見出し画像

ある夕暮れ

 お気に入りの空色自転車で、坂道を登る。

 一番高い場所に行くと、アスファルトは途切れ、白い石が散らばった砂利道が続いていた。

 私は、自転車を降りると、砂利道に腰を降ろす。

 見下ろすと、坂道に沿って、川が流れていることに気づいた。

 銀色の水面は、ほとんど波を立てず、静かに、穏やかに、大海原へと向かっていた。

 やがて、上流から垂れ流される、ピンク色の夕陽。

 銀色の水面に夕陽が混ざり始め、まろやかなピンク色の流れが生まれる。

 雄大で自由だという、あの海へと思いを馳せ、旅立っていくのだろう。

 夕陽の水面に浮かぶのは、森へ帰る鳥の影。

 鳥の歌声が大地に反響し、水面にわずかばかりの波を立てた。

 これからやってくる夜に胸騒ぎを覚えながらも、いつまでも、ただ夕陽の甘さに酔いしれていたいと、私は足元の白い石を指で撫でた。

 月のようにつるりとした感触。

 夜なんて、来なければいい。

 ずっと、この夕陽の中に沈んでいたいのだ。

 私は月を川に投げた。

 夕陽の滲む水面が、月を飲み込み、世界の果てまで、波紋を広げていく。

#掌編 #小説




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?