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【開発秘話】CEO×CXO×CTOが語るTGSVR2022の魅力とこだわり

※こちらの記事は昨年別媒体にて掲載した記事の再編集版になります。

2022年9月15日から18日にかけて開催された、TOKYO GAME SHOW VR 2022(以下、TGSVR2022)。昨年引き続き2年連続で、世界最大級のゲームの祭典である東京ゲームショウのVR会場を、ambrが企画・開発いたしました。

今回は、コンセプトの誕生秘話やバーチャルイベントゲーム体験設計の背景を中心に、CEO西村さん、CXOカンナさん、CTO藤田さんにお話をお伺いしました。
TGSVR2022に対するambrのこだわりと、込められた思いについてお伝えしますので、実際にTGSVR2022へ来場した方や、ambrにご興味のある方はぜひご一読ください!

お話していただいた西村さん(上)、カンナさん(左下)、藤田さん(右下)

CEO: Takuya Nishimura / 西村 拓也
東京大学法学部卒業後、プライベートエクイティのアソシエイト、エンタメテック企業の取締役CSO等を経て、ambrを創業。『TOKYO GAME SHOW VR 2021』や『マジック:ザ・ギャザリング バーチャル・アート展』のプロデューサーを務める。コーヒーが好き。

CXO: Kanna Banjo / 番匠 カンナ
2018年から活動するバーチャル建築家。固有の空間を求め、実空間とバーチャル空間を分け隔てなく設計する。
「TGSVR2021」「マジック:ザ・ギャザリング バーチャルアート展」のディレクション、XR系新規事業の企画・デザインコンサルティングなどを手掛ける。

CTO: Yusuke Fujita / 藤田 裕介
医療設備会社でVRとオンラインを駆使した仮想設備検証シミュレーターを単独で企画/設計/開発。ambrを創業後、VRSNS「仮想世界ambr」の開発を手掛け、直近では「TOKYO GAME SHOW VR 2021」のテクニカルディレクターとして開発統括を担当。


「ゲームショウがゲームになる」コンセプトが形になるまで

ー西村さん、カンナさん、藤田さん、本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、TGSVR2022での役割について教えてください。

カンナさん:よろしくお願いします。私はディレクターを務めていて、どういう構想・体験にするのかという体験設計を担当していました。社内的にはプランナーに属しています。
体験設定に関しては、コンセプト設計のような上流部分も考えつつ、実際のVR空間の空間デザインディレクションや、アバターのセリフ内容を考えたり、出展社への企画提案もしていました。

藤田さん:私はテクニカルディレクターとして開発の統括を務めていました。また、クライアントエンジニアとして、コア機能の実装や基盤改修を中心に、開発も行っていました。

西村さん:僕はプロデューサーとして、全体のプロジェクト統括をしていました。

ーありがとうございます。それでは早速ですが、TGSVR2022のコンセプト概要について教えていただけますか。

カンナさん:TGSVR2022のイベント自体のコンセプトは、「ゲームショウがゲームになる」です。
実は昨年も同様のテーマを掲げてはいたんですが、まだ十分ではなかったと感じ、今年も同じテーマを掲げることになりました。今年はこのコンセプトを対外にもしっかりと出していきました。

そのコンセプトから出てきたキーワードとして「ダンジョン」があり、さらにストーリー設計をしていく上で「ゲームの地層」というアイデアが出てきたという感じでした。

会場を上から見下ろした様子。地層ごとに異なるコンテンツを楽しむことができる。

ーなるほど。「ダンジョン」というキーワードはカンナさんが中心となって出てきた言葉なのでしょうか?

カンナさん:「ゲームショウがゲームになる」というコンセプトを老若男女に分かりやすく伝えたいと思ったときに、「ダンジョン」という言葉がぴったりだと思いました。
ただ、CGを担当していた今村さんのアイデアが大きいですね。対面での打合せがあった際、帰りの電車で私と今村さんが一緒に帰っていた時に「ダンジョン作りたいんですよね。」という今村さんの言葉を聞いて、「ダンジョン」っていいなって思ったんです。
作る側も「ダンジョン」という言葉はイメージが膨らみやすい言葉だったと思います。

※今村さん:株式会社ディフューズ・エンタテイメント代表取締役。TGSVR2022ではCG制作を担当。

ー具体的にはどのようなイメージが湧いたのでしょうか?

カンナさん:「ダンジョン」というと、「誰かと一緒に冒険する」とか、「奥に潜っていく」、「知らないところを探検して何かを発見する」というイメージも含まれているので、その共有は早い段階でできていたのかなと思います。

ー確かに「ダンジョン」と聞くと、探検というイメージが湧きますね。それを踏まえたストーリー設計として、今回はゲームの地層をどんどん探検していくという設定でした。これはどのようにアイデアが固まっていったのでしょうか?

カンナさん:舞台設定に関しては、今回のTGSVRにおいて、幕張メッセでの対面開催が復活することを踏まえたアイデアでした。対面開催と関連づけて、幕張メッセが舞台だと面白いんじゃないかという話になり、幕張メッセに生じた大きな穴に潜っていくことで地下のVR会場に繋がるという設定になりました。

地下のVR会場へ降りるためにエレベーターに乗る

また、具体的に「ダンジョン」のイメージを膨らませていく段階で、今村さんとお話をしていくなかで、深さ=年代というアイデアが決まりました。なので、上層部には2022年の綺麗なビジュアルの展示物が広がり、下にいけばいくほど、昔のグラフィックが出土していくというようなイメージになっていて、最下層の地層では、ピクセルとかドットが出てきたりします。

ーゲーム設計に関しては、どのような目的があったのでしょうか?

カンナさん:あくまでクエストは、出展物を楽しんでもらうための補佐的な要素なので、なるべく全体を回って会場を楽しんでほしいという気持ちがありました。
クエストに関しては、去年は動画を視聴するとTシャツをゲットできる、というようなクエストだったのですが、今年は写真を撮るクエストがあったり、特定の通路を通るとクリアできるクエストがあったりして、クエストの幅を広げました。

加えて、TGSVR2022全体としてオリジナルのストーリーを付け加えることで、冒険を楽しむ目的を作りたいという思いもありました。

VR会場では自分のアバターを作り、会場を回ったりクエストを楽しんだりすることができる

藤田さん:今回は72種類のクエストを新たに作ったので、クエストの幅は本当に広がりましたね。Grab&Playという、映像やポスターを引き寄せるアクションをするとクリアするクエストや、カンナさんがさきほど言及していたようなカメラ機能を使ったクエスト、あるゲートを通るとクリアできるクエストなどがありました。
クエストシステムを通じて、ユーザーの方により一層TGSVR2022の体験を楽しんでいただくということができたと思います。


サウンドで世界観を作りこむ

ーTGSVR2022の感想を読んでいると、「サウンドやBGMがすごい」という声が多くみられましたね。

カンナさん:今回サウンドに関してはambrエンジニアの越山さんと、サウンドクリエーターの冨田さんにお任せしていました。冨田さんは、以前ambrが担当した「マジック:ザ・ギャザリング バーチャルアート展」でも関わっていました。

藤田さん:冨田さんはメジャータイトルの楽曲制作の担当やサウンドディレクターとしてご活躍されている方で、ambrとは業務委託で関わっていただいています。
直接ご縁があったわけではないんですが、社内に冨田さんのファンがいて、「マジック:ザ・ギャザリング バーチャルアート展」のプロジェクトを進めているときにお声がけしたら、ご快諾いただいたんです(笑)そこからambrの楽曲制作やサウンドエフェクトも含めて、サウンドは冨田さんにお任せしています。

カンナさん:個人的には今回のサウンドエフェクトやBGMはめちゃめちゃ好きです。

ーTGSVR2022のサウンドに関しては今回どのような変化があったのでしょうか?

藤田さん:前回のTGSVRから大きく変わったことの1つとしては、ブースごとにBGMが切り替わっていくという点かなと思います。歩くだけで、出展タイトルにちなんだ楽曲が流れてきて、今回はサウンドによって体験のボリュームは大きく向上したのではないでしょうか。
実際に開発のデータを見てみると、昨年のTGSVRと比べて全体で音源のサイズが4倍の大きさになっていました。

カンナさん:昨年人気だったのは、ゲームの世界観を体現したようなブースだったので、今年はそれを増やしたいという思いがありました。そのためには、やっぱりBGMがないと体験が強くならないので、今年は各社に音源の提供を依頼しました。「マジック:ザ・ギャザリング バーチャルアート展」をやったときにも、音の大事さを痛感していたので、それが今回活かされたと思います。

藤田さん:ただ歩くだけでもブースにちなんだサウンドが聞こえるようにするというのは、思った以上に体験に大きく影響すると感じましたね。

*TGSVR2022のサウンドに関しては、次回記事にて詳しくご紹介します!


TGSVR2022でのこだわり

ーこれまでコンセプト設計や実装についてお聞きしてきましたが、TGSVR2022におけるこだわりがあれば、教えてください。

藤田さん:いくつかありますが、まずはモノを掴めるシステムを実装し、入力デバイスが異なるPCとVRいずれもうまく機能させるようにしたことですね。特にVRの方では実際にモノをつかむように手をかざす操作方法にしましたので、他の人からも「モノを持っている」状態を分かりやすくすることができたと思います。次のプロジェクトからは、色んなものを持つことができるように展開していきたいと思いますね。

次に、機能というより全体の話ですが、グラフィックの強化ですね。
グラフィックの基礎部分に当たるレンダーパイプラインという部分をUniversal Render Pipelineへアップデートしたのですが、光の陰影が柔らかくなり、自然な質感になったように感じます。また、元々Meta Questのようなモバイル端末では発光の再現が難しかったのですが、綺麗に発光できるようになりました。
今回のユーザーさんにも「グラフィックが綺麗になった」という声をいただいたので、グラフィックの強化に大きく貢献したのかなと思いました。

あとは先ほども述べた通りですが、サウンドもこだわったポイントでした。

カンナさん:こだわっていたのは、やっぱりアバターカスタマイズシステムですかね。昨年と異なっていて、ユーザーの方にとても楽しんでいただいたと感じています。
今年のアバターは人型で足ができたのに加えて、着せ替えシステムも導入しました。
着せ替えに関しては、アバターの顔や髪色、髪型なども初期設定で変更が可能になったほか、クエストをクリアしていくごとにどんどん着せ替えができて、頭・身体・足にそれぞれ着せ替えを適用できるようになりました。

初期設定で、アバターの髪型や目の形などを設定することが可能

これはユーザーの方の体験にかなり大きな影響を与えましたし、作る側としても力を入れたところでした。開発面では、やはりアバターのモーションや骨格の調整が難しかったり、VR空間を楽しむのに身長や目線の高さはどれくらいが適切なのかを検討したりするのが大変そうでした。しかも今年は、出展社や協賛企業のIPを活用させていただいた着せ替えアイテムも制作したので、その制作過程でのコミュニケーションや実際の制作も踏まえて、非常にハードな仕事だったと思います。でもそのおかげで、ユーザーの方が得る体験のリターンも大きかったと思います。

あとは、ファミ通エリアにも力を入れました。ファミ通エリアはゲームの地層の中層にあるのですが、「30年史」やクイズなど、長い間ゲームを楽しんできた方に喜んでいただきました。

地層の中層からの光景

藤田さん:大学の友人とあそこ回ったんですけど、「あの頃これ発売してたよね」とか話して盛り上がりました(笑)

カンナさん:内容はファミ通さんの過去記事そのものなのですが、空間を使って改めて展示することで、初めて出会う展示のように皆さん楽しんでくれるので、2Dのコンテンツであっても、見せ方によってはまた違った魅力が出てくるということは、今回の発見でした。

ー西村さんからみて、TGSVR2022のこだわりはどの部分だと感じますか?

西村さん:ゲームショウの主役は各ゲーム企業の出展物であって、それを補佐するためのゲームデザインという考えで、体験を設計してきました。各社の出展スペースがどれだけ豊かなものになるかが最も大事だと思ってきたので、出展してくださる各社とたくさんご相談させていただくことで、昨年よりもにぎやかな出展スペースを一緒に作らさせていただけたことは非常に良かったなと思います。
3Dモデルが派手なアニメーションで動いていたり、実際のゲーム空間を出してもらえたりなどはやはりバーチャルならではの体験なので、そういったスペースを一緒に実現できたことはとても嬉しかったです。

カンナさん:そうですね。今回のTGSVRでいえば、色んなゲーム会社さんから直接ご提供をいただいて、アニメーションやサウンドの埋め込みができたブースがありましたね。

藤田さん:Twitterを見ていると、そのゲームを実際に体験したことのないユーザーでも演出を楽しんでいるような様子の投稿があって、反響が大きかったように思います。


今後挑戦していきたいこと

ー最後になりますが、今後のプロジェクトでチャレンジしてみたいことがあれば教えてください。

カンナさん:そうですね…VR空間の中で、特定の時間になったら始まる一回性のあるイベントを作ってみたいです。VR空間は好きな時間に楽しめるという魅力もありますが、あえて一回性のイベントを作ることで、イベントの体験が深まると思うんです。

藤田さん:私は「お祭り感」をもっと強化した空間を作りたいですね。
お祭りって、やっぱり多くの人が周りにいるとか、ごった返している雰囲気が重要だと思います。なので、技術面で多人数化できたらいいなと思いますね。

あとは、もっと公開期間の長いプロジェクトやイベントをやってみたいです。
公開期間がある程度短いことで集客がしやすい部分もあるかと思いますが、バーチャルの利点は時間や場所の制限を受けにくいところでもあると思うので、もっと長く公開しほしい、というユーザーの声に応えられるようにしていきたいと思っています。

カンナさん:期間の話でいくと、例えばTGSVRについても、そもそもの意義を考え直したうえで、時期や期間を決めても良いのかなと思いました。
TGSVRのポジションというか、誰のための何のイベントなのか、というのを決め直すことで、時期や期間も紐づけて決定できると思います。

ー西村さんはいかがでしょうか。

西村さん:挑戦していきたいことは2つあるんですが、まずはインタラクティブ性をさらに高めたいという点ですね。
今のプロジェクトでも、既にユーザーがカスタマイズできたり、クエストをクリアしていったりと、ある程度インタラクティブ性が高いバーチャルイベントになっているとは思います。
ただ、せっかくメタバース空間があるので、ユーザーが自分のイラストを貼りだしたりとか自由にコスプレしたりとかしてもらうともっと面白いと思うんですよね。もっと参加性を高めて、「ユーザーがむしろコンテンツをつくる」などができるような企画にもいずれ挑戦してみたいです。

もう1つは、「空を飛びたい」って僕めっちゃ思っていて(笑)
今回のTGSVRでも大きなキャラクターが配置されてましたけど、床からしか見ることができなかったので、それをもっといろんな角度から見たいなと思いました。
本当の意味で自由に、色んな視点で遊べるようなイベントを作ってみたいなと思いました。

ー西村さん、カンナさん、藤田さん、お話ありがとうございました!


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