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韓国映画『手紙と線路と小さな奇跡』を感動作品ではない観点で観た話。

ごきげんよう。雨宮はなです。
クロックワークス(アジアエンタメ情報)Twitterアカウントさんのキャンペーンに当選し、前売り券をいただきました。先日、さっそく劇場へ!
普段、韓国映画を観る機会が無いので「良い機会を得た」と新宿まで足をのばしました。

※今回はすでに公開されている作品のため、ネタバレを含みます。ネタバレNGの方はこの先に進まないでください。

感動しないのになぜ観たのか?

私はもともと「感動の~」「あなたは涙する」といったうたい文句や、感動させるのが目的のような作品は苦手だったり、そういう仕組みに感情が動かされないタチです。「家族の絆」「努力して夢がかなった」「難病のパートナー」といった要素も苦手です。

今作には「家族の絆」だったり「親子愛」だったり、「努力すれば夢がかなう」といった要素がメイン武器として装備されていました。なぜ、そんな苦手要素だらけの作品に応募したのか?苦手だからこそ、理解する機会を得たくて応募したのです。
当選させてもらったら観ないわけにはいかない!どうにか良い部分を見つけられるだろう!
そんな魂胆でした。

感動しない人間からみた面白いポイント

田舎の不便さでなく、危険を知ることができる

この作品の物語を構成する要素はいくつかありますが、大筋に「地元に駅をつくる」というものがあります。大統領に手紙を書いたり、自分にアタックしてくる同級生に話す中に「自分の通学が不便だからではない。みんなが危険だからだ」と理由が説明されます。実際に危険に曝されている人には申し訳ないですが、私にはこれが非常に興味深いものでした。

私はいつだって駅や高速道路を欲しがるのは「不便だから」だと考えていました。普段、何の気なしに利用している手段であるがゆえに電車というものが「比較的安全に人間の長期移動を可能にする」ことを忘れていたのです。そして、その安全が適用されない範囲(線路)があることも忘れていました。
線路を歩くしかない、いつ貨物列車が通るかもわからない、避難地帯はほぼないという最悪のトリプルコンボがいかに人命を危険に曝しているかを、私はこの作品で知ることになりました。

天才の頭の良さの偏りがコミカルに描かれている

数学以外ポンコツな今作の主人公はむしろそこが魅力的と思わせます。遅刻した入学式の列に加わるのに「背の順だ!」と気づいたときに主人公がとった行動は”変わり者”そのものでした。ヒロインも同じように考え、3つの方法で主人公をテストします。ヒロインの友人はその結果をきき「やべぇやつじゃん!」と思わず大声をあげる。
それまで、姉や村のみんなとのやりとりしか知らなかった私たち観客はここでようやく「おや?主人公は優しい天才肌というだけではないようだ」と知ることができます。

他にも、歩く人を描けば「大股開きでダイノジ」になってしまうし、アメリカの首都を即座に答えられないし、駄菓子屋のゲームで女の子相手にムキになる。ひとりの男子高校生がコミカルに描かれています。体躯の良さに忘れてしまいますが、スクリーンに映っているのは25歳過ぎた成人ではなく、15歳そこそこの青年です。色恋に疎いのも、記憶と過去の感情に縛られてしまっているのも頷けます。

この作品の主人公は数学における天才です。ですが、他はからっきし。日本の作品って「天才キャラ」は「文武両道、眉目秀麗、品行方正」の三つを兼ね備えているパターン(全方位型)がほとんどなので、「特化型」の天才キャラクターは新鮮に映りました。
しかし、よくよく考えてみれば、本来の…というか実際にいるタイプの天才は基本的に特化型であることに気づかされました。日本人の全方位型天才はまさしく日本人の理想といえる「ファンタジー」だったのだなぁと気づくと同時に、それが認識・思考として馴染んでいることに若干の恐怖を覚えました。

キャラクター設定は一昔前のハリウッドを思わせる

ポリコレやルッキズムということばが一般的になってきた現在、こういった感想を抱くことすら不快に感じる人もいるのでしょうが、「ヒロインは美人に、友人は不細工に」といった一昔前のハリウッドを思わせるキャラクター設定でした。

主人公:ダサいだけで男前。
主人公姉:母親。女性は誰しも母性を持つと言いたいのか、時代による女性の不自由を描きたいのか。
主人公父:寡黙、弱い姿を見せられないと耐える役。本当は子煩悩。
ヒロイン:美人でおバカ。権力者の親を持つお金持ち。甘やかされた育ちで自由奔放。すぐにセックスに絡めようとする。
ヒロイン友人:不細工、服もダサジャージ。ヒロインに顎で使われるがなぜか一緒にいる。変顔・絶叫要員。
先生:主人公の才能を見つけ、守る。

うーん、お手本通り!安心感すらある!
最近は悪く言われがちなキャラクター設定や配役ですが、私は正直、そこまで悪いとは思わないのです。だって、映画ってつくりものだし。全部を現実的にする必要は無いし、”イメージ”ってあると思うから。
「こんな田舎にあんな美人はいない」なんて言い始めちゃったら、美人な役者の出番なんて限られちゃいますからね。

さいごに

劇場で周囲の観客がすすり泣くのは何度も聞こえました。努力が報われる系、親子愛系、ほっこり田舎感動系が好きだったら泣ける人がほとんどでしょう。安心してください。私がこの作品で泣くタイプではなかっただけです。

そんな『手紙と線路と小さな奇跡』は4月29日から順次ロードショー!劇場は全国で随時追加中!!

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