見出し画像

荒れ果てた草原が現れる。

草木が生い茂り、折り重なり、歩けるような道など見当たらない。

草木を掻き分け、掻き分け、進んでいくことにする。

目的地などわからないし、進むべきなのかもわからないというのに。

かすれた緑の香りが立ち込めたとき、右足首がちくりとする。

見ると、棘だらけの茨が僕の足首にくるくると巻きついていた。

それは、徐々にふくらはぎ、膝、太ももへと進んでくる。

思わず叫び声をあげる。

しかし、だれも助けになど来てくれない。

そうだ、僕のポケットには、ひとつだけナイフがあったんだ。

その刃で茨を切り落とした。

僕の足は、棘で傷だらけになっていたけれど、なんとか歩けそうだ。

ひとりで、たったひとりで進むしかない。

この道なき道を。

意地のようなものが、僕の足を動かしていた。

しばらく歩くと、大きな塔がそびえ立っていた。

果たして、これは僕が目指していたものだったのか。

尋ねる相手などいない。

登るべきかは、自分で判断し、決めるしかない。

空を突き抜ける塔を見上げる。

なんとなくだけれど、僕が目指していたものではない気がする。

西の方を見ると、遠くに同じような塔の姿が浮かび上がっていた。

目指すべきは、あちらだろうか。

進むのを選ぶのの自分、止まるのも自分。

今は進もう。足掻いても、躓いても。


これまで、沢山の塔を見てきた。

どれも、これも、自分の目指すべきものではないと思った。

しかし、この塔こそ、自分が目指すべきものだ。

ようやく見つけたんだ。

たどり着くまでに、僕の手足は、茨にひっかかれたせいで、傷だらけ。

石に躓いたせいで、痣だらけ。

ぬかるみにはまったせいで、泥だらけ。

塔の扉を開けると、階段が続いている。

一歩一歩、踏みしめて登った。

頂上にたどり着くと、展望台のように辺りが見渡せた。

地平線の彼方が、太陽を吸い込もうと、大きな口を開けている。

あたりを覆いつくすほどの圧倒的な夕暮れの波を、勢いよく吐き出しながら。

ざわざわと草木が揺れる大海原。

潮騒だ。

僕は、その穏やかな流れに身を任せた。

#小説 #掌編

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?