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真ッ冬『ホワイトエッセイ』全曲解説




はじめに


2022年  12月3日

私のホームである静岡Sunashにて
真ッ冬の1st アルバムのレコ発ライブを敢行した。

1年に及ぶレコーディングを経てのライブ。
最高の仲間と共に迎えたこの日は、我々にとってとても思い入れ深い1日となった。


今回はそんな我々の作品について、1曲1曲「解説」という形で記事を書いていこうと思う。

様々な本から影響を受けて作ったことから、アルバム名を『ホワイトエッセイ』と名付けた。


アルバムのタイトルの通り、自分語りから成る我々が創り上げた物語の結晶だ。





1. りっとう


まず1曲目は、初めて真ッ冬二人で作ったオリジナル『りっとう』から。

この曲は真ッ冬のスタートとして、いくつもの思い入れがある曲だ。


真ッ冬の初ライブは2019年の11月2日。
最初はamazarashiのカバーユニットとしての出演だった。

こちらの初ライブについては、
また別の記事で紹介しようと思う。


当時の僕らは、真ッ冬の展望についてあまり考えていなかったと思う。「もっとライブしたい!」とか「売れたい!」といった考えは一切なく、ただただ初ライブに向けて試行錯誤する日々だった。何なら、ライブ後も真ッ冬を続けていくかすらもあやふやだった。

そんな中で初ライブに手応えを感じた僕は、キーボードの山崎啓さんに「真ッ冬でオリジナルを作りたい」と提案する。

啓さんも「とりあえずやってみようか!」といった感じで、制作が始まった。


『りっとう』は、小説のような文節は意識しつつも、その大きなテーマはamazarashiに傾倒している。

「amazarashi」と「冬」から連想して真っ先に思い浮かんだのは、

『性善説』という曲だ。



雪原を背景に複雑な表情を浮かべる女性、
そして子との別れ。

他にも冬をテーマにした曲は数あれど、
僕の中ではMVも歌詞の内容も、とても印象深い曲だ。

『性善説』収録のアルバム『ねえママ あなたの言うとおり』から、「あなたの言うとおり  真冬に二人」という形で引用させていただいた。

スローテンポから始まる冒頭のポエトリーは、雪原を踏みしめる二人を想像しながら書いた。


ちなみにタイトルの『りっとう』がひらがな表記なのは、amazarashiの前身 秋田ひろむと豊川真奈美の2人体制だった「あまざらし」に起因する。



冬に憧れて
冬に憧れて
とても寒くって
吐息に嫌いが混じった

ー真ッ冬『りっとう』


自然と湧き出た「冬に憧れて」というフレーズは、僕らが漠然と思い描いていた真ッ冬の未来を暗示していたのかもしれない。


この時の僕らはまだ、先の見えない大きな雪原を駆け出したばかりだった。





2. 凋落 -序章-
3. 凋落


元々は9分にも及ぶ『凋落』という曲だったが、尺が長すぎたのと、小説をテーマにしていた事から、序章と"本章"の2曲に分けた。

「凋落」という言葉を知ったキッカケは
スティーヴン・キングの『IT』から。
映画で有名な作品だが、僕が触れたのは原作である。行きつけのバーの奥さんから借りて読んだ本だ。

この作品には章の合間に詩や格言が差し込まれている。海外の詩人はあまり詳しくないが、中にはロックミュージシャンの言葉もあって、ニール・ヤングの曲の歌詞なんかもあった。

中でも目を惹いたのが、
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの詩である。



凋落は
絶望と挫折の果てに
あらたなる目覚めに通い
そして絶望を
滅ぼす。
果たしえぬものがあろうと、報われぬ
愛があろうと
待つ間に失われたものがあろうとー
凋落はおとずれる
おわりなく絶ゆることなく。

ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ『パターソン』



「凋落」ってどういう意味だろう?

そんなふとした疑問から、この曲は生まれた。

ちなみに意味は
「葉がひらひらと舞い落ちる様、
人間が衰え死んでゆく様」

創作もプライベートもネガティブまっしぐらの自分には作りやすいテーマでもあった。


ちなみにこの曲は、まず『凋落 -序章-』を作って、啓さんに「ピアノ伴奏のみのしっとりした曲を作りたい!」という提案から始まった。
すると彼は僕のアイデアをフル無視して「テンポを倍にしてみない?」と言う。
(話聞いてたのかコノヤロー🐳)

とは言え自分の意見ばっかり押し切るのも良くない。とりあえずやってみよう。…………



…………めっちゃいいじゃん。


こうして尺も延ばして延ばして色々と試行錯誤した結果『凋落』が完成した。
『凋落 -序章-』をギター伴奏のみで収録したのも、序章と本章でくっきりと分けたかったからだ。

当初3分程度で考えていた曲は、いつの間にか9分弱のとんでもない曲になっていた。

何はともあれ、
この曲に関しては啓さんの発想の勝利である。



でもなんか腹立つ。


悔しい。





4. つめたいつめたい夜が降る




創作の一環として、SNS上で詩を書き溜めている時期があった。その時は寺山修司や中原中也などを読み漁っていて、モロに影響を受けていたワケだ。

その中で、

「つめたい  つめたい  夜が降る」
という詩があった。

何を意図して、どういう意味で書いたかまでは覚えていないが、ずーっと頭に残っていて、いつか曲にしたいと考えていた。真ッ冬を組んでピアノが入るイメージをしてみたところ、アイデアが上手く固まったのだ。

「つめたい  つめたい  夜が降る」
というフレーズが何度も登場するこの曲。
サビのメロディを気に入っていたこともあって、Cメロ以外はコードも展開もあまりいじらず、「ループ」することに努めた。

他楽曲で例を挙げるなら、
フレデリックの『オドループ』
9mm Parabellum Bullet の
『ハートに火をつけて』  辺りだろうか。
(↑アルバム『Dawning』オススメです💪)

ちょうどこの辺の音楽を聴きまくっていた時期に作っていたと思う。特に『ハートに火をつけて』は長いイントロをアウトロのギリギリまで引っ張り続ける展開が最高だ。

"しつこい"のではなく、
心地よく"耳に残る"。


また、この曲を作っていた時読んでいた本が
階段島シリーズ第1弾
河野裕さんの『いなくなれ、群青』
何度も何度も読んでいる僕の大好きな作品だ。

僕は曲を作っている時、リアルタイムで読んでいる本から影響を受けやすい。と言うより、常に印象的なフレーズは頭に残っているので、本を読んでいる時も自然とヒントを探しながら読んでいるのかもしれない。
Bメロの歌詞で登場する「〜浮かぶばかりの
群青」は正にこの作品のテーマから拝借したものだ。

ちなみに中々信じてもらえないが、Cメロのブレイクはメタルの影響である。音の強弱や休符が多いのもそう。
僕は元々パンクバンドをやっていたが上手くいかず、弾き語りソロを始めて、啓さんと出会い今に至る。現在はやっている音楽こそ編成からして大人しめではあるが、バンド時代の名残で、プライベートでは常にやかましい音楽で溢れている。

ジャンルは違えど同じ音楽の延長線上。
あまり気にせず色んなジャンルを聴いて、良いと思った部分は積極的に取り入れている。

中でもやっぱり1番好きなのは緩急の激しく熱情的なメタルだ。

HELL YEAH🤘





5. 暗転するふたり


又吉直樹さんの『劇場』を読んだ時、彼の泥臭い人間の描き方に触発されて、自分でも物語を書きたくなった。同時に、学生時代に読んだ有川浩さんの『シアター!』を思い出す。

上記2つを意識して作り上げた物語が
『雪国のマーメイド』という作品だ。
作り上げた、と言っても楽曲を作る上での舞台設定みたいなもので、やんわりとイメージを固めただけだ。

映画『雪国のマーメイド』ー
北の海に迷い込んだ人魚を救った主人公。
人魚は身元を隠しながら雪国に住む主人公と共に暮らすことに。
ある日、正体がバレてしまった人魚は国から追放されてしまう。人魚は追いかけてくる主人公を振り切り、北の海へと身を投げた。
呆然と立ち尽くす主人公はやがて、意を決して海へ飛び込む。

完全に冷め切った夫婦が、ある日映画『雪国のマーメイド』を観に行く。主人公と人魚の抗う姿勢に感動した夫婦は、気づけば数年ぶりに手を繋いでいた。
映画が終わって明転した時、
彼らは…………


そんなざっとしたイメージに沿って、『雪国のマーメイド』というタイトルで作り始めた。しかし、映画の内容に細かく触れるわけでもないし、「雪国のマーメイド〜」と歌ったところで、それが映画のタイトルだとは中々伝わらないだろう。

というわけで、「雪国のマーメイド」という歌詞を取っ払って、タイトルは『暗転するふたり』に変更した。

『りっとう』がめちゃくちゃ難しかったので、スローテンポのこの曲は割とすんなり完成したと記憶している。確かレコーディングもかなりスムーズに済んだはずだ。
たまーに油断して下らないミスするので、今後も気をつけなければならない😓


ちなみに、真ッ冬の作詞は基本的に僕だが、『暗転するふたり』に関しては啓さんがほんの少しだけ噛んでいる。

1番のサビは元々、
「当たり前の  あの頃が痛かった」
という歌詞だった。

ところがスタジオでこの曲をお披露目した時、啓さんは
「当たり前の  あの頃  会いたかった」
と聞き間違えた。

個人的には「痛い」というフレーズを推したかったが、サビの頭の部分だし分かりやすい方が良かろうと言うことで、
「当たり前の  あの頃で居たかった」
に落ち着いたのである。

啓さんが自分の作詞に意見したのはこの時が初めてだったので、とても印象に残っている。





6. white shock



「真ッ冬」と名乗っているので、お客さんからは「冬が好きなんですか?」とか、「何か特別な思いがあるんですか?」とよく聞かれる。

結論から言おう。


冬は嫌いだ。

死ぬほど嫌いだ。

特別な思いなど以ての外。
消滅してほしい季節ナンバーワンである。

ただ創作において"嫌いなもの"って意外と都合がいい。自分の音楽観の土台がそもそもネガティブ発信だし、これまでの経験上、負の感情から生まれる言葉のパワーを僕はよく知っている。


アルバムの最後を飾る『white shock』は上記のただ単に「冬が嫌い」という強烈なイメージと、僕の尊敬する作家・米澤穂信さんの『ボトルネック』の世界観を掛け合わせて作った曲だ。

「white shock」は
「岩肌に勢いよく波がぶつかった時の衝撃」
という意味合いで名付けた。

頭の中でイメージしたそのシーンが、
『ボトルネック』の冒頭のシーンとピッタリ重なる。
リアルタイムで読んでいたわけではないのに、
「white shock」の全体的なイメージが遠い記憶から、金沢の東尋坊を訪れて、花束を投げ込む主人公を引き連れてきた。

曲を作ってる間も、ミュージックビデオと同時進行で作っているような感覚で、常に頭の中ではくっきりと"映像化"されていた。
この曲においては作詞(言葉)よりも映像が先行していたように思う。とても不思議な感覚だった。

さらにこの曲には、"『意味深海』の続篇』"
という裏設定がある。



以前に投稿した『意味深海』の記事でも触れたが、僕は基本的にタイトルは最後に付ける。
『white shock』というタイトルを付けたのも、確か7割方完成した頃だった。

基本的に『ボトルネック』の舞台を念頭に曲を作っていると、完成間近でとある事に気付く。

"『意味深海』との共通点が多い"

まずキーは違うがコード進行がほとんど一緒だ。そして舞台が海なので、歌詞の雰囲気もかなり似ている。さらに曲作りが佳境に差し掛かったところで、最後の映像に『意味深海』の登場人物がピタリと重なった。

と言うことで、『white shock』のアウトロにはほんの少しだけ『意味深海』のイントロのギターリフを忍ばせてある。コード進行もほとんど同じだから、ごく自然と馴染んでくれた。

続篇に"しよう"と思って作ってはいなかった。
続編に"出来る!"と途中で気付いたのだ。

文脈的な繋がりはないけれど、僕にとって『意味深海』と『white shock』はレコードで言うとA面とB面で、しかもその2つが同じ映像の中を同じ速度で流れているような、そんな感じだ。



『ボトルネック』のラストシーンで、
主人公は重大な選択を迫られる。
そして物語は主人公の決断を描かれないまま、唐突に終わってしまう。

あの後、主人公はどうなったのか??

『意味深海』や『white shock』の世界に翻弄された登場人物たちはどうなったのか??


僕もその答えは分からない。


だからきっと、


その答えは

聴いてくれた方々の心の中にある。




おわりに

最後に、レコ発ライブのレポートでも少し触れたが、『ホワイトエッセイ』のジャケットを描いてくれた方を紹介して終わろうと思う。

私の記事では度々登場している、
静岡県磐田市出身のシンガーソングライター
遥奈 (はるな)さんだ。




遥奈さんの楽曲はどれも素敵だが、中でも好きなのが「おはなしいちにち」シリーズ。
朗読作品である。

アニメーション、伴奏、朗読全て遥奈さん一人で作られたもので、特に第1回『愛は静寂』は真ッ冬でもライブでカバーした事がある。ガッツリ朗読を披露したのは初めてだったので、良い勉強になった。

雑誌で漫画を寄稿したりもしており、アニメーションでも、微妙な表情の変化を描きとるタッチが繊細で、印象的だった。


ちなみに、ジャケットの元になったデザインは

湊かなえ『望郷』(文春文庫)
中原中也『汚れつちまつた悲しみに』(角川文庫)

以上2冊の表紙からだ。

レコ発企画『Story Seller』
ストーリーセラー文庫  より


『望郷』の背景をベースに、本を抱えながら涙を流す中原中也(アニメ「文豪ストレイドッグス」のキャラクターデザイン)のイメージを伝えて描いてもらったのが、冒頭の素晴らしいジャケットである。

色合いや雰囲気もどことなく僕の好きな『愛は静寂』と似ていて、大満足の出来栄えだった。

自分たちの作品に、長らく憧れていた人に関わっていただいたのは、本当に嬉しく誇らしいことだった。

重ね重ねではありますが、この場で改めて最大限の感謝を。
本当にありがとうございました🙇‍♂️




遥奈さんは現在、夏目漱石の『夢十夜  第一夜』の作曲にチャレンジ中とのこと。
その制作過程や最新情報は上記のXアカウントから。また、プロフのリンクから「遥奈の深海ストア」では、去年の大晦日に発売した新アルバム『hopefull』を発売中。
私のnoteの記事でも何度も引用させていただいている「遥奈通信」もそちらから見れます。

音楽もグッズも文章も
とーっても素敵な作品ばかりです。
是非チェックしてみてください🐳


随分とほったらかした分、かなり長い記事になってしまいました😅
最後まで読んでいただき、
ありがとうございます!


また、心の深海でお会いしましょう。

お久しぶりの、Amayjigenでした☂️


それでは。

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