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シャインマスカットの彼女

「給料日にはシャインマスカットを自分のご褒美に買うの。」
そう言っていた切りっぱなしボブのかわいらしい彼女は元気だろうか。
爪の先まで念入りに綺麗な彼女が実は倹約家だったこと。
日に当たると輝くくらいの髪の色で、いつも朝まで飲み明かしていた後輩がいつのまにか、会社の先輩と同棲を始めてガバハ!と笑っていたあの声が最近は聞こえてこないこと。
業界仲間を集めた飲み会を仕切っていた幹事の先輩が、一人暮らしの家を引き払っていて実家に戻っていたこと。
仲の良い先輩の目の周りが荒れていて、帰り道にお酒を飲んでいたら電柱にぶつけた、とみんなの前で言っていたことが実は過労によるストレスの顕在化だったこと。

時代に蔓延るどっしりとした雨雲があの軽やかな人たちをどこかに攫って行ってしまったように思う。

あの頃お酒の席でしか繋がっていなかった人とは、すっかり疎遠になってしまった。
今やお互いに心の内をなんの気なしにさらけ出せる人はきっと2本の手で数えられるほどだ。
かつて、自分にしかできないものを作ろうと夢を語っていた人々は、今や何者にもならなくていいと叫ぶ歌を聴いて自分を励ましている。

何者にもなれなかった君へ。

今日は甘さを噛み締めて、ほろ苦さを忘れてもいい日だ。

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