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雨上がりに雨の実を

 草木の先に実る雨の実は、陽の光を飲み込み、世界の足元を輝かせています。

 僕はこれから、草原へ行き、たわわに実った雨の実を集めに行こうと思います。

 空色のポットに、ぽとりぽとりと集めて行くのです。

 いっぱいに溜まったところで、虹色のビニールシートを敷いて、ひとやすみ。

 風が吹くと、草原は雨の実を揺らし、ちりんちりんと鈴の音を奏で、小鳥が合わせて歌い出します。

 そんな美しい音楽を聞きながら、僕は火を焚いて、ポットをあたためます。

 雨の実は沸騰すると、優しい香りを放ち始めます。

 その香りは、長く続いた雨で疲れた人々の気持ちを、柔らかい翼のように包み込んでくれるのです。

 ティーカップに注ぐと、陽の光がシロップとなり、甘くなります。

 この甘さは、傷つき、苦しみの声さえあげる力を失った喉を、潤してくれるのです。

 あたたかいうちに、届けようと思います。

 震えた手足を、指先を、あたためてあげることができるかもしれないから。

 僕は、寄り添って、一緒に飲もうと思います。

#掌編 #小説

 

 

 

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