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IBMの最新決算と成長戦略:ハイブリッドクラウドとAIで未来を切り拓く

IBMはITサービス業界のリーダー。PC時代を牽引したIBMは、現在、ソフトウェア、コンサルティング、ITインフラの3本柱で事業を展開。近年では、買収によりハイブリッドクラウドとAI戦略を強化しています。最新の決算では、堅調な収益とフリーキャッシュフローの成長が報告され、エンタープライズAIの需要が高まっています。このnoteでは、最新決算を確認、IBMの強さの秘密を探ります。


International Business Machines (IBM)

始まりは、パンチカードデータ処理機

IBM の歴史は、Computing-Tabulating-Recording Company (CTR) に遡ります。CTRは、1911年にパンチカード集計機やタイムレコーダー、スケールを製造する3社の合併により設立、パンチカードデータ処理機を主な事業としていました。1924年にInternational Business Machines (IBM)に改名し、技術革新と事業拡大を続けていきます。

創業当初、IBMは、大恐慌という極めて厳しい経済状況の中でも革新的な製品を開発し続け、企業の成長を堅固に支えました。特に1930年代には、社会保障番号の発行に使われたパンチカードシステムが大きな成功を収め、その後の事業拡大の基盤を築きます。パンチカードシステムの導入は、社会全体の業務効率を飛躍的に向上させ、IBMの名を広く知らしめるとともに、同社の信頼性と技術力を確立する重要な転機となりました。

この成功は単なる技術的革新に留まらず、当時の市場状況やビジネス環境を的確に捉えた戦略的な判断が功を奏した結果でした。厳しい経済状況下における企業の適応力と革新性を示しており、IBMがいかにして大企業としての地位を築いてきたかを物語る一例です。

メインフレームの成功

メインフレームは、大規模なデータ処理や高い信頼性が必要な企業や政府機関向けの大型コンピュータシステムです。多くのユーザーが同時にアクセスでき、24時間365日稼働するため、当時銀行や保険会社などで広く採用され、スケーラビリティ( システムやネットワークが負荷の増加に対応できる能力)や耐久性も高い特徴を持ちます。

1964年、IBMはSystem/360を発表します。このシリーズは、さまざまなアプリケーションや業務用に設計された統一アーキテクチャを持つコンピュータシリーズで、商業用および科学用の両方のアプリケーションに対応できることが最大の強みでした。互換性のあるハードウェアとソフトウェアのモジュール設計により、顧客がシステムを必要に応じて拡張可能。この統一アーキテクチャは、企業が異なるコンピュータ間でプログラムを移植しやすくし、コスト削減と効率向上をもたらしました。

System/360の導入は、多くの企業や政府機関にとって革新的な出来事であり、ITインフラの基盤として採用されました。これにより、IBMはメインフレーム市場でのリーダーシップを確立します。System/360は市場で大成功は、IBMの売上と利益を大幅に押し上げ、このシリーズは、IBMの収益の大部分を占めるようになり、企業全体の成長に大きく寄与します。

メインフレームの時代

  1. IBM 700/7000シリーズ (1950年代-1960年代)

    • IBMのメインフレームコンピュータの初期モデル。

    • 科学技術計算やビジネスアプリケーションで使用され、大規模なデータ処理が可能。

  2. System/360 (1964年)

    • IBMが発表した統一アーキテクチャのメインフレームシリーズ。

    • 商業用と科学用の両方のアプリケーションに対応し、ソフトウェア互換性が高い。

    • モジュラー設計により、顧客は必要に応じてシステムを拡張可能。

  3. System/370 (1970年)

    • System/360の後継で、性能が向上し、新しい機能が追加された。

    • 高度な仮想メモリ技術が導入され、効率的なメモリ管理が可能になった。

  1. IBM 5100 (1975年)

    • 初のポータブルコンピュータで、個人用に設計。

    • メインフレームの能力を持ちながら、コンパクトなサイズで提供。

  2. IBM 4300シリーズ (1979年)

    • ミッドレンジのメインフレームで、中小企業向けに設計。

    • コスト効率が良く、性能も十分で、幅広いビジネスアプリケーションに対応。

PC時代への対応の遅れ

しかし、IBMの伝統的なメインフレーム市場での成功が、新たな市場への移行を遅らせる要因につながります。上記の通り、1970年代においてIBMはより大規模なメインフレームの開発にリソースを集中してきました。そのため、PC、マイクロコンピュータ技術の進展に対して、経営戦略の変化が遅れ、顧客のニーズに迅速に対応にできなかったとされています。

IBMがメインフレームからPCへの移行に遅れた結果、アップルなどの先行メーカーが市場シェアを拡大。IBMがつまづく間に多くの競合企業が市場をリードしました。

先行したPCメーカー

  • Apple: Steve JobsとSteve Wozniakが開発したApple IIは、商業的成功を収め、PC市場の先駆者となりました。MacintoshはGUI(グラフィカルユーザーインターフェース1984年にAppleが初めて商業的に成功させた、視覚的に操作できるコンピュータのインターフェース)の普及に貢献し、Appleのブランド価値を高めました。

  • Commodore: 価格競争力のある製品を提供し、特にCommodore 64は最も売れたパーソナルコンピュータの一つとなりました。

  • Tandy/Radio Shack: TRS-80は、簡単にプログラムができる環境を提供し、初学者やホビイストに人気を博しました。

IBM PCの登場(1981年)

IBMが1981年に発売した初のパーソナルコンピュータ(IBM PC)は、一般の人々や企業が使いやすいように設計されました。Intel 8088プロセッサを搭載し、パソコンの頭脳として高い性能を発揮。さらに、オープンアーキテクチャを採用することで、他の会社もIBM PC用の部品やソフトウェアを作りやすくなり、プリンターや周辺機器などが豊富に揃いました。この結果、多くの選択肢が提供され、便利で多様なエコシステムが形成。これにより、IBM PCは多くの人々に受け入れられるようになりました。そして

販売チャネルの拡大によって、既存の直販だけでなく、小売店を通じた販売も開始され、多くの消費者の手元に届きやすいPCとなります​ 。さらにはブランド力の活用することで、IBMの信頼性が企業や教育機関などの大規模な顧客にも広く受け入れられていくようになります。

ビッグブルー

IBMは、パンチカードシステムから電子計算機、メインフレーム、パーソナルコンピュータへと進化し、世界最大のコンピューターメーカーとして広く認識されていきます。その巨大な規模、圧倒的な技術力、そして低迷からの見事な復活劇は、適者生存の米国ハイテク業界では稀有な存在ではないでしょうか。

IBMの愛称である「ビッグ・ブルー」は、統一された制服を着たセールスマンたちによって生まれたと言われています。セールスマンは、トーマス・ワトソン・シニアの指示に従い、ダークスーツと白いシャツを着用。ワトソン・シニアは、IBMの前身であるCTRを情報技術の世界的リーダーへと成長させた人物。彼の指導の下で、IBMは徹底したプロフェッショナリズムと革新を追求し続け、その結果、世界中で信頼されるブランドへと進化しました。IBMの歴史と成功は、ビジネス界における卓越したリーダーシップと戦略的な思考の象徴なります。

ハードからソフトへ

1993年にルイス・V・ガースナーがCEOに就任し、IBMは大規模な経営改革を断行。ハードウェア中心のビジネスモデルからソフトウェアおよびサービスにシフトし、企業全体の構造を変革していきます。そして、

2004年12月IBMは中国のPCメーカーであるレノボに対してPC事業を売却する計画を発表。売却金額は約12億5000万ドル。2005年5月にこの取引は正式に完了し、レノボはIBMのPC事業である、人気の高いThinkPadブランドのノートPCとThinkCentreブランドのデスクトップPCを引き継ぐことになります。

レノボはIBMの技術力とブランド価値を獲得し、国際市場での展開を強化。IBMの多くの従業員もレノボに移籍し、事業の継続性と品質を維持しました。レノボはこの買収を通じて、グローバルなPC市場での地位を確立、世界トップクラスのPCメーカーとなります。

一方、IBMはこの売却によりPC市場から撤退し、より利益率の高いソフトウェアとサービス事業に集中。IBMは企業の長期的な成長と収益性を確保するための基盤を強化しました。この戦略的転換は、IBMが変化する市場環境に適応し、持続可能なビジネスモデルを構築するための重要なステップとなりました。

PC時代を牽引したIBMは、現在、ソフトウェア、コンサルティング、ITインフラの3本柱で事業を展開。2019年のレッドハット買収や2023年のStepZenとNSI買収により、ハイブリッドクラウドとAI戦略を強化することに成功しています。

About IBM

  • 設立:1911年 

  • 上場:1915年11月(CTR)

  • セクター:情報技術( Information Technology)

  • ティッカー・シンボル:IBM

  • 年間の売上高:619億ドル(2023年)

  • 株式時価総額:1,590億ドル(約25.4兆円7/5時点)

  • ライバル企業:マイクロソフト(MSFT),シスコシステムズ(CSCO)など

  • 日本の同業種:富士通(6702),NTTデータ(9613)など

  • 本社:米国ニューヨーク州

  • 従業員数:282,000人

1-3月/Q1,2024、第1四半期決算では

ハイブリッドクラウドとAI戦略

第1四半期決算は、ハイブリッドクラウドとAI戦略の強みが発揮された決算となりました。また、ハシコープの買収により、クラウドとAI分野でのさらなる成長が期待されています。

"本年は堅調な収益とフリー・キャッシュ・フローの成長で始まりました。当社は引き続き、*エンタープライズAIに対する顧客の期待と需要を活用していきます"

アービンド・クリシュナCEO

*エンタープライズAIは、企業がデータを活用して意思決定を最適化し、ビジネスプロセスを自動化するためのソリューションを提供。Watsonブランドを中心に、自然言語処理、機械学習、データ分析ツールを統合し、さまざまな業界での活用を支援。これにより、企業は顧客体験の向上、運用効率の向上、コスト削減を実現することができます。

決算ハイライト

  • 売上高:145億ドル(前年同期比比+1%,恒常為替レートベースで+3%)
    -ソフトウェア:59億ドル(同+5%,+6%)
    -コンサルティング:52億ドル(横ばい)
    -インフラストラクチャ:31億ドル(横ばい)
    -ファイナンシング:1.9億ドル
    -その他:1.1億ドル

  • 利益:77億ドル(同+3%)

  • 売上総利益率は53.5%、営業利益は54.7%。

  • 営業活動による純キャッシュは42億ドル、フリーキャッシュフローは19億ドル

これらのファンダメンタルズと当社の強力なキャッシュ創出力により、当社は有機的な投資と、本日の*HashiCorp社との提携のような戦略的買収による投資の両方を行うことができます。同時に、当社は引き続き配当を通じて株主の皆様に価値を還元していきます。

ジェームス・カバノーCFO

*IBMは4月24日、クラウドインフラストラクチャ自動化企業のHashiCorp(ハシコープ)を64億ドルで買収することを発表。この買収により、IBMはハイブリッドクラウドおよびAI市場での地位を強化し、ハシコープの製品と技術をIBMの広範な顧客基盤に提供することを目指します。ハシコープは引き続き独立したブランドとして運営され、IBMのソフトウェア部門に統合される予定です。

連続増配は29年

配当利回りの目安

  • 直近配当実績:1.67ドル

  • 年間配当:1.67×4=6.68ドル

  • 株価:176.02ドル(7/5終値)

  • 6.68/176.02×100=3.80%

引き続き、安定的な配当の継続が期待されます。

*手数料、税金は考慮していません。また購入時の株価によって、配当利回りは変わってきます。

まとめ

IBMはその長い歴史の中で、メインフレームからパーソナルコンピュータ(PC)への移行や経営戦略の転換を経て、大きな変革を遂げました。ついにはPC事業をレノボに売却するなどのさらなる経営改革を進め、ソフトウェアとサービス事業に集中する戦略を選択。直近でも、クラウドとAI市場での地位を強化するために、クラウドインフラ自動化企業HashiCorpを64億ドルで買収しています。IBMの最大の強みと言っていい、戦略的な決断により、絶えず変化する市場環境に適応し続けています。

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*ご注意-このnoteは企業IRや直近のニュース等を参考に、一般的な情報提供を目的として書いています。投資家に対する投資アドバイスではありません。投資における最終意思決定は、ご自身の判断でお願いいたします。またデータ等の数字は、細心の注意を持って記載していますが当noteに載せている情報に基づく行動で損失が発生した場合においても、一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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