由紀夫『癩王のテラス』とゴシック

「聖なるものは物を否定する運動によって、その運動のさなかに現れる。供犠では犠牲(いけにえ)を滅ぼしているさなかに出現する。芸術作品が聖性を帯びるとき、そこでは物の輪郭・安定性が否定されているのだ。ゴシック大聖堂の装飾芸術のなかで怪物の図像はきわめてよくこの否定の動きを表し、聖性をかもしだしている。」酒井健『ゴシックとは何か』  三島『癩王のテラス』を読み終わり、長く積読し、ちかごろ並行して読んでいた『ゴシックとは何か』のこの箇所が、頭の中で響きあう。作品全体の構造そのものが

【読書】シェイクスピア『お気に召すまま』 Que se cache-t-il derrière la forêt ??? 付 宮澤賢治『狼森と笊森、盗森』 問いのメモ 

アーデンの森は愉快なアジール シェイクスピアの戯曲『As you like お気に召すまま』。ざっくり喜劇に分類されている恋愛中心のロマンティックな作品です。  私は蜷川幸雄演出、小栗旬・成宮寛貴主演のオールメール(全員男性、シェイクスピアの時代は、日本の歌舞伎と一緒)の舞台のDVDを所有しています。  小栗君(オーランドー役)の初々しい演技! 成宮君(ロザリンド役)のドレス姿の美しいこと。(成宮君は諸般の事情で芸能界を引退してしまいました。残念。) あらすじ  舞台は作

【読書】奥泉光『グランド・ミステリー』メモ

ほんの覚え書き程度に。 (大森望さん解説で充分と言う感じなのだ。) 奥泉光『グランド・ミステリー』読了。文庫本P831前後の本多弁護士の戦争についての考察スピーチに沈思。ラストシーンの範子の「オーシーノ公爵とは結婚できませんけれど、羊飼いコリンとなら〜」のことばは温かく、健康な明るさで締めくくられてよかった。 ほんとにたまたま『お気に召すまま』を借りてあった。 『グラ・ミス』に出てきた羊飼いコリンのよき台詞は そしてそれを小説のエッセンスに使った奥泉さんの巧み。 流

【読書】Kokoro: Hints and Echoes of Japanese Inner Life by Lafcadio Hearn心 日本の内面生活の暗示と影響 ラフカディオ・ハーン小泉八雲 岩波文庫

   (とある冊子に寄せた原稿です。)  いつも、特集タイトルについてまず考えるのです。今回のお題は、またなんともむずかしい。  つらつらとテーマを頭の中でころがしていると、「争うこと」と「赦すこと」は対立するガイネンではないのでは…とか考え出すわけです。以前J・デリダの解説書か何かで、「赦しえないものを赦すこと」っていう章のタイトルがあったな…。「赦す」というのは「赦せない」と思うものがある時にはじめて出てくる言葉だ…。「赦せない」というのは、どういうことなのだろう…

【読書】チャイニーズSFの少女たち その壱『草を結びて環を銜えん』ケン・リュウ

(とある冊子に寄せた文章です。) チャイニーズSFの少女たち  この冬(2021~2022)は中華SFばかり読んでいました。以前、中国系アメリカ人のSF作家テッド・チャンの『息吹』をジュンク堂でみつけ、表紙の美しさにひかれてジャケ買いしたのが、中華SFとの出会いです。その後、遡って『あなたの人生の物語』を読みました。ただ、テッド・チャンは非常に寡作で、読める作品集はその2冊しかなく、残念に思っていました。  昨年後半、いつもの密林散歩をしていて、ケン・リュウと劉慈欣(り

【読書】鳥呑み爺のヴァリアシオン    Oiseaux et pets

(とある冊子に寄せた文章です。夏に書いたものです。) 鳥呑み爺のヴァリアシオン  トリ ト オナラ ノ オハナシ Oiseaux et pets  わりと山の近くに住んでいるので、鳥の声はふんだんに聞こえます。鳥に詳しくないのでどれがどの鳥の鳴き声かあまりよくわかりませんが、5月、6月は近所の藪からウグイスの鳴き声が聞こえていました。  今(7月)、庭は薔薇の盛り、日曜日の朝夕は、薔薇の枝や桜の枝の間でスズメが遊ぶ声がかわいらしい。(ただ、夜半にギャオンギャオンとなくキツ

【読書】チャイニーズSFの少女たち その弐『童童(トントン)の夏』夏笳(シア・ジア)(絶対映画化したらいいと思う。)

(とある冊子に寄せた文章です。) チャイニーズSFの少女たち💎その弐💎 『童童(トントン)の夏』夏笳(シア・ジア) (『折りたたみ北京 現代中国SFファンタジー』所収)  医者だったおじいちゃんが童童のうちに来て、おじいちゃんを介護するロボット阿福(アーフー)もやって来た。遠隔で大学生の王(ワン)が阿福のオペレーターとしておじいちゃんを介護しているのだ。阿福は、高齢化社会で子は親の介護がままならず、熟練の介護士も不足する中で開発された第一号試作機だ。  介護される状況

【読書】いくすじもの時間の奔流としての声 ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』

いくすじもの時間の奔流としての声(以前、「時間」をテーマに書いた読書感想です。) ウィリアム・フォークナー 『アブサロム、アブサロム!』篠田一士訳 河出書房新社「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」 『響きと怒り』 (上) (下) 平石 貴樹 新納 卓也 訳 岩波文庫  中学時代に、美術館の絵を見てレポートを書くという課題が出されたことがありました。そのときに、つくづくと考えたのが、絵を「見る」とはどういうことなのか、絵は「見る」ことができるのか、ということです。わけがわ

【読書】シェイクスピア『テンペスト』覚え書き(2007)

シェイクスピア『テンペスト』覚え書き(2007) 遠流の隠者プロスペローは、自らの復讐を成就すべく、魔術によって嵐を起こし、仇敵を術中に陥れます。ただ、この作品における復讐には、たとえば、おなじシェイクスピア作品「タイタス・アンドロニカス」にある、たぎるような憎悪と、むごたらしい惨劇という要素はありません。学問を愛し、すべてを操りうる魔力を会得したプロスペローは、この作品の中では「神」のごとき存在であり、舞台でいうなら「演出家」。(福田恆存は、岩波文庫の解題で、デミウルゴス

【読書】文学の嗜好について

昨日2023.1.5木の須川氏との楽しい談話のあと、近年の自分の嗜好(文学作品などへの)についてもあれこれ考えた。 フォースターの『インドへの道』や、フォークナーの『熊』『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』など。最近ではモームの『雨』『パーティの前に』など。(『インドへの道』はちくま文庫の古本で読んだが、今チェックしたら、なんと河出文庫で去年新しいのが出てる! 訳者が違うから、こっち買ってもっかい読むか…。) 植民地における災禍(性的なヒステリー)や土着的まがごと。