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先生と僕(14)「ピチピチ先生」

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樹の枝に小鳥が音符のように並んでいた。僕が窓を開けた瞬間、小鳥たちは飛び立ち、揺れた枝から雪の花弁が舞う。僕の後ろ手に隠し持ったずるさに気付かれたのかもしれない。雪の降った後の世界はあまりにも浄化されているので、隠し事はすぐに見透かされてしまうのだろう。

 休み時間、僕は廊下の窓を開け、中庭を眺めていた。
 雪の降り積もった中庭は、眩しく輝いている。春になれば、美しく咲き誇る桜の樹の枝に、白い雪の花が咲いていた。
 そんな桜の樹の枝に、はらりと何かが落ちた。白いTシャツである。そして、陽の光で輝く眩いTシャツに駆け寄る者がいた。
「うおおおお」
 体育教師の苫米地強先生である。彼はスーツの下にいつも白いTシャツを身に着けている。
 先生は樹の枝にかかったTシャツに手を伸ばす。しかし、届かない。
「くそう!」
 先生はジャケットを脱ぎ、白いTシャツ一枚になった。
 Tシャツのサイズが小さすぎるのだろう。あまりにも肌に密着している。筋肉質の先生の身体の線が遠目にもわかるほどにピチピチだ。
「うおう!」
 先生はTシャツに向かってジャンプする。もう少しで届きそうだ。
「うおお!」
 先生はさらにジャンプする。ようやくTシャツに先生の手が触れた。もう少し。
「うおおお!」
 先生はさらにジャンプ。ようやくTシャツをキャッチする。
「うおおおお!」
 先生のピチピチのTシャツが張り裂け、あたりに雪のように舞った。

「おーい、なに見てるんだ」
 通りかかった純也君が僕に声をかけた。
「中庭の景色を見てたんだ」
「そんなの見ておもしれーか」
 やれやれとばかりに、純也君が窓から顔を出す。
 純也君の頭に、張り裂けたTシャツの一片がはらりと載った。陽の光をはね返し、まるで雪の花弁のように、可憐な輝きを放つ。
 僕は思わず、純也君の頭に触れてしまう。
「ごめんね、あまりにもきれいだったから」

To be continued.

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