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先生と僕(13)「ポジティブ先生」

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 冬のあたたかいものは特別だ。お風呂、ストーブ、おでん、シチュー、手袋、帽子、マフラー。それらのあたたかいものに触れた瞬間、沸き上がる幸せを集められやしないだろうか。出来るのなら、僕はジャムの空き瓶に集めておきたい。そして、寂しくなったら、蓋を開けて、陽だまりでこんがり焼いたトーストの上にのせるのだ。

 今日の体育は校庭で雪上サッカーである。二組と合同で行い、チームに分かれて試合を行った。
 サッカーは割と得意なのだけれど、雪上となると足がとられて、普段の動きが出来なかった僕は、二組の翼君を転ばせてしまった。
「ごめんね、大丈夫?」
「大丈夫だよ。気にすんな」
 翼君はそう言って笑ってくれた。
 しかし、立ち上がった彼は、明らかに右足をかばい、不自然な歩き方をしている。
「本当に大丈夫?」
「平気さ。ボールは友達さ」
 強がって笑う翼君は、あまりに痛々しく、見ていられない。
「保健室へ行こう」
 僕は先生に事情を話し、翼君を保健室へ連れて行った。

 保健室のドアを開けると先生がいた。いつもの先生とは違う。
 頭にはリボン型のハチマキ。白い肌着のようなシャツを着て、腹巻を巻いている。どこかで見たような……誰かのパパのような……代理の先生だろうか。
「どうしたのだー?」
 先生は間延びした口調で訊ねた。
「翼君が足をくじいたみたいなんです」
 僕は翼君を保健室の椅子に座らせた。
「それは心配なのだー」
「湿布ありますか」
「あるのだー」
 先生は戸棚から湿布を取り出し、翼君の右足首に手際よく張り付け
「これでいいのだー」
 と明るく笑った。
 なんて、ポジティブな先生なんだろう。
 僕達はつられて笑顔になった。

 僕と翼君は保健室を後にする。まだ足をかばって歩く翼君の手をとりながら、僕達は廊下を歩いた。
「念のため病院に行った方がいいと思うよ」
 先生に湿布を貼ってもらったけれど、まだ心配だった。
「大丈夫だって」
 気にするなとばかりに笑う翼君の髪に、僕は一粒の雫を見つけた。サッカーをしていた時に、雪が頭にのったのだろう。廊下の窓から差し込む、柔らかな光を蓄え輝く雫。瑞々しい果実のようだ。今にも零れ落ちそうで、僕は思わず、翼君の髪に触れてしまう。
「ごめんね、あまりにもきれいだったから」

To be continued.

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