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「多様性は認めるものではなく、自分が多様性に属していると認識すること」神谷隆幸シェフへのインタビュー

フランスでお仕事を始めることになったきっかけを教えてください。

フレンチの奥深さに気づいたことがきっかけです。日本でもずっとフレンチのレストランで働いていたのですが、洋食って作りながら驚かされることが多くて。「なんでこのソース、こんな色になるの ?」とか。日本料理とも中華料理とも違った魅力がありました。フレンチの本場に飛び込みたいと、思い切って29歳のときに南仏コートダジュールにあるエズ村にやってきました。最初は1年程の滞在予定だったのですが、語学も料理も1年で習得するには足りなくて。今でも毎日学ぶことがありますよ。その後、働いていたミシュラン星付きのシェフから「うちで働かないか」と声をかけていただいたこともあり、フランスに残ることを決意しました。2019年にはカーニュに自分のレストラン・La Table de KAMIYA をオープンさせました。

被災地や台風などで被害を受けた農家を支援する活動を行われていますが、その取り組みについて教えていただけますか。

「#被災地農家応援レシピ」の取り組みは去年、多くの人々の協力によって始まりました。日本の台風で長野のりんご農家が大打撃を受けたことをニュースで知り、オンラインで行っていたお菓子教室でなるべく被災地のりんごを買うように生徒さんにお願いしたことがきっかけです。その後ツイッターで、「被害にあった地域の農家のりんごを買った人にはタルトタタンのレシピを提供する」というツイートしたのですが、それに多くのシェフが賛同し、色々なりんごを使ったレシピを無料で公開してくれました。「みんなが集まれば力になる」ということを改めて感じさせられました。

被災地農家応援レシピの有志で集まった #CookForJapan のシェフ達

まさにフランス語のSolidaritéを彷彿とさせる素晴らしいアイデアだと思います。このような取り組みに対して前向きになるきっかけはあったのですか ?

去年の災害時はフランスにいたので直接的な支援ができなかったのですが、「離れていても自分は見ているよ」ということを伝えたいと思ったことが1つの理由です。自分がフランスでいろいろな人に支えられるうちに、「誰かが自分のことを考えてくれている、見てくれている人がいる」、それに気づくことが人にとって大きな心の支えになると気付きました。フランスでは人と人が助け合う機会を目にすることが多いですよね。料理人が参加できるチャリティーなども地域ごとに様々あるので、チャレンジしたいと思った時に気軽に参加しやすい雰囲気があると思います。今年はコロナウイルスの影響で実現できなかったのですが、他にもフランスのシェフ達と自分たちが作った料理と新品のおもちゃを交換し、それを病院の子供たちに届ける活動などをできる範囲で行っています。子どもたちだけじゃなくて、御両親方も嬉しいですよね。仕事と両立するのはやっぱり大変ですが、このまま支援の輪を広げていきたいですね。

病院の子供たちにおもちゃを届けたとき。

なるほど。神谷さんによって広げられた支援の輪ですが、神谷さんの人徳によるものもあるような気がします。
そう言ってもらえると嬉しいですが、僕だけの力ではここまで大きく動くことはなかったと思います。周囲の人のおかげで見えた世界です。僕は根本的に自分に自信がないから、本当にいつもドキドキしているんです。「今やっていることは正しいのかな」とか考えだしてしまったりね。あ、でも料理はもちろん自信満々で出しますよ ! (笑)。僕は自分が行動を起こせないことに対して本当に長い間モヤモヤしていたので、今何かしたいと思いながら行動を起こせない人の気持ちがとてもわかります。でも、勇気を出して自分から何かを発信することはフランスでとても大事にされていることだと感じます。やりたいことははっきりと言葉にして、伝えて、そしてそれを実現するために自分が行動を起こすことの大切さを僕はここで学びました。

パートナーのクレール真理さんもパティシエールということで、夫婦で活躍されていることがとても素敵ですね。忙しい2人が家庭で心がけていることなどはありますか?

料理を提供することは、非常に繊細な作業の連続ですし、精神的にも体力的にも大変な仕事です。求められる技術に性差は要りません。疲れて帰ってきてもお互いが協力することが大切ですよね。うちの家では僕が基本的には料理を担当し、奥さんがお皿洗いやアイロンがけを担当してくれます。フランスは産休育休後も自分のポジションは確保されていますし、結婚や出産があってもそれによって仕事を辞めるという選択をする人は少ないと思います。僕自身が経営者なので活躍したい人が活躍できる社会を守っていかなければいけないと思っています。料理の世界に限ると、やはり体力勝負なので、どこの国でもいまだ男性が優勢ですが、有名な女性シェフも多いし、女性の研修生も多いです。日仏とも女性シェフが活躍する土壌を作っていかなければいけないと思います。

パートナーのクレール真理さんと共に。

【現在のフランスの食のトレンドはありますか。日本との違いなども感じていれば教えてください。】

やはりサスティナブルは外せないと思います。ベジタリアン・ヴィーガンの人の増加など、フランスでは食の安全、環境への配慮への関心がどんどん高まっていますね。これが主流となってゆくのだと思います。それから食品廃棄防止。僕も食材はあまらせずに使い切れるようにアミューズ・ブーシュなど毎日工夫しています。

うずらの詰め物、ぶどう風味 ジロールとキノア。

食に関する忘れられないエピソードがあれば教えてください。

昔、コンクールに提出する料理を模索しながら「どうしても自分のフレンチは日本寄りになってしまう」と方向性に悩んだことがありましたが、あるときお客さんから言われた「フランス料理ではなくてあなたの料理が食べたい」という言葉がとても印象に残っています。今では、自分だから出せる味や盛り付けをお客様に提案するべく奮闘しています。フランス料理の中に日本の食材や和食のテクニックを織り交ぜ、誰にも出せないこだわりの料理を提供しています。美味しいとお客さんに褒めてもらえると嬉しいです。

フランスとの出会いはあなたに何をもたらしましたか ?

「多様性は認めるものではなく、自分が多様性に属していると認識すること」だと思います。フランスでは人種が違う、国籍が違う、それは当たり前。食事を提供する仕事は人の多様性を最も感じられる職業の1つです。宗教上の理由で食べない食材がある人。アレルギーがある人。食事について考えることは人を思いやることです。それは接客にも活かすことができると思います。

最後にフォロワーの方へメッセージをお願いします !

フランスの料理が大好きです。刺激をくれるシェフとの出会い、新しい食材との出会い、すべてがかけがえのない僕の財産です。旅をしたり、色々な人に会って色々な考えに触れてください。早ければ早いほど良いと思います。どんな困難があってもむしろ何かを学ぼうとする心があれば、きっとそれは皆さんの大きな力になると思います。

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