見出し画像

免疫エキセントリック

 今私は発熱している。厳密に言うと、平熱よりも2.0℃程高い体温を示している。発熱してから今は二日目である。
こんな時に文章を書いたら、さぞかし人間の限界に近い文章が書けるのではないかと一念発起し、筆をとることとした。

 そもそも何故風邪を引くと体温が上がるのだろうか?答えは一般常識として大衆に知れ渡っている。体内に免疫細胞と言うものが存在し、体温をあげてそれらを活性化させることで、外部から侵入し増殖したウイルスを撃退しているのだと言う。体温は大脳視床下部が定めており、敵の量によって体温の上がり幅が異なるようだ。つまり、無意識のうちに、私の身体は外敵と緻密に戦っている。





 凄すぎないか??

 いや、戦っている、ちゃうねん。免疫細胞が…なんて?意思を持たない細胞のはずが、未知の外敵と戦っているって?

 しかも体温を上げることでそれらは活性化するときた。つまり、普段は本気を出していないで、自らの得意とする温度よりも少し涼しい環境下で、じんわりと身を潜めているということ。「普段はへらへらしてるけどいざとなったら頼りになる系の、日常&バトル系漫画の人気投票で無双するタイプの主人公の相棒キャラ」そのものではないか。

 ならば考えを膨らませてみよう。私の身体は戦場だ。無数の味方が、身体中のあちこちで、昼夜問わずに拳を交えている。母体である私に出来ることは、環境の改善、物資の調達等であることは、リアルな戦争と比較すればすぐに考えつく。

 そう思った深夜2:30の私は、視界に入った服を片っ端から身に纏い、徒歩3分のところにあるコンビニへと向かった。体温が慢性的に上昇してあるせいか、全身のタンパク質が熱変性ギリギリの状態であり、恐ろしく体力を消耗しているのがわかった。外に出ると外気が皮膚をつんざく。寒いが、これは彼らの体温上昇を妨げてしまっているのだろうか?身体を温めるべきか冷ますべきかの議論は長期にわたっている。

 水分と栄養剤をカゴいっぱいに詰め込んだ。水分は細胞の状態維持に欠かせなく、体温調整にも寄与するとのこと。栄養剤は何となくの選抜であるが、人体なのだからどんな時でもきっと有効であろう。

 さて、待たせたな君たち。もう大丈夫、私が来た。
 援護しよう。と、言わんばかりに上記を体内へ流し込む。戦場で例えるとさながら、天より舞い降りし食料、武器の数々と言ったところか。返事は無いが、結果で示してくれれば問題ないぞ。

 多めの水分を補給すると、次の瞬間、胃が何かを訴えかけて来た。

 「グルルルルルゴゴゴゴゴ………」

 異音。だが、私は確かに聞き取った。

 「グルルこの戦いに勝ったら…ゴゴゴ俺…結婚するんだゴゴ………」

 と。



 待ってくれ。やめろ。それは死亡フラグだ。

 病気の際に死亡フラグと言う言葉はリアルだからやめていただきたい。体内(そっち)は体内(そっち)で色んな人間関係とか物語があるんだろうけど、他人の身体で盛り上がってドラマチックにするのはやめてくれ。白血球とマクロファージによる、共闘の末の大恋愛とか結構です。盤石に勝利して、そのあと結婚(?)するならば勝手にどうぞどうぞです。

 と言うか母体である私も、現在は未婚であるのだから、君たちが私を先越す権利はない筈だ。体内では私の想像を超越した、どんな世界が広がっているのか、そんなのは知ったこっちゃ無いが、私の人生が誰かのためになるまでは、ぜひ大人しく生命維持に協力して欲しいものだ。

 文章を書き終えた時点で体温は38.5℃を指していた。体温も気持ちもヒートアップし、まとまりのない変なことばかり書いているが、いま一番「冷静」になるべきは私自身であったようだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?