紫紺の歴史の継承者へ

昂揚

遂に待ちに待った日が訪れた。ナゴヤドーム改めバンテリンドーム ナゴヤでの最初のオープン戦、しかも相手は田中将大が加入した東北楽天。チケットの売れ行きも好調で、発売当日にはほぼ完売となった。加えて,名称変更のご祝儀として、昨年最多勝に輝いた涌井秀章と田中が登板予定との報道。バンテリンドームに詰めかけたファンは、気持ちの昂ぶりを抑えることができなかっただろう。

師弟

田中の登板に注目が集まった試合で、中日の先発を任せられたのは開幕ローテーション入りが濃厚の柳裕也。この試合は柳にとって単なるオープン戦ではなかった。何せ投げ合う相手が横浜高校の大先輩にあたる涌井で、オフには自主トレを共にした間柄。薫陶を受けた大先輩を相手に柳は真っ向から立ち向かった。

収穫

開幕まで残り3週間弱となり、結果を求める声が大きくなる中で、自らの課題と真摯に向き合う柳の投球には頼もしさを感じた。この日のハイライトは、2回表の浅村栄斗との対決で、内角低めのシンカーで空振り三振を奪った一球だ。

何と言ってもシンカーは、涌井との自主トレを経て磨いてきた新たな決め球。対決前夜も師匠に教えを請うていた。縦のカーブとカットボールを決め球にしてきた柳にとって全く異なる球種だ。130キロ代の新球で右打者の内角を突いたり、ゴロを打たせることができれば投球の幅が広がる。これまでの過程があるからこそ、昨年の本塁打王のバットが空を切った一球には胸が踊った。

課題

5回を投げ切り、被安打4、1失点。一見上々の結果に見えるが、球数96は多すぎた。2ストライクまで追い込むものの、打ち取るまで時間を要してしまった。唯一の失点となるタイムリーを浅村に許した場面がその最たる例だ。痛恨の一打の直前まで、際どいコースに投げていたものの、打ち取ることができず、最後の一球が若干甘くなってしまった。

エース・大野雄大の調整が遅れ気味の中、一昨年に11勝をマークし、規定投球回に到達した柳にかかる期待は必然的に大きくなる。ペナントレースを戦い抜くためにも、少ない球数で長いイニングを投げることがチームの躍進に繋がるはずだ。期待の若手から、活躍してもらわないと困る主力に立場が変わりつつあるだけに、この日の投球を次回に活かしてほしい。

宿命

中日投手陣の中でも、柳に特別な感情を抱いてしまうのは偶然ではない。何せ杉下茂、星野仙一、川上憲伸と球団の歴史を彩ったエースを輩出した明治大の出身だからだ。

大学時代には、明治大と大学日本代表で主将を務めた人間的な魅力も柳を引き立てる。一投手にとどまらず、将来的には球界のリーダー的立場になることを期待する存在。そうなる前にお願いが二つある。一つは紫紺のエース達が成し遂げた優勝。もう一つは、杉下と星野が背負った背番号20を背負うこと。

いずれも容易く達成できるものではないものの、この男なら必ずやこの高き理想の道を切り拓いてくれるはすだ。





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