初学者による 中近世ヨーロッパの宗教と政治 第3章 遥かなるローマについて 雑感 他

 中近世ヨーロッパの宗教と政治(甚野尚志/踊共二編著)の第3章への雑感となります。なお上記著作について以後同著と記します。

 話としてはノルウェー王スヴェッレの権力掌握に至る経緯と後にローマ教皇からの破門されたところから入り、まだキリスト教が受け入れられてから日の浅い12世紀‐13世紀ノルウェーにおいてローマ教皇とはどのような地位を占めていたのか、を考察しているとみています。

 正直これだけ読んでもぴんとこない人は多いと思う。てかまず読んでいて思ったのは、これ
1.ローマ教皇が諸侯や君主に代わり教会を束ね権威を発揮するのが11世紀半ば(グレゴリウス改革)以降である事。
2.それまでキリスト教化の責任は司教に委ねられており、相談相手としては遠隔地のローマ教皇よりも地元の君主や有力者の方が適格であった(特にここが重要?)。
3.フランク王国並びにイタリア付近よりキリスト教化は始まっており北欧への布教は9-12世紀を待たなくてはいけなかった事。
4.神聖ローマ皇帝とローマ教皇との間に起きた聖職叙任権闘争による権力闘争の流れ。
5.何故ローマ帝国でキリスト教が隆盛となったのか。及び司教座の行政区としての役割について(この辺り私もかなりぼんやりしてる)

 ざっくりと言ってこの辺りを齧っておかないと薄っすらでも納得するのは難しいかなと。

 ノルウェーにキリスト教が布教されたのは10世紀終わりから11世紀序盤にかけてなので、そこから地方教会や修道院の設立を通じ行政組織自体が大きく変わっていったのではないかと思っています。
 同著ではノルウェー国内において教会から対抗勢力と名指しされたのはスヴェッレ王に限らないと指摘しています。その例としてハーラル3世やシグル王を挙げていますが、反面そういった話が出てくるという事は歴代のノルウェー王が王国外の権力との密接な関係を築いていたとも指摘しています。

 この時代における王という立場は一体どのようなものだったのか、という点についてはまだまだ勉強が足りておりません。しかしこの話を見る限りにおいて、王とはローマ教会と地方教会を結ぶ仲介者。現代風に言い換えれば仲介者に近い形なのではないかと考えています。
 この時代、地方教会からすれば頻繁に中央に連絡を取り指示を仰ぐのは容易ではありませんし、中央から見れば地方に対して一々別の使者を遣わせて状況の確認をするよりかはそれらを束ねる王に照会し状況を確認する方が適当なのだろう、といった所でしょうか。
 ところで教会の地位が11世紀グレゴリウス改革を経て向上していく中で、2.に述べた話が重要になってくると思われます。というのも、遠隔地において司教が頼るのはまず地元の有力諸侯、君主等でしたので、ローマ教皇という立場が地方に及ぼす影響は大きくなかったんですが、教会の権力が伸長していく過程の中で君主の宗教的な権限は抑え込まれていく訳です。そうすると地方教会から見てもローマ教皇は単なる象徴的な存在ではなく、以前よりは身近な権威者となったのではないかと想定が付きます。

 同著においてスヴェッレ王は「対司教駁論」というプロパガンダ的著作の中に垣間見える教会観を指摘し、その点について以下の記述を抜き出して説明しています。

  ローマにあらせられる教皇、或いは枢機卿団に叱責されたとしても、   
 我々にはかのお方を責める事は出来ない。かの方は遠く隔たっている地で 
 起きる事柄を存じないからだ。(ノルウェーの)司教や聖職者は教皇聖下
 の下に赴き、その御前で偽りを並べ立て、我々(スヴェッレ王らを指す)
 に対する敵意を煽り立てる。教皇は、偽りの、虚言に満ちた言葉を彼らが
 口にしていても、真実を述べていると信じてしまう。
 
 要するに自身に対する破門は、教皇が自身の敵対者からの讒言を元に判断されたものであり、著しく正当性を欠く。そして同著において更に付け加えると、教皇の存在そのものへの否定は行っておらず、ここに教皇への配慮が見られると。また彼は破門後に受け取ったあらゆる禁令を許す教皇書簡(ケレスティヌス3世の印璽が備わっている、とした)を受け取ったと喧伝したと言います。
 この教皇の印璽は、後の教皇インノケンティウス3世により偽造と指摘されておりますが、教皇の印璽を元に自らの正統性を主張した王の主張は、何よりもローマより遥か遠方の地北欧に教皇の権威が根差しつつあった事を示すものではないのか、というものです。

 こっからは私自身の今後の学習における備忘録の話。

 教皇権の伸長に伴い地方教会とローマ教会がどのように結ばれていったのかを把握すると、11世紀-12世紀という権力変遷の過渡期において現実の国土統治と地元教会権力の抵抗に悩まされる国王の姿が浮き彫りになって面白そうだな、という気がします。多分この辺りはノルウェーに限らず、フランスや神聖ローマ帝国なども直面していた問題なんじゃないかなーと。

 凄く長文でしたが、お読みいただいた方。ありがとうございました。

参考文献
15のテーマで学ぶ中世ヨーロッパ史(堀越宏一/甚野尚志著)
西洋史とキリスト教(黒川知文)
都市から見るヨーロッパ史(河原温/池上俊一)

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