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夏の夜

 あなたの背中から滴り落ちた滴は、私のお腹に小さな水たまりを作りました。

 その小さな水たまりは、つまらない世界から逃げ出す扉となることでしょう。

 押し付けがましい正義感は、夏の太陽にくべてやりました。

 燃え盛る炎の熱で、私達は、蝋のようにお互い溶け合ったのです。

 太陽が沈んでしまうと、溶けた私達は、しだいに固まり始め、ひとつになろうとしていました。

 この時だけは、あなたの本性がわかります。

 ああ、確かに、確かにです。

 けれど、やがて、私達は、お互いに正体をなくしていくのです。

 たった、ひとつになるために、己を失うのです。

 だから、せめて、最後に、あなたの傷に触れさせてください。

 指でなぞると、それは熱を帯びていて、あまりの熱さに、火傷をしました。

 どろりと溶け出す火傷の痕。

 ぽとり、ぽとりと、したたる記憶。

 冷たい地に落ちると、煙となり、夏の夜空へ昇りました。

 罪深い私達を見つめる月の、目隠しとなりました。

#掌編 #小説

 

 

 

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