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【詩】ペトリコール

「雨には匂いがある」
そう教えてくれたのは君だった
その匂いには素敵な名前がついていて
それを聞いたとたんに僕も雨の匂いがわかるようになったんだ

けれどいつの間にか僕は雨の匂いがわからなくなった
あの素敵な名前も忘れてしまった
覚えているのは雨の匂いを認識できたときの感動だけで
正直なところ実は今となっては君の顔や声も忘れかけてる

あれほど忘れないと忘れたくないと思っていたのに
本当に大事な思い出だと思っていたのに
記憶は雨に降られた水彩画みたいににじんで溶けて消えようとしている
それがすごく悲しいんだ
なにより悲しいのは思い出が消えかけていることじゃなくて
あんなに大事だと思っていたものを失くしても普通に生きていけている自分

今の僕は雨粒に当たってようやく雨だって気づく
ビニール傘越しに灰色の空を見上げる
そこにいるのはあの日のぼやけた君だ


ああ、なんていうんだったかな。

雨の、匂い。


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あまたす
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