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Cookieless世界の幕開けに向けて【現状とこの先。大手ブランドの動きも紹介】

近年アドテクノロジー業界を揺るがした「cookieless future」

こんにちは。アメマ速報の淺井です。

いきなりですが皆さんは「cookieless future」への準備は整いましたか?近年、Appleは自社のディバイスでアプリなどを通してトラッキングをする際にユーザーの許可を必要とする新しいアップデートを導入、GoogleはChromeのthird-party cookiesを廃止すると発表しました。これら業界のトップによるプライバシー保護への変革はプラットフォームやパブリッシャーを問わず、個人識別情報時代の終わりを告げるものでした。
しかし、これだけ騒がれているにもかかわらず、「cookieless future」は、マーケターにとって世界の終わりではありません。むしろ、多くのマーケターやマーケティング全般にとって、状況が好転する可能性を秘めています。それではそれがどの様なことなのか順を追って見ていきましょう。

「cookieless future」とは

Googleは2020年1月、デジタル広告のエコシステムの多くを支えているthird-party cookiesのサポートを、2年以内にChromeブラウザで終了する計画を発表しました。その代わりデータの匿名化や集計などの方法を考慮した「プライバシー保護技術」のみを使用すると述べています。しかし当初予定していた2022年初頭ではなく、2023年に実行を延期したことは、データプライバシーに関する変革の中でthird-party cookiesのない未来に向けて計画を立てようとしていた広告業界にとっては少なからず喜ばしいニュースだったのではないでしょうか。

Third-party cookiesとは、ウェブサイトが訪問者のブラウザに配信する小さなコードで、訪問者が他のサイトを訪問した際にも保持されます。このthird-party cookiesは、複数のサイトでユーザーを追跡し、広告のターゲットを絞り込んだり、広告の効果を確認したりするのに使われてきました。しかし同時に個人のプライバシー侵害として問題視されてきていたのも事実。Googleはユーザー、パブリッシャー、広告主のニーズに対応し、回避策を講じるためのツールを用意したら、このthird-party cookiesのGoogle Chrome でのサポートを完全終了すると言っています。

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GoogleのProduct Management for Ads Privacy and TrustのディレクターであるDavid Temkin氏のブログ記事によるとGoogleのこの動きの背景にはthird-party cookiesを代替の(もっとユーザーのプライバシーを尊重した)識別子に置き換えることを計画している他の企業と足並みを揃える目的でもあったようです。これを受けてアドテック業界では、third-party cookiesが使えなくなった後も、広告のパーソナライゼーションを維持しつつ、消費者のプライバシーとのバランスをとる方法を模索してきました。

Googleでは、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、コンテンツをオープンウェブ上で自由に利用できるようにするための解決策を見つけるべく、「Privacy Sandbox」イニシアティブを立ち上げ、third-party cookiesに代わるツール提案の進捗状況について「非常に自信がある」と述べ、「Google Ads」の広告主を対象にテストを開始。「Federated Learning of Cohorts(FLoC)」と呼ばれるその提案は、人々を似たようなブラウジング行動に基づいたグループに分類し、個々のユーザーIDではなく「cohorts(集団)ID」のみを使用してターゲットを設定するというものでこれによって個人のプライバシーを守る狙いがあるようです。FLoCは、Googleが検討している数多くの試験段階の選択肢のひとつであり、まだ決定には至っていません。

「cookieless future」の影響

Third-party cookiesの消失によって最も影響を受けるのはThird-party cookiesに大きく依存してきた中小企業ではないかと危惧するのは、ショッパブル広告フォーマットなど、Eコマース用のソフトウェアと分析ソフトウェアを提供するMikMakのCEO、Rachel Tipograph氏。「Third-party cookiesを中心に顧客獲得戦略を構築してこなかった巨大CPGブランドは、今回の件であまり影響を受けないと思う」と述べています。

例えばCPGブランド大手のP&Gは、15億人以上の消費者を対象とした独自のグローバルデータベースを持っています。これは、third-party dataとfirst-party dataを組み合わせたもので、Eコマースでの直接販売、Pampersオムツアプリを通しての妊婦さんとの情報共有やアドテック企業のJebbitが提供するオンラインでの簡単なクイズアンケートなど、あらゆる場所で独自に収集されたものです。

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P&G Chief Brand OfficerのMarc Pritchard氏によると、このアプローチは、個人や個別の広告ターゲティングを促進するものではなく、デジタルメディアやその他のメディアにおいて、メディアの文脈やグループのメディア習慣についてP&Gが得た情報に基づいてアウトリーチできる「スマートオーディエンス」を創出するためのものだそうです。

Pritchard氏は、「スマートオーディエンスとは、実際にはcohorts(集団)のことであり、プログラマティックな方法で、しかも正直に言えば匿名の人々にリーチすることができる。将来的にGoogleのFLoC(Federated Learning of Cohorts)とスマートオーディエンスとをマッチングさせて、人々にアプローチすることができるようになる。これこそが、私たちが目指すもの。きっとうまくいく。」と語ります。

一方、P&Gよりはるかに規模の小さい、主に消費者への直接販売を行っている競合他社、家庭用品のマーケティング会社Droppsでは、third-party cookies消失の影響がより顕著に現れそうです。

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「私たちの場合、third-party cookiesがないと、リターゲティングやディスプレイプロスペクティングに大きな影響を与えます。顧客のペルソナを構築するのは、より複雑になるでしょう。」とDroppsのCEOであるJonathan Propper氏は言います。個人のデジタル識別子がなくなることで、Droppsは「オンラインで消費者に以前より良い体験を提供し、最終的には顧客にブランドの伝道師になってもらうほかないのでは。」と考えているようです。
Google広告はDroppsの広告予算の約半分を占めており、残りのほとんどは、third-party cookiesの消失による影響は少ないであろうFacebookとInstagramの広告が占めています。

「cookieless future」への対応策

それではどの様にブランドはこの「cookieless future」に対応していくのかいくつかのヒントを探ってみました。

First-party data とCustom algorithm の構築

近年first-party dataの熱心な収集とcustom algorithmを使用するブランド・広告主が増えてきたようです。

First-party dataとは、ブランドが自社の顧客やウェブサイト訪問者に関して直接収集した情報。 この情報には、 顧客/訪問者についてのデータや、彼らがブランドに関して何を行ったかの情報(ウェブサイト訪問、登録、購入など)が含まれます。First-party algorithmとも呼ばれるcustom algorithmは、カスタマイズされた入札ルールのセット。 キャンペーンごとに作成され、特定の広告主のために、特定のビジネスゴールを達成するよう設計されます。
Custom algorithmの強化材料としてのfirst-party dataは、多くの場合、キャンペーン効果測定データか消費者行動に関する情報であり、これまでメディアバイイングやプランニングではあまり利用されていなかったものです。しかしこれからはcustom algorithmベースのソリューションに、自ら構築した豊富なfirst-party dataを加えることでパーソナライゼーションの精度を向上でき、広告のパフォーマンス全体の引き上げを促すとともに、目的に即した成果を生み出すことが可能になる、と考えるブランド・広告主が増えてきたということではないでしょうか。

このcustom algorithmの良いケーススタディとして取り上げられるのが大手靴ブランドDr.Martensのケースです。Dr. Martensは、third-party cookiesへの依存度を下げ、パブリッシャーであるDigoとDigoのデータパートナーであるLotameからの直接データ(Panorama ID)を利用する新しい広告テクノロジーをテストしました。

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Dr. MartensのDigital Marketing MangerであるErika Clemens氏は、次のように述べています。「このデータを使って構築できたオーディエンスは、広告コンテンツに対してより深く関わり、より多くのインプレッションを得ることができました。そして、クリック率も向上し、クリック単価も安くなりました。」

Lotameは、DigoとDr.Martensのテスト結果を公開し、third-party cookiesの利用が不可なApple Safariと、third-party cookiesを利用できるGoogle Chromeでの広告のパフォーマンスを比較しました。どちらのケースでも、LotameのPanorama IDを組み込むことで、IDを使用しない場合と比較して、コストを約10分の1に抑えることができています。Lotameによると、消費者が広告をクリックした回数であるクリックスルー率は10倍になったといいます。

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このように「cookieless future」では、Dr.Martens, DigoとLotameが開発しているような新しいタイプのID(custom algorithm)に取り組む必要があります。デジタル広告のエコシステムは、Dr.MartensのようなブランドやDigoのようなパブリッシャーのfirst-party dataの利用に有利になるように構築されています。しかし、ブランドやパブリッシャーのみからのfirst-party dataでは限界があり、だからこそLotameの様なデータ会社パートナーが必要なのです。データ会社が顧客のペルソナを完成させ、顧客と特徴や関心を共有するポテンシャルカスタマーにリーチするためのデータや広告ターゲティングを創出する役割を担います。
LotameはDigoと協力して、それぞれ異なる特徴を持つ3つの潜在的な消費者セグメントを特定し、彼らの好みに合った広告を受け取ることができるようにし、Digoは、消費者セグメントに「Nirvanas」、「Bad Bunnies」「J.Los」といったキャッチーな名前をつけ、それぞれにアピールしました。
LotameのTheriault氏は、「私たちのデータは、ペルソナをターゲットにしています。そうすることで、既存の顧客にリマーケティングするためのfirst-party dataだけではなく、新しい顧客(ペルソナに似た人々)を見つけることができたのです。」と語っています。

Facebook、Instagram やTikTokなどのSNSでの広告

美容ブランド Bliss のChief Brand Officerである Tina Pozzi 氏によると、Bliss はこれまでリターゲティングのためにthird-party cookiesを多用してきたのですが、Jebbitやオンラインのインフルエンサーを通じてスキンケアに関するアンケートやクイズを提供するなど、first-partyとの関係を構築することが多くなってきている様です。また、Blissは、Movers & Shakers社と共同でTikTokによるコミュニティを構築し、約60億回の再生回数を記録しました。
「ある意味、これ(third-party cookiesの消失)はブランドにとって、消費者との関係を確実に構築するための、非常に大きな挑戦だと思います。」とPozzi氏。「最終的には、まず消費者を理解し、first-party dataを構築して、ターゲティング戦略を強化することになるでしょう。」と今後の対応策を述べています。

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そもそもD to Cビジネスのマーケティングに置いて必ずしもthird-party cookiesに過度に依存する必要はない、と大手のD to Cブランドを数多くの立ち上げたある経営者(匿名希望)は言います。彼によると最も成功したメディア戦略は、昔ながらの消費財マーケティングをソーシャルメディアに応用したようなもので、例えばFacebookやInstagram、そして最近ではTikTokで、18歳から49歳までの女性または男性にできるだけ多くリーチするためにの資金を投入。それに加えて、どの広告が最も多くの売上をもたらすかを確認するために、広告クリエイティブを迅速にテストし、パフォーマンスの良いものにより多くの資金を投入していくというもの。この戦略であったらGoogleやAppleのプライバシーに関する動きの影響はほとんどないと言えるでしょう。

今後の展望:新たなビジネス

「cookieless future」になることでリテールが個々に集めたfirst-party dataが非常に大きな財産となってきますがそれらを利用してブランドが新しいビジネスを拡大しようとする動きも出てきています。

Walmart
米国大手スーパーマーケットチェーンのWalmartは、5年以内に米国の広告事業でトップ10入りするという大規模な計画の一環として、Walmartの施設外に広告を掲載するためのプログラマティック・バイイング・プラットフォーム開発のためThe Trade Deskと契約しました。更にWalmartは、近年広告収入が倍増したことを受けて、メディア事業の名称をWalmart Media GroupからWalmart Connectに変更しました。
「Walmartは、デジタル広告の新たなフロンティアを開拓し、消費者のプライバシーを保護しつつ、消費者の体験を向上させる方法で、マーケティング担当者に初めてショッパーデータへのアクセスを提供しています。」と、The Trade DeskのCEOで共同設立者のJeff Green氏は声明で述べています。そうすることで、マーケティング担当者は、より洗練された、関連性の高い、測定可能な広告キャンペーンを、その場で実施できるようになるとの見解です。Walmartの他に類をみないfirst-party dataの量(オンライン、店舗など)を考えると可能性は無限大といえそうです。

DoorDash
コロナ禍で飛躍的に成長を遂げたデリバリーAppのDoorDashも、グローバルブランドと協力してマーケティングやプロモーションを行う広告事業の構築を計画しているようです。
この計画に詳しい関係者によると、DoorDashは現在広告商品の開発について主要な広告主と話し合っているとのこと。広告は今や店舗(ブランド)と消費者の間に位置する宅配・電子取引アプリにとって、有利な収益機会となっていて、アプリ側は消費者の購買習慣を把握しており(first-party data)、店舗(ブランド)側は販売力を高めるためにあらゆるマーケティング情報を求めています。DoorDashは、主にレストランのデリバリーで知られていますが、昨年、コンビニエンスストアや食料品にも進出。広告事業は、DoorDashが掲げている目標のひとつである「加盟店の売上向上」を実現するための手段となり、現在もアプリでの直接販売や、自社サイトでの配送支援など、複数の方法で加盟店と連携し、彼らの売り上げ向上を試みています。

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最後に

いかがだったでしょうか。世の中のプライバシー保護の動きを受けての「cookieless future」は決してマーケターにとって悪いことではないと言うことができると思います。流行は巡り、古いものがまた新しいものになると言います。Third-party cookiesが生み出した個人ターゲティング機能は、短期的な取引を目的とした思考を助長し、マーケティングに悪影響を与えてきた可能性があるのも事実ですし、これを脱却し前進できるのはむしろ吉と見るべきかもしれません。
Third-party cookiesというツールの消失により、マーケティング担当者は今まで以上にブランドに関心を持ち、戦略を見直し、消費者とブランドとの関係をより深く理解する必要が出てきました。多くのブランドは、この新しい世界に期待しています。マーケティングの基本と再度向き合うことで更に創造性を発揮し、よりエシカルで消費者にあった進化したマーケティングや広告が出てくる日ももうそこまできています。


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