どうぞ。お受け取りください。これで涙を拭いてください。
アスファルトに張り付く影は短いので、ともすれば消失しているでしょう。
突き刺す陽の光はあまりにも正しく、見上げることは憚られ、俯くばかりでしょう。
こぼれる涙は、一瞬のきらめきさえも許されず、鋭く頬を切った後、湯気となって天へ昇っていきます。
せめて、あの傲慢な陽の光を遮る雲の一部となりますように。
ふいっと風が吹いて、一枚がひらりひらりと空へと向かいます。
おおらかなクヌギの枝の先で綿あめのようになったり、名もなき鳥の疲れた翼を優しく撫でたりしながら。
もう手を伸ばしても届きません。
あれは、雲でしょうか。それとも。
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