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●2020年9月の日記 【上旬】

9月3日(木)

朝子どもを自転車に乗せて保育園に向かう途中、通り雨に降られて親子ともどもずぶ濡れに濡れた。民家からせりだした木のかげに逃げ込むも、雨がはげしくなるにつれて茂った木の葉もザル状態に。仕方なく、笑ってしまうような雨のなかに自転車をこぎ出して、目についたマンションの自転車置き場に突っ込んだ。屋内型の駐輪場兼粗大ごみ置き場。出入口から外を見るとまだ冗談みたいな雨が降っていた。ハンドタオルで子どもの腕や脚の水滴を吸い取りながら「ぬれちゃったね、ごめんね」と話しかけると、彼はうわずる声で「もういっかいいく!もういっかいいく!」と訴えてくる。どうやら雨の中を走る自転車が楽しかったらしい。子どもをびしょ濡れにしてしまった罪悪感から少し救われて、5分も待つと現れた青空の下ふたたび自転車をこぎ出した。子どもを園に預けてわたしひとり家に引き返すときには太陽が照っていた。
家で濡れた服を脱ぎすてパジャマを着て11時まで眠った。久しぶりにベッドで眠ったら気持ちよかった。髪をポニーテールに結い、化粧をして、水筒に濃く作ったカルピスを入れて仕事に行った。

9月4日(金)

洗濯機に洗濯物をほいほい放り込んでいくとすごい量になった。脱水がしんどそうで何度もすすぎに戻っていた。遅めの朝ごはんにゴーヤーチャンプルー(昨晩の残り)を食べた。子どもには永谷園ののり茶漬けを出すとノリノリで食べていた。
午後は子どものリクエスト通り児童館で遊んだ。ポポちゃん(赤子の人形)をポポちゃん専用ベビーカーに乗せて子連れ狼ばりのアクションで連れ回す子どもを視界の隅に入れながら書棚にあった西原理恵子の本を読むともなしに読んだ。女の子へのエールのようなことが書かれていた。
夕方、友だちの吉田とその子ども(もうすぐ2さい)が我が家に遊びにきてくれた。みんなでチーズケーキを食べた。それから近所の居酒屋に飲みに行った。子どもたちは小上がりから何度も脱走した。色々やってみたがかれらを席に固定する力はナポリタンが一番強かった。ナポリタンのおかげで友だち同士の酒の席の話というのが少しできた。すごく嬉しいんだな。
店を出て夜道で別れるときわたしの子どもが全身を使って別れることを渋っていた。いよいよ吉田親子が手を振り去っていくと絶望して泣いた。子どものときの別れは毎回が今生の別れ。でもそれが正しいかもしれないとも思う、毎回そんなの悲しすぎて無理だからわたしらはもうやらないけど。

9月5日(土)

夫と子どもと3人でムーミンカフェに行った。どこでおぼえたのか子どもはムーミン谷の生きものを何体か認知していた。ムーミントロールのぬいぐるみをムーミンと呼んでいたし、壁にかけられた絵のニョロニョロを指し示してにゅるにゅる言っていた。
自宅ちかくの駅に戻り、わたしは整骨院に寄ってから帰ることにした。夫は子どもを連れて休日開放の児童館に行った。両組とも家に着くのはほぼ同時だった。夕立ちに降られなくてよかった。

9月6日(日)

家から一歩も出なかった。子どもは夫が連れ出してくれた。昼食にツナとシーフードミックスを入れたトマト味のスパゲッティを作った。大人2人+幼児1人分でパスタ230グラムというのが我が家の辿り着いた現時点でのちょうど良い答えだ。ちょうど1年前に発注した5キロのパスタがついになくなりそうなのでまた注文しないといけない。5キロのバリラno.5も我が家の最適解だ。
夜は夫が作ったにんじんと豚肉のバターみそ味の炒め物とじゃがいもの味噌汁をいただいた。夫がごはんを作るのは日曜の夜だけなので毎回楽しみにしている。わたしも子どももぺろりと食べた。おいしかった。

9月7日(月)

音楽に対して心が閉じている。ここ数か月、日常的に聴いているラジオでかかる曲くらいしか聴いていないし、それすら煩わしくて音量を下げてやり過ごしていることが多い。音楽が耳障りに聴こえる時期というのは今までにも何度か経験していてあとからその時期のことを思い返してみるとちょっと精神的に参っていたときだったりする。音楽、聴きたくないなら聴かないでそれはそれでいいのだけれど、放っておいたら音楽以外のものにもこのままかたくかたく閉ざしてしまって偏屈な人間になるのは目に見えるしそれはできるだけ避けたい。だから意識的になにか潤滑油になるものを取り入れてほぐさないといけない。さいわいこういうときのアタマにも沁み入ってきて精神を柔らかくしてくれる音楽をわたしはいくつか知っている。レイハラカミさんかザキール・フセインさんを聴けばいいのだ。今夜から聴いてこ。
心だけでなく体もガチガチに閉じているのでこれもやばいねってことで夫と子どもが風呂に入っている間ユーチューブ体操(※)をしたら風呂から出てきた子どもとわたしとどっちが風呂あがりなのかわからないくらい汗をかいた。リラックスした人間になるのにもなかなか骨が折れる。

(※わたしのユーチューブ体操はだいたいこれ。ラスト2分くらいはいつも悪態をついてしまう。▼)


9月8日(火)

子どもを保育園に預けた足で行きつけの喫茶室に寄ってモーニングをたべた。まんが「鬼平犯科帳」が本棚にぎっしり詰まっていていつもTBSラジオが流れている環境がわたしにはたまらない。モーニングのたまごサンドもちゃんとおいしい。そこの店主とはじめて雑談をした。他人との感じのいい雑談というのをとても久しぶりにしたように思う。
仕事関係の用事があり銀座へ行った。有楽町駅の近くを歩いているとき高架に新幹線が見え、しんかんせん、と思わずつぶやいた。
用事のあと長野のアンテナショップで小瓶のウイスキーとりんごのおやきを買った。

保育園に行くと子どもが見慣れないはでな服を着ていた。預けていた着替えが尽きていたらしく、園にある服を着せてくれたのだ。服の系統が違うだけで少しよその子のように見える。その子はわたしの手をふりほどきコンビニにかけこみバナナをつかんで運びレジに置くので代金を払ってやった。近くの広場でさっそく2本たべた。家に帰ってからさらにもう1本たべた。小さなからだにバナナ3本。曲芸みたいだ。
就寝前に無地の肌着を着せるとわたしの知るいつもの子になり眠った。

9月9日(水)

朝のばたばたが済んだあとクナイプのバスソルトを入れたみどり色のぬるま湯に40分くらい浸かって本を読んだ。川上未映子さんの村上春樹さんへのインタビュー本『みみずくは黄昏に飛びたつ』の残りの1章を湯舟の中で読んだ。村上春樹作品はだいたい家にある。夫の所有だ。本棚から拝借して中編・長編はたぶん全部読んだ。短編集とエッセイはこれからだからまだまだ家の本棚で村上春樹作品を楽しめる。
クナイプ風呂でゆるんだ身体をひっさげてふにゃふにゃと杉並区へ向かった。美術モデルの仕事をする。公民館の工芸室に入り、デッサン会のメンバーにあいさつをすると、物置の隅をカーテンで仕切った小さなモデル用更衣室に案内された。着替えながらここには前にも来たことがあったのをはっきりと思い出した。

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(わたしのサコッシュ)

モデル台の上に1時間立って1時間横たわった。立ちポーズは天井から吊るされているみたいにピーンと動かずに立てて気持ちよかった。寝ポーズには大きなねじりを入れたのでクナイプ風呂で得たふにゃふにゃ感は早くも失われた。がちがちになって帰った。

9月10日(木)

叔母から立派なぶどうが送られてきて驚いた。ここ数日、おいしいぶどうを食べたいと強く思っていたのだ。叔母はいつもここぞというものをわたしに食べさせてくれる。はじめて蟹の天ぷらを食べさせてくれたのも叔母だった。じゅんさいという食べものを教えてくれたのも叔母だったかもしれない。昔から叔母はおいしいものをたらふく食べるのが好きで、細かった。わたしの大食いにも少しも動じず、眉をひそめることもなかった。いつも「食べー」と言ってニヒルに微笑んでいた。大人になってからは数回しか会っていないが、わたしの叔母になついている気分は子ども時代のままだ。夜、ぶどうのお礼を言うために電話をしたらやっぱり少しニヒルな感じの声が出た。元気そうだった。側では子どもがさっそくぶどうをひと房食べつくそうとがんばりながら、会ったことのない大叔母に「しんせきのおねえさんぶどうくれた ありがとう」とスマホに向かってお礼を言った。よくできたくいしんぼうである。わたしと叔母の仲間に育つかもしれない。

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