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【架空文通】二川さんのお手紙に対する返事(小説風に仕立て、作中に返事を織り交ぜてみる)

二川さんへ

今日はちょっと趣向を変えて、小説風に仕立てて、その中で、貴殿のお手紙に対する返事を織り交ぜていきますね。では、はじまりはじまり。


社員「すいません、ちょっといいでしょうか。」
課長「うん、どした。」
社「芥川賞の応募作品をチェックしていたら、作品じゃないんじゃないか、と思われるものがありまして。」
課「原稿に書かれているんだろ、なら、作品だよ。表現の仕方は作家が常に新しい切り口を考えてくるものなのだから、俺らが作品じゃないと決めつけるのは問題だぞ。」
社「でも、これ、間違って出したんじゃないか、としか思えなくて。」
課「どれ、見せてみ。」
社「これです。」

 拝啓、やっほーい。
 だーれだ、俺だよ。コロナでどこにも出かけられないのと、梅雨で日光に当たれないののダブルパンチですっかり鬱になってしまったよ。俺が正常に保たれる為の必須要素が、当てもなく出歩くことと太陽の光だっていうのに、両方とも取り上げられたら、もうおしまいだ。
 ああ、ジュリエット、どうしたらいいんだ。君に会いに行こうと思っていたのに、GoToキャンペーンから東京が外され、東京以外の道府県からは東京もんは来るな、と言われ、気分は映画『ワールドウォーZ』のゾンビだよ。

 でさ、最近の俺って、塞ぎ込む度合いがますます強くなってきて、「やばい、何かからエネルギーをもらわないと」と考え、「そうだ、植物の力を借りよう」と思ったのよ。思い立ったが吉日、自転車を立ちこぎして花屋からハーブを八種類も買ってきたんよ。バジル類とミント類で、レモンの香りがするものばかりで固めたんよ。
 調べてみると、置いておくだけじゃだめで、接触しないと香りが立たないそうだ。ということで、せっせかせっせかと葉っぱをこすっては手に付いた香りをかいでいたんよ。しかし、手でやるのがだんだんめんどくさくなってきて、顔をハーブたちの中に埋めて、左右に振るということを考案したら、これが最も効率的であることが判明し、今じゃ、始終顔をプランターに埋めて「ううううう」と振っているんだよ。そしたら、それを見たうちのスタッフが「社長がやばい草を栽培している。」と思っているようなんだな。
 でもな、この前、観測史上最大の倦怠感に襲われて、もう、ハーブじゃ、太刀打ちできなかったのよ。じゃ、どうする、って伸びちゃったハーブを食べながら考えたんだよね。そしたら、ハーブの上級神である生薬様を召喚しよう、と閃いたんだ。で、また自転車立ちこぎをして、駅前のココカラファインに突っ込んで、「生薬はどこじゃあ。」と出入りしたんよ。レジの店員さんが「生薬が含まれているものならユンケル黄帝液ですかね。」と言い終わるのが早いか、ダッシュで栄養ドリンクコーナーへ向かったんよ。
 栄養ドリンクたちが一堂に会した棚の前に来るや、「ユンケルって奴はどいつじゃあ。」って左右上下に眼を飛ばしまくったら、目の前におったんよ。灯台下暗しっちゅうのはこのことや、ジュリエットも気いつけい。
「おう、お前がユンケルか、ちょっと来いや。」としょっぴいていこうとしたら、どうもそいつが「容疑者は他にもいるんじゃないのか。」っていうそぶりを見せたんだよね。それで、そいつの襟首つかんだまま周囲を見てみると、なんと、ユンケルに親族がいて、みんながすました顔で突っ立ってるんよ。十種類くらいあったかなあ。
 こうなると、俺の性格上、大問題なんよ。ほら、俺って繊細で緻密な性格だから、自分に最適なユンケルを選ばないと気が済まないんや。俺は「しゃあねえな。」と言って、その場にしゃがみこんでスマホで検索したんよ。俺の疲れの種類と、それにマッチするユンケルはどれだって、ね。結果、ユンケルDが最適らしい、ということが分かったんで、そいつをむんずとつかんだんよ。その時、次の問題が発生したんよ。
「一本七百円。」
 値札を見て、俺は考えた、「今まで、チオビタドリンクレベルしか飲んだことがなく、それはせいぜい百円だ。なら、チオビタを七本飲んだ方が効くんじゃね。」と。
 しかし、その案は瞬時に却下された。昔、一気に三本飲んだら気持ちが悪くなってしまったことがあったからだ。ここは量より質だ。そう思って、勇気を出してレジに向かった。
 まあ、結論から言えば、効いたんよ、それもすっごく。
 でもな、これからも続くかもしれない観測史上最大の倦怠感に対して、毎回七百円って、高いなあ、とケチ根性がムクムクって起き上がってきたんよ。これもさ、おかしな話だよね。だって、飲みに行ったら平気で一杯それぐらいするお酒を深く考えもせずに何杯も飲んでいるのに、仕事する日中で必要性がある状況なのにケチるなんて、人間て本当に非合理的な生き物だなって思ったんよ。
 そこでまたまた閃いたんよ。なら、いっそのこと、原材料の生薬を栽培しちゃえばいいんじゃね、ってね。検索してみると、山草屋さんが通販していることが判明したので、早速、取り寄せたんよ。今、机の左横におるよ。イカリソウって奴な。別名、淫羊霍(インヨウカク)っていうちょっとアレな名前だけど。葉っぱを食べてみたんだけど、無味で硬かった。効き目はあるとおもう、たぶん。まあ、漢方なので遅効性だよね、きっと。

 とまあこんな感じで、つまらない毎日をなんとか面白くしようとしている俺です。アディオスっ、ちゅちゅ。
敬具


課「これは、間違いだな、おそらく。」
社「おそらくじゃなくて、明らかでしょう。どうします。」
課「とりあえず、淫羊霍を買おう。」