試行錯誤シナモン

頭を使う食べ物が嫌いだった。

例えばケーキ。
ショートケーキのイチゴはいつ食べたらいいかわからないし、ロールケーキはどうやったって寝かせないと食べられない。
だから、左右対称で装飾の少ないシュークリームやチーズケーキを、好んでよく選んでいたと思う。

例えば海鮮丼やお寿司。
せっかくいろんな魚がのっているのに、結局一種類ずつしか食べられないのが納得いかない。だからちらし寿司の方が好き。
お寿司も形を崩さないように醤油をつけるのは頭を使う。
やっと見つけた最適解の「刺身だけ剥がして醤油をつける」は、そもそも範囲外だった。だから回転寿司では稲荷ずしを食べる。

例えばシナモンロール。
ロールケーキもそうだけど、
「巻いてあるからには、その渦にならって食べなくては」
という謎の使命感のせいで、つい回しながら食べてしまう癖がある。
なんとなく、あの渦に垂直に歯を当てる自信がないのだ。
マナーとしても大不正解なうえ、シナモンロールは巻きをほどくと手にシナモンシュガーが付く。

でもクロワッサンを回しながら食べるのは、すごくおすすめ。
まず真ん中の固いところを剥がすのだけど、そこにバターを塗るのもいいし、なにより内側のもちもちだけを最後に楽しめる。
デートとかじゃなければみんなやってほしい。

関係ないけど、私は食パンも回す。
パンの耳を全部先に食べるのだ。
これはあくまで中心のふわふわを最後に取っておくためなのだが、家族には
「この子はパンの耳が好きなんだわ」
と誤解させてしまい、パンやケーキの端をいつもくれるようになっていた。
その頃はまだ自我が芽生えたばかりだったから
「あれ、自分、耳の方が好きなんだっけ」
とだんだんアイデンティティも拡散していた気がする。
でも実際、端っこには「二つしかない」という特別感があるし、
それをもらえるのはヨーロッパの昔話に出てくる末っ子感があって、悪い気はぜんぜんしなかった。

巷では、なんでも「端っこがおいしい」という思想が跋扈している(気がする)けど、信用していない。
否定するつもりはないし、私も時々言ってしまうけど、
「端っこがおいしい」の「おいしい」は、もっと「嬉しい」よりのおいしいじゃないだろうか。

だって、パピコの本体よりふたの部分を本気で好きな人に、
私は会ったことがない。


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