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【読書】チャイニーズSFの少女たち その弐『童童(トントン)の夏』夏笳(シア・ジア)(絶対映画化したらいいと思う。)

(とある冊子に寄せた文章です。)

チャイニーズSFの少女たち💎その弐💎

『童童(トントン)の夏』夏笳(シア・ジア)
(『折りたたみ北京 現代中国SFファンタジー』所収)

 医者だったおじいちゃんが童童のうちに来て、おじいちゃんを介護するロボット阿福(アーフー)もやって来た。遠隔で大学生の王(ワン)が阿福のオペレーターとしておじいちゃんを介護しているのだ。阿福は、高齢化社会で子は親の介護がままならず、熟練の介護士も不足する中で開発された第一号試作機だ。

 介護される状況にいらだつおじいちゃんの癇癪、陰で泣いているママ。パパは外に出ないおじいちゃんの眼になってくれと、眼鏡を買ってきた。眼鏡をかけて外に遊びに出る童童の描写は生き生きしていて、昭和日本の小学生の女の子のようだ。しかし、高い木に登ったのを心配したおじいちゃんに告げ口されて、眼鏡をおいて遊びに出るようになったため、おじいちゃんはまた家の中で手持ち無沙汰になる。

 ある日家に帰った童童は、ボディスーツと手袋で怪物のような姿になったおじいちゃんに驚く。王おじさんのアイディアで、軍隊時代の友人趙(チャオ)おじいちゃんと趙の阿福をつかって中国将棋をさしていたのだ。故郷の方言で友人と会話しながら将棋をさすおじいちゃんはとても楽しそうだ。

 そんなとき趙おじいちゃんが将棋中に倒れた。医者であるおじいちゃんが阿福によって救急処置をして事なきを得た。それからというもの、おじいちゃんは、要介護者でありながら、阿福を操作して全国の高齢者を訪問診療するという多忙な日々を送ることになる。この阿福の使用法は、他の要介護者である高齢者の間に広まってゆく。多くの高齢者たちが、主体的に、創造的に生きる、充実した生をとりもどす。

 王おじさんが言った。「童童、おじいちゃんは革命を起こしたんだよ。」

 遠隔操作介護ロボットを使って、社会や家族の問題であった高齢者が主役になり、自らの人生を取りもどして行く様子が、素直で元気な少女の眼を通して、丁寧にいとおしく描かれる。逆転の発想の小気味よさ。人が「ただ生きていること」が、人の心にどうはたらくか。人が「ほんとうに生きる」ために必要なものは何なのか。それを思い知らされる。

 元気いっぱいで京劇の歌を口ずさみながら過ごしていたおじいちゃんだが、別れの時はやってくる。王おじさんが、病室のおじいちゃんとつながるテレプレゼンス装置を仕込んだクマを送ってくれた。そして…。

 ラスト、久しぶりに本を読んで泣きました。童童がとても魅力的だし、おじいちゃんや王君のキャラクターもしみじみとよい。高齢社会の問題の肝も押さえられている。

 これは「絶対映画化すべきだ!!」と強く思ったことでした。

2022.3.13


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