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脇役の日記vol.8

前髪を切った。普段は中野の美容室で髪を切ってもらう俺だがふとそういえば床屋で髪切ったことねえな、なんて思って家の近くにある創業70年以上らしい床屋で髪を切ってもらったりした。
思えば髪が長い人になったのはココ最近の話でそれまではストレスで自分の前髪をむしり取りもはや前髪というものが存在していなかった時期もあった。その反動で髪を伸ばし前髪は常に自分の視界を遮り、視界の端には自分の髪が風と共に揺れて写ったり消えたりを繰り返していた。
母親にはずっとボロクソに言われていたこの前髪をそろそろ切ってみるかと思い勇気をだして行ってみたわけだがまあなんというか絶妙な空間だった。
腰の曲がったおじいちゃんと初手タメ口の比較的若く見えるおばあちゃんの二人でやっていて客は俺を含めて2人、俺じゃない方はまたもやおじいちゃんで髪を切りに来ていると言うよりは話に来ているような感じだった。
とりあえず荷物を預けて席に着く、どんな感じにしたいの?と言われたがそんなビジョンなど全くなくとりあえず前髪が邪魔なので切ってくださいなんてあやふやなオーダーをした。
何故か問答無用で七三にされかけ、めちゃくちゃ焦ったりなどした。まあでもとりあえず身を任せてみるか。なんて思いながら自分の想像より大胆に入るおばあちゃんのハサミをぼーっと眺めていた。
やきゅうやってたの?

ああそうなんですよね

仕事はファッション関係?

いや介護です

なんてまあ取るに足らない話をしている間にもおばあちゃんのハサミは迷うことなく進んでいた。

ああなんかおわったらめちゃくちゃイケメンとかになってねえかなあなんて思ったりしている。

なんてことを思いながら顔を上げたらまあ前髪が短くなっていることこの上ない。

思わず笑ってしまったがそんなことなどお構い無しに

さわやかになったね!入ってきた時と印象全然違うよ!なんて言うもんだからなんだかそんな気がしてきちゃってああそうですね とかなんとか言ってそのまま何となく千と五百円はらってまだ明るい外に出たりした。

普段言っている美容室とはまた違う時間、飛び交う政治の話。見たことの無い椅子。

そう言って仕上がりを改めて見るためにスマホのカメラを起動して驚いた。はるかに老けている俺。おじさんの髪型をしている。これでいいのか…。まあこれでいいのかななんて自分を納得させながら友部正人のこわれてしまった一日を聴く。
世界中の時計を1時間戻し、あなたはベットに潜り込む。おやすみ壊れてしまった一日と遠くからでも見える人
もし世界中の時計を戻せたとしても俺はこの前髪と生きていくことに決めたのだ。
こうして俺はベットに潜り込むことなく彼女の家に向かい、そして笑われたのであった。

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