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朗読台本|素直な君のレアリティ

「大丈夫?」

僕は、君に出会ってから、この言葉を783回聞いている。

けれど、君にこの言葉を投げかける行為は
全く意味がないと言っていい。
例えるなら、
冒頭で僕が言った回数の正確さを問うくらい
全く意味がない。

それは君がこの言葉に対して
ほぼ反射的に「大丈夫」という単語を返しているだけで
そこには、置かれた状況が全く反映されていないからだ。

39度の熱を出している時も
大きなミスをして焦っている時も
彼氏に浮気をされて落ち込んでいる時も
「大丈夫?」と聞けば「大丈夫」と答える。

これまでに「大丈夫」以外の答えが返ってきたのは
たった一回だけだ。

それは高校三年の冬。
第一志望の大学の合否判定を
一緒に見てよと言われて君の家に行った時、
用事でちょっとだけ発表時刻を過ぎてしまった僕は
割と焦っていた。
おばさんに挨拶をしてリビングの扉を開けると、
君はダイニングテーブルに座って
ノートパソコンの前で硬直していた。

いつも通り「大丈夫?」と聞くと
めずらしく「大丈夫じゃないかも……」とつぶやいた。
模試でたったの1回もA判定を取っていなかったから
僕は内心やっぱりだめだったかと肩を落としたが
いや待てよと思い直す。
合否を冷静に見ることができる人間がいるだろうか。
ましてや第一志望だ。
いま目の前で硬直している君が
平常心を保っているとは思えず
左手に握りしめた受験票を奪って
番号の羅列を追う。

結果は、案の定合格だった。

「大丈夫じゃん」

「うん、大丈夫だった……」

君は涙目でこちらを向くと
そう言った。

これが君が言った唯一の「大丈夫」以外の言葉だ。

それから幾年も年月が流れ
数えきれぬほどの「大丈夫?」を言いながら
僕はいまも君の隣にいる。

元気な日も、元気じゃない日も
楽しい日も、楽しくない日も
上手くいった日も、上手くいかなかった日も
なんやかんやと隣にいて
君のその意味のない「大丈夫」を聞いてきた。

たぶん君はいいことでしか
違う返事をくれないから
僕はこれからも、そのスーパーレアな返答を楽しみに
君の隣にいることにする。

「ねぇ、お茶こぼれてるけど、大丈夫?」

「え? あ、うん。だ、いじょう…ぶ?」


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