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TSMCの秘密のベールを剥ぐ。

台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)の創設者であるモリス・チャン(Morris Chang)は、半導体製造の分野で数々の技術革新を遂げ、TSMCを世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)としての地位に導きました。彼の先見の明と強力なリーダーシップにより、現在TSMCは5nm、3nm、そして2nmプロセス技術の開発で世界をリードし、その地位を不動のものとしています。

TSMCプロファイル

世界最大のファウンドリ(半導体受託製造企業)

設立年・本社: 1987年に台湾で設立され、本社は新竹市に位置。
業界ポジション: 世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)。
技術力: 5nmプロセス技術で市場をリードし、3nm技術も量産開始。
主な顧客: Apple、AMD、NVIDIA、Qualcommなど主要な半導体設計企業。
生産能力: 世界各地に生産拠点を持ち、年間約1,200億ドル規模の製造能力。
売上高: 2023年通期2兆1,617億台湾ドル。
研究開発: 年間収益の15%以上を研究開発に投資、技術革新に注力。
環境対応: 2030年までに100%再生可能エネルギー使用を目指す。
競合他社: サムスン電子、インテル、グローバルファウンドリーズ
市場シェア: ファウンドリ市場でのシェアは50%以上。
拡大計画: アリゾナ州に新工場建設予定、約120億ドルの投資計画。
社会貢献: 教育支援や地域社会への貢献活動を積極的に実施。
未来展望: 先進的な製造技術とエコシステムで、次世代半導体市場のリーダーシップを継続。
上場:台湾証券取引所(TWSE:2330)と
ニューヨーク証券取引所(NYSE:TSM ADR)の両方で取引されています。

危機をチャンスに

スマートフォンの世界を読む

TSMCは、2000年代初頭に40nmプロセス技術で深刻な製造問題に直面。この時期、グローバルファウンドリーズ(2009年設立,米国GFS,)が新たに設立され、TSMCを出し抜くタイミングを虎視眈々と狙っていました。さらに、2008年から2009年にかけての金融危機は、半導体産業全体に打撃を与え、消費者が電子機器の購入を控えたことで、テクノロジー企業も半導体の発注を減少させ、大きなダメージを受けていました。

しかし、モリス・チャンは、この危機をチャンスと捉えます。彼は、不況時に粘り強く投資を続けることで市場シェアを拡大できると確信。特に、スマートフォンがコンピューティングに革命をもたらし、半導体産業を一変させると早期に見抜いていました。

彼は、スマートフォンが半導体産業における「ゲーム・チェンジャー」となることを予見し、TSMCが携帯機器市場で圧倒的なシェアを獲得することを目指します。TSMCの立場が製品を設計する企業を顧客に抱える中立的な存在であることを活かし、「大同盟」と呼ばれるエコシステムを構築。この大同盟は、半導体の設計、知的財産の販売、材料の生産、装置の製造に従事する多数の企業が協力し合うもので、その中心にいるのが現在のTSMCの姿です。

直近の四半期決算より

7nm以下が65%

  • 売上高-5,926億台湾ドル(USドルベースは、189億ドル約2.9兆円)、前四半期より5.3%減収も前年同期比+16.5%

  • アドバンスト先進技術(7nm以下)のウェハ売上高比率は65%を占める

  • プラットフォーム別売上ー -HPC(高性能コンピューティング)46%、スマートファン38%(前四半期▼16%減)
    -IoT(モノのインターネット)6%、Automotive(自動車)6%、DCE(デジタル家電)2%、その他2%

  • 地域別売上-北米69%、中国9%、アジア太平洋12%、日本6% 、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)4%

  • 4月3日の地震では設備や工場にダメージはなく、発生後3日でフル稼働に回復との会社側。


nm別 


用途別


地域別

2024年第二四半期(Q2)の見通し

  • 売上高は196-204億米ドルを計画。

  • スマホ向け需要の季節的な弱さが続く一方、3nmおよび5nm製品の強い需要が増収に寄与すると見込む。

  • 2nm製品は2025年に量産開始予定と同社。

  • 粗利率は4月3日の台湾地震による電力コストの増加でQ1から小幅に低下する見込み。

  • 市場見通しの修正:2024年のファウンドリー市場の予想を前年比10%台半ばから後半の増加の下方修正も、通期の売上高(米ドルベース)は同20%台前半から半ばの増加に据え置き。

    • 設備投資額計画も280-320億米ドル(4.3兆円-5兆円前後)を維持。

    • AI市場の成長

      • AIの普及に伴い、電力効率の高いハイエンド半導体の需要が増加。

      • 2024年通期のAIプロセッサー売上高が前年比倍増し、売上構成比が10%台前半に拡大する見込み。

      • AIプロセッサー向け売上は今後5年間で年率50%増収が見込まれ、2028年には売上構成比が20%を超えると同社予想。

**決算の数字等は、TSMCのIRより。それをもとにグラフを筆者が作成。

半導体の微細化は「プロセス技術」

半導体の微細化は「プロセス技術」として表されます。プロセス技術とは、半導体製造の際にトランジスタをどれだけ小さく作れるかを示す指標です。例えば、10nm(ナノメートル)プロセス技術や5nmプロセス技術。この数字が小さいほど、トランジスタのサイズが小さくなり、結果として高性能で省エネルギーな半導体を作ることが可能になります。

微細化の進展は、半導体の性能向上と密接に関連しています。トランジスタが小さくなることで、電気信号の伝達距離が短くなり、データ処理速度が速くなります。また、トランジスタ間の距離が縮まることで、同じ面積により多くのトランジスタを配置でき、集積度が高まります。これにより、同じチップサイズでもより多くの機能を搭載できるようになります。

最近では、3nmや2nmというさらに進化したプロセス技術が注目を集めています。これらの技術は、5nmプロセス技術よりもさらに微細化が進んでおり、トランジスタを極限まで小型化することができます。3nmや2nmプロセス技術の導入により、半導体チップはさらに高速で省エネルギーになり、次世代のスマートフォンやコンピュータ、データセンターにおいて革新的な性能向上が期待されています。

微細化技術の進歩には多くの技術的課題が伴いますが、これを克服することで、私たちの日常生活における電子機器の性能向上やエネルギー効率の改善が実現されます。半導体の微細化は、未来のテクノロジーを支える重要な鍵になっており、その先頭を走るのが、TSMCであることは、言うまでもありません。

次回の半導体企業は、英国のアーム社(Arm)です。


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