最強の弱者としてのMOROHA──暗夜に躍動する生のダイナミズム

 MOROHAを一言で表したら?と問われたら、私は迷わず「最強の弱者」と答える。MOROHAの歌詞には弱さを徹底的に見つめ、克服し、なんとしてでも強者たらんとするダイナミズムを描き切るという、全ての曲に通底するテーマがある。そこに私は「最強の弱者」としてのMOROHAを見出す。そこで、今回はMOROHAの歌詞を見つめることを通じて、この最強の弱者の本質に迫りつつ、MOROHAにおいてアフロとUKが各々演じる役割、さらに彼らから垣間見える人間のあるべき姿の一側面について述べることを試みる。

 MOROHAの代表曲と言えばまず間違いなく「革命」が挙げられるだろう。確かに、MOROHAがMOROHAたる所以はこの曲に凝縮されていると言っても良い。この曲のキーフレーズは「半径0mの世界を変える」である。ここでは万物の原点としての「俺」の克服、克己が描かれる。そしてたとえ「真っ暗闇の未来」が待ち受けていようと、より良いもの、幸福に満ちた世界を目指して行く「今」を、そして「俺」を最大化する運動を続けよ!とMOROHAは叫ぶのである。魂の底から、躍動する生の総てを乗せて、革命を起こせと我々に、そして他ならぬ彼ら自身に呼びかける。──以上のような記述は、通俗的MOROHA解釈を私の言葉で書いたにすぎない。この歌で本当に注目しなければならないのは、「革命起こす幕開けの夜」という言葉である。なぜ、MOROHAは白昼堂々革命を起こさなかったのか。ここにMOROHAのひとつの核心がある。

 この問にはさまざまなアプローチから応答できる。まずは卑近なところから攻めていこう。周知の通り、「革命」のサビでは「真っ暗闇」であることが最初に強調される。この言葉と夜は一種の縁語になっているということが出来るだろう。
 当然ほかにも夜という言葉と縁語になっていると見なせるものはいくつかある。「毎日毎晩夢中でやってる」の「毎晩」もそのひとつだろう。これは単に日、すなわち昼と晩の対比になっているだけではない。この毎晩という言葉には夜との縁語的な意味を見出さなければ正しく理解されないのである。
 また、より重要なのはこの曲の「場面設定」である。この曲はどこで歌われているのか?もちろん今ここにいる俺自身が歌うその場所、それが答えだと言えるだろう。しかし私がここで描きたいのはそうではない。そうではなく、ごくシンプルに、「居酒屋だ」というのが答えである。思い出して欲しい。この曲の前奏は友人との乾杯から始まる。そして曲の冒頭でも「居酒屋だけの意気込みじゃゴミだ」と高らかに歌われる。ここでは明示的にではないにせよ、おそらく仕事終わりや、あるいは休日(平日か休日かを確定させることは私には出来ない。むしろあまり追求する意義のないことと考えている。)の夜の居酒屋だろうということが分かる。昼間から行く居酒屋ではあまりに世界観と乖離しすぎている上に、全体と整合性が取れない。夜の居酒屋という場所にあればこそ、革命は革命たり得るのである。

 いささか筆が滑ったが、話を元に戻そう。これらの夜にまつわる言葉を見ていくと、自ずとそこからは白昼堂々革命を起こせない理由が浮かび上がってくる、という点が私の主張したいことだ。すなわち、MOROHAはある意味で、どうしようもなく「弱い」のである。暗闇の中で、それでも負けない、負けてなるものかと叫ぶMOROHAは全く強くない。強いものは、そもそも叫ぶ必要が無い。叫ばずして、全てを手に入れているからだ。それ故に、MOROHAの叫び、それこそは来るべき夜明けへの祈りなのである。晴れがましき勝利への渇望なのである。

 この「夜」の描写がより強く前面に出ている歌がMOROHAにはある。それが「夜に数えて」である。タイトルからもわかるように、この曲は私があれこれと言葉を連ねるよりも、サビをそのまま載せる方が雄弁に語ってくれるであろう。曰く、「羊数えても寝れない夜には 自分の事 指折り数えてた 俯いてた俺が一匹 またしくじった俺がいて二匹 消えてしまいたい俺が三匹 それでも消せない 俺が四匹 残る小指で 指切って約束 もう負けない 絶対に負けない」と。
 もう私の主張したい点は十分に伝わっただろう。MOROHAはとにかく、「俺は俺に負けないと夜に叫ぶ」のである。それはもう、あまりに単純に。その単純さ、純粋さ、透明さこそMOROHAである。

 さて、MOROHAの歌詞で今回書きたかったことは、乱雑ながらもある程度書けたので、次は人間としてのMOROHAに焦点を当てたいと思う。……が、長くなったのでひとまずここら辺にしておこう。人間は人間として次のnoteで扱うこととする。多分。

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