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映画『夜霧よ今夜も有難う』のラストに漢のロマンを感じる。

ごきげんよう。雨宮はなです。
おうちシネマ環境を少し改善し、その環境がいかほどか実験するために映画を一本鑑賞しました。選んだ作品は『夜霧よ今夜も有難う』です。
片桐はいり著「もぎりよ今夜も有難う」のタイトル元ネタになった作品で気になっていたので、アマプラの見放題に入っていたのを見つけすぐさま鑑賞を決めました。

本については、以前こちらの記事で書籍を紹介しました。
【映画本】もぎりよ今夜も有難う

この記事ではタイトルに表れているとおり、私が今作でいちばん強い印象を受けたラストシーンをメインに語ります。この先はネタバレを含みますので、ご了承ください。
ですがその前にひとつ、気になることばがありました。

”ムード・アクション”とはなんぞや?

グーグル先生に聞いても答えは出てきませんでした。Wikipediaでも結果は同じでした。映画を観た後であれば「あぁ、うん、なんとなくわかるわ」と言えるのですが、何も知らない人に説明するのに親切な状態とはいえません。

ネットサーフィンをする限り、「スター」「主題歌」「アクション」が揃った作品のように見受けられますが定義づけはハッキリとされていないようです。

ラストシーン

情緒も減ったくれもない書き方をすると、ラストシーンは以下のように描写できます。

アングラな輩たちとの死闘を繰り広げ、元恋人(ヒロイン:秋子)とその夫(グエン)をボートで逃がす主人公(相良)。彼らを見送る際、相良はかつて秋子に渡すつもりだった真珠の指輪を海に落とし、手放す。ボートでは秋子が涙を流しながら相良の姿を見つめていた。ボートは夜の闇の中に、相良は港から去っていく。

映画『カサブランカ』をもとに作られた作品であれど、この作品ならではであり、この作品の中で最も美しいシーンといえるでしょう。正しいか云々はおいておいて、このラストシーンは様々な思いと意図が込められていると考えられます。そしてそれがうまい具合に演出され、とても美しくスクリーンに映し出されているように感じられてならないのです。

真珠は相良の涙

相良が4年前に秋子へ贈るはずだった真珠の指輪を海に放り投げたりせずに掌から滑り落とすのは、ボートで泣いている秋子の涙とのリンクだと思いました。「こぼれおちる」のは真珠であり、相良の涙なのです。
このシーンの間、相良は涙目ですし涙筋があるようにも見えますが、あくまで相良の涙は真珠で表現されているのだと主張します。

とはいえ、二人が悲しみに暮れているようには見えませんでした。なぜかというと、二人の間に愛情はあるけれどそれは過去のものだとそれぞれが認識していると思えるからです。

キスはした。愛情もある。けれど相良にとってそれは空白の4年分の想いであって、「夫婦の形で無事に送り出すこと」で消化し弔っていたのではないか…。それが伝わっていたから秋子も涙を流すだけで何かを言うでもなく去っていったのではないか…。

相良は「(現在も)愛しているけど手放した」のではなく「(過去に)愛していたから送り出した」のです。だから結婚指輪を最後まで自分から秋子に見せることをしなかったのでしょう。一方で秋子は「愛している人間と離れることに嘆いている」ようにも見えましたがそうではなく「愛した男への餞を贈った」のだと思いました。何も言わないことが別れの言葉だったのです。

彼らが最後に見つめていたのは、実物だけれど幻影だったのだと私は思います。

相良はなぜダイヤではなく真珠を選んだのか

このラストシーンは真珠の特性が非常によく表れたシーンだと言えるでしょう。なぜ結婚指輪に真珠なのかと冒頭からずっと疑問ではありましたが、推測が正しければ相良は非常にロマンティックな男であると言えます。

真珠は別名「月の雫」「人魚の涙」とも言われています(「月の涙」とも聞いたことがありますが、あまりポピュラーではないようです)。6つの宝石言葉があり「健康・長寿・富・純潔・円満・完成」とされています。今後の結婚生活を送るうえでの決意表明というか約束事を込めているのではないかと思えることばの数々です。

真珠そのものの意味だけでも十分なのですが、「真珠を贈る」ことにも意味があるそうで。真珠は切れ目がなく丸い形をしているため「縁が切れない」とされることから、それを用いたアクセサリーには「あなたを本気で想っています」という意味が込められるそうです。
もしこれを全て把握したうえで選んでいるのだとしたら…と思うと相良のロマンティックさにやられます。

「男の子が3人、女の子が2人」という二人の未来予想図は完成しなかったけれど、相良が秋子と歩む人生を真剣に考えていたことが窺えます。たとえ宝石について詳しくなかったとしても、きっと一所懸命選んだのだろうし、真珠を選ぶことに繋がったのが彼の気持ちの表れな気がします。

秋子=真珠?

真珠は涙の象徴でありながら、美の象徴である宝石です。ただ単純に秋子の美しさになぞらえて真珠を選んだという推測もできます。

とはいえ、”保護”の力をもつ美しさを選ぶのは日本人らしいというべきか、相良という人間の性格ゆえなのか。アメリカだったらきっとダイヤモンドが選ばれることでしょう。『セックス・アンド・ザ・シティ(劇場版2)』ではブラックダイヤモンドが、『キューティー・ブロンド2』ではピンクダイヤモンドが贈られています。

相良にとっての美の象徴である秋子が月あかりの下、涙を流す。真珠は相良の手から放れて海へ沈む。どちらが月の雫なのか、人魚の涙なのかわからなくなります。ロマンティックすぎやしませんか。

おわりに

以前、ネットサーフィンをしていたときに「彼氏が婚約指輪をくれた。社会人になって初めてのボーナスで買ったちょっと良いダイヤで、ネックレスにして毎日心臓に近い位置につけていたものをプレゼントしたいと考えていたと教えてくれた」というエピソードを目にしました。婚約指輪に関するエピソードで私がもっとも好きなものです。

今回、この映画を観ることで結婚指輪に関するエピソードでもっとも好きなものができました。
どこかにコットンパールのアクセサリーがあったはずなので、探して身に着けようかなと考えています。コットンパール…つまり、イミテーションではありますが思い込みでちょっとくらい本物に近づくかもしれません。

今回も最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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