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『ミッドナイトスワン』で語る(第1回:人物描写)

ごきげんよう。雨宮はなです。
鑑賞記録はすでにありますが、大まかな感想ではなくシーンやキャラクターについて感じたこと「~で語る」の第一回です!

この作品を観て驚いたのは人物描写の細やかさ。これには多くの人が共感してくれると思います。
そう、今回のテーマは「人物描写」です。

ミスキャストがいない、素晴らしい布陣

いくらヘアメイクや衣装、演技で人物描写が素晴らしかったとしても、役者によってその出来栄えはどうしても左右されてしまうもの。
まずはキャスティング。どうしたってキャスティング。
この作品のすばらしさのひとつは、キャスティングだと思います。

ミスキャストがいない。
これにより演技の上手い・下手があまり関係なくなっていたように感じました。この作品においては芝居をするというよりも「その人物として生きる」という表現が適切でした(もちろん、お芝居をしているのですが)。
「その人物として生きる」ことができるか…その役が似合っているかどうかというのがキャスティングにおいて重要だったのではないかと推測できました。

正直、個人的に水川あさみさんの演技を上手だと思ったことがありません。ですが、今回の役はとても合っていると感じたし、”(ピー音)なイチカの母親”に集中することができました。
演技が上手でないのはイチカ役の新人さん然り。リン役の新人さんはハマっていたせいか上手に感じましたが、それすらキャラクターと重なっているようで若干恐怖も感じました。

キャスティングをクリアしたうえでの、視覚的描写

この映画において演出はとても細かく丁寧で現実味を帯びていると感じられました。視覚的描写が観客に与える効果は抜群で、衣装やヘアメイクでその人物の背景や現状を表すだけでなく、セットで環境や精神状態まで表しているように感じられて本当にすばらしかったです。

個人的にいちばんわかりやすいのはイチカでした。キャラクターごとに意識したもの・そう感じた理由を列挙しています。

ナギサ

飾り気はあまり多くなく、体のシルエットがきれいに見えるようなデザインの服を選んでいる。若手キャストのような肌見せはせず、ロング丈で品よくまとまっている。
ブーツはショート丈だけど、赤のレザー。これは、『キンキー・ブーツ』を意識してのことだろうか。
手術が済んでいないとは思えない、女性でもあってもランウェイモデルしかしないようなきれいな歩き方をするのが特徴。

出勤する(LGBTQの描写がある)ときは黒と赤が使われ、イチカに関係するときはベージュを基調とした柔らかい色合いになる…ように感じた。
トップスがやわらかい色・素材(例:ニット)になるのも演出のひとつ?

イチカ

髪・肌の質によって「目を向けられている」かどうかがわかるようになっている。
ナギサと過ごすようになってからは、髪がちゃんととかされるようになり、ボサボサがなくなり、ツヤが出て…という変化がある。肌も肌から髪の生え際までニキビっぽかったりするスタートから、肌が平らになり、おでこもきれいになり、ツヤが出る。
バレエをする人間の象徴ともいうべき、おでこを出したポニーテール姿になったシーンではおもわずにんまりしてしまった。栄養状態も精神状態も健康な証といえる姿だからだ。

身に着けている服も、最初は安売りワゴンから拾ってきたものの寄せ集めみたいなコーディネートで、しかも洗濯されているのかわからない。比較的きれいなものを見繕っているんだろうけど、どうしても見すぼらしいし、ちぐはぐ。
色もピンクだの青だのっていういかにも子供っぽい色。それがベージュやグレーといった落ち着いた色で、きちんと洗濯された皺のないものに変わっていく様子が嬉しい。

リュックと靴だけは変わらない?
マフラーはリンからのもらいものだったりする?(屋上でつけていたもの?)
この2点は二回目鑑賞時によく確認しておく。

リン

彼女のポイントは眉毛だと思う。
以前にも書いたとおり、精神状態が不安定な人の眉毛は手入れが行き届きにくい箇所として挙げられる。中学生だから…という可能性も考えたが、未成年撮影会のモデルでバイトをしていて、メイクもし慣れている彼女が「眉を整えない」ことには理由があるような気がしてならない。顔のアップを最初に見てからずっと眉を気にしてしまった。

おでこが常に見えているのは家族関係を考えると少し不自然ではあるが、バレエをやっていることを前提にするとそこまで不自然ではない。心をオープンにしているように見せているが実際はそうではない、のはどこに表れているか?これは二回目鑑賞時によく確認しておく。

屋上でタバコを吸っている時の姿勢は”いかにもグレてます!”という表現よりも、男性性が強くなっているように感じられた。その後の展開からも、リンは女性であることを否定し始めているのかもしれないと考えられる。

最後に

今回はメインの二人と、私が気になりすぎて肩入れしまくったリンについて語りました!出てくる人物全員語れるレベルで素晴らしいのですが、それをするためには人物と同じ回数観ないことには難しそうです。

当然ですが、興味が持てるかどうか、その強弱は人によってバラバラ。見え方や感じ方、語る内容もバラバラ。メインの二人に目と感情がいくのは作り方のうえで自然なことなので、私が気にして欲しいのが「メインの二人の他に気になったキャラクター」です。
観ながらでも、思い返しながらでも、「そういえばあのキャラ…」ってなったキャラクターに、自分の考え・価値観や興味のあることが表されている可能性があります!
人物描写を楽しみながら、自分を覗くこともぜひ楽しんでください!

今回も最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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