冬に咲く花
真夏の、ほんの一時期しか咲かない薔薇の木が、この真冬の大雪の中で花をつけた。
昨年から、「いつもと違う」ことがたくさん起こっていて、極めつけがこの薔薇だった。
不思議は日常に、案外あふれているのか。
少し前、大雪警報が出て、車の運転もできないほどに積もり、風は台風のように吹き荒れ、家の駐車場の片隅にある薔薇の木は、大きく揺らされていた。
あまりにひどい寒風と雪の重みに、枝が折れるのでは、と、メンテナンステープとハサミを持って玄関を出た。
毎年夏になると目を楽しませてくれる薔薇の花たちを思い出し、風と雪に木がいじめられているようで、かわいそうだと思ったのだ。
横殴りの雪から頭を守るために、コートのフードをかぶって手で押さえながら、薔薇の木に近づくと、いくつかピンク色の花びらが目に入った。
あれ?花が咲いてる?今?冬に?
コートのフードを押さえていた手から力が抜けて、風にあおられて髪がびしょ濡れになった。
私の背よりも高くなった枝に手を伸ばし、ピンクの花の雪を払った。
夏には柔らかな花びらの一枚一枚が、今は凍りそうに硬くなっていた。
持っていたハサミで、とりあえず花のついた枝を切った。
縁が少し茶色く変色しているのは、低い温度のせいだろうか?
だいたい、蕾があったことも知らなかった。
夏にしか咲かない薔薇なのだから。
水に入れて、窓のそばに置いた。
何日か部屋の中で過ごした花は、ぎゅっと固まっていた力をほどいて、少しだけ花びらを開いた。
「雪と出会えたなんて、冒険だったね」
薔薇に話しかけては、私も寒さで固まった気持ちを柔らかくした。
雪はあれから半分以上が溶けて、道路にまた車を出せるようになった。
いつもの冬の日常が戻り、過ぎて行く。
植物の変化について詳しいわけではないので、大雪の日に咲いた薔薇の理由はよく分からない。
ちょっとした奇跡のようでもあり、何か意味があるのかな?と、水に挿した花を見るたび聞いてみたくなる。
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