「正しい」百合に怯みそうになってしまう瞬間がある

まず、この記事のおいてnoteの記事やTwitter投稿を引用していますが、投稿者の意見を否定する意図はないことを明記してきます。

「非百合作品で描かれる曖昧な百合描写へのうっすらとした忌避感がある状況やキャラクターが同性愛者であることの明言をこそ『正しい』とする風潮がある現状で、私自身が『私自身を肯定しながら』百合作品を発表することに困難を感じている」という趣旨の記事です。

非常に安定した読書家のかたで、個人的にも(特に百合の)趣味が合うなと感じているので参考にさせていただいている記事です。記事の引用についてもご快諾をいただいたことを先に記載しておきます。ありがとうございます。

その中に、こんな一文がありました。

・「サービスシーン」と思しき百合シーンがあるんだけど、非百合作品のこういうシーンをどういう気持ちで読んだらいいのか分からない百合ファンです。

「【読書メモ】今週読んだ5冊(ナナつばき@百合と読書,2024年2月18日 11:01)」より

この感想を読んで、「うーーーむ」と考え込んでしまうのでありました。
まず、当該の感想を抱かれた作品については、いわゆる「百合=ガールズラブ」というカテゴリの作品ではなく、ごりごりのミステリ活劇であり、著者様もミステリジャンルでご活躍の俊英です(『アンデッドガール・マーダーファルス』はいいぞ!! アニメもめちゃくちゃ好き!! 未通過のかたはぜひ!!)。ナナつばきさんがどういった部分を「サービスシーン」と感じられたかについては不明なのですが、この一文は現在の百合ファンダムにおいて、マジョリティを占める感覚なのではないかと思います。

①キャラクターが女性同性愛者と明言しないことはフェアではない
②百合だからといって「悲恋(特に、同性以外とカップルになるなど)」になることは正しくない
③作品内に不必要な男性キャラは必要ない

などが現状、私が観測できるファンダムの主流なのかな……と思っています。もちろん、ここに至るまで(百合に挟まりたがる男をはじめとして)、ジャンルとしての百合を脅かす状況に晒されてきたことは忘れてはいけないですし、その前段があっての現状だと思っています。そして、「同性愛者です、と明言されたキャラクター像」っていうのは、もちろん同じ状況にある当事者としても嬉しいものなんじゃないかと思います。

ただ、現在の「正しい百合」の風潮において、個人的にちょっとしんどい思いをしているというのが正直なところです。というのも、私個人が恋愛感情がほとんどない/わからないし、女性にも男性にも性的に惹かれることはまぁあるかな…という人間です。その中で、自分自身が「世界がこうあってくれたなら」と思いながら書く女性同士の関係は、どうしても「同性愛者であると明言をしない、恋愛でもない、女性同士の性的接触や疑似家族」が多くなってきてしまうんですよね。で、そういう(私が生活の中で直面してるような)「特に理由がない」「明言もせず曖昧」な同性同士の親密な接触や関係が、エンタメにたくさんあってくれたら楽しいのにな……と常々思っているんです。
「ジャンルが百合です」という作品においては、①~③を守ることは読者が期待するものを提供するという、作者と読者の間にある約束のうちに含まれているはずなので、逸脱するのはルール違反になるでしょう。

私はジャンルとしての百合エンタメも大大大大好きです。反面、様々なジャンルのエンタメの中に女性同士の色々な関係が当たり前の顔をして存在していてほしい。世の中に1つでもそういう作品が増えてほしいな……と思いながら、私自身もあれこれ書いているわけです。

個人的には『男も女も、恋をする人もしない人も、色々な人間、選択肢がある世界』で、『それでも「あなた」を選ぶ女性同士の特別な関係』を描くのが超~~~~~好きなわけです。でもその特別な関係が恋愛だけにフォーカスされてしまうと、自分自身が置き去りにされたような寂しい気持ちになってしまうんです。

3/5(火)2:00 追記

それでね。上記のような状況で、『ジャンルとしての百合』ではない場で女性同士の心身の接触を書いたとして。筆者である私のことを何も知らない百合ファンが読んだときに”「サービスシーン」と思しき百合シーン”と区別することができるのだろうか…私が私自身の置かれている状況や感情、生活している中で感じる願いを肯定するために書いているものが、「正しくない百合」として断じられてしまったら…と思うと、タイピングが止まることがしばしばあるのです。

※ちなみに、私は女性同士の関係において「恋愛感情」の有無を、プロモーションの段階で「百合作品です」と明言するかどうかを軸にしています。


最初に書いたように、この記事は誰かを攻撃したり否定したりする意図はなく、百合好きで、自分自身がふわふわした人生を歩んでいる私が、(ほかならぬ自分自身を肯定するための表現として!)「女性同士の関係」を書くことに少し尻込みをする状況が続いていて、ちょっとしんどいんだ…というぼやきです。そういう女の書き手もいるんだよ、ということをちょっとだけでも覚えておいていただけたら嬉しいです。