我慾姫
「さぁ、今日語るのは、今やとてつもない大国となった王国のお話。
その王国に生まれた呪われたお姫様の、欲望のお話。」
ああ全てが欲しい
何もかもが欲しい
金銀財宝地位名声
狂い死にそうな欲の焔が
身を焼き嘆く「我慾姫」
かつてこの地に存在した欲望司りし悪魔
建国の王が封印せし時呪いをかけた
系譜に生まれるおなごには
湧き溢れ止まらぬ"我慾"の災いを
そののち生まれたこの私
幼き頃から止まらぬ"我慾"に
癇癪起こして周りを困らせ
それでも皆が優しいのは
呪い蝕む身と知って
欲望尽きぬ我が身は求む
金や銀から天の星まで
周りを何もかえりみず
己の欲に忠実だった
ああ全てが欲しい
何もかもが欲しい
手に入れても満ち足りぬ
狂い死にそうな欲の焔に
身を焦がし踊る「我慾姫」
幾度となく開かれた貿易商の取引の場で
一人の何でもない見た目の商人がこう言った
呪いを解く方法はございます
私の言う通りにしてもらえればと
うさん臭さはあるものの
聞く価値はあると判断し
港や道の整備を勧めるうちに
周りの視線が変わっていった
届く言葉は「ありがとう」
私は私の欲に従い
呪いを解くため行っただけ
なのに心の響いてくる
たった五文字の暖かさ
ああ全てが欲しい
何もかもが欲しい
そう感じていたはずなのに
狂い死にそうな欲の焔から
身を護られ始める「我慾姫」
何度も何度も行った改革工事のおかげか
国はとっても活気づき胸にはあふれる暖かさ
呪いは感謝に勝てません
かの商人はそう言い消えた
欲望尽きぬ我が身は望む
金や銀や星などいらぬ
周りの感謝が何よりも
己が欲する唯一のモノ
ああ感謝が欲しい
何よりも欲しい
自己顕示欲を満たしておくれ
その為ならばいくらでも
国や民のため働こう
ついに我慾を制御した
欲深き才媛の「我慾姫」
「こうして姫の手腕で、大国は今や知らない人はいない大国になりましたとさ。
めでたしめでたし。」
「ん? 商人の目的? 特に大それたものはありません。
ただ国が大きくなれば商売の機会も増えると思っただけですよ、私はね」