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死屍累々の果てたどり着いた無印のぬか床(下田敏子さんの「ぬか床づくり」)

ぬか床をだめにすると、どうしてこんなに罪悪感があるのでしょう。

結婚で自分の台所を持って27年。
これまで、先人たちのレシピを参考に、ぬか漬けに挑戦してきましたが、続いたためしはありません。

ああそれなのに。

「そうだ、ぬか漬けをはじめよう」と、数年に一度思いついては、ぬかと容器とレシピを用意して、立ち向かってしまいます。

なにが自分をそうさせるのか、その原動力は不明。
はっきりしているのは、そのぬか床が立ちゆかなくなり、処分する瞬間が確実に訪れるということです。

世話しても世話しても裏目に出て、見切りを付けるとき。
逆に、何カ月も放置して、盛大にかびさせてしまったとき。

冷蔵庫を開くたびに、ぬか床の容器と目が合い、「ああ、これ、どうしよう」と思い続けた末に処分を決意するわけですが。
その罪悪感といったら。

ぬか床には、無数の乳酸菌が住んでいるといいます。
わたしが立ち上げたぬか床にも、それなりの数の乳酸菌が住み、わたしが処分することで、その乳酸菌たちは、闇から闇に葬られることに。

捨てる際の困難さも、罪悪感に拍車をかけます。
傷んだぬか床を新聞紙に何重にも包み、その上からビニールで包んで燃えるゴミに。
容器は、洗っても匂いが消えないため燃えないゴミに。
ゴミ袋の重量感に、心がずっしり重くなります。
ああ、このゴミ、誰にも見られたくない。

ものすごく大げさに言うと、ちょっとした殺人でも犯したような気の重さ。

ああそれなのに。
この春、またぬか床に手を出してしまいました。
今度は、ゼロから立ち上げようという理想を捨て、無印の「発酵ぬかどこ」を購入してみました。

買っていた当日、きゅうりを漬けてみました。
翌日食べました。
わ、最初からおいしい。
次に大根。
おおお、ちゃんとぬか漬けになってる。
わたしがゼロから立ち上げたのより、100倍美味しいではないか。
無印のぬか床はジップタイプの袋に入っているのですが、毎日開けたり閉めたりが面倒になり、プラスチック製の容器に移しました。
水が出てきたので、近所のJAで「足しぬか」なるものも購入しました。

さて、今回ご紹介する「ぬか床づくり」という本を書かれた下田敏子さん。
「ぬか床の店 千束」というお店を福岡で営み、自然豊かなログハウスで熟成させたぬか床を、販売しておられます。
お客さんの元に届いたぬか床は、それぞれの家の環境で育てられ、やがて迷いや悩みが生じます。
下田さんは、その悩みひとつひとつを聞き、持ち主にアドバイスしておられるとか。

本の前半は、毎日のぬか床の手入れと、漬ける野菜別の下処理。
後半は、お客さんから寄せられた「ぬか床110番」に対する回答が29本。
「ああ、わたしが聞きたかったことがここにある」と思える本です。

思い込みで、何でもかんでも野菜に塩をまぶしてから漬けていたけれど、不要な野菜もあったこと。
足しぬかを入れたら、よくよく混ぜないといけないと思っていたけれど、その逆だったこと。定番の野菜のほかに、下処理次第でいろいろな野菜を漬けられること。
知らなかった情報が満載で、ことあるごとに開いています。

ゼロから立ち上げたぬか床で「自分の味」を育ててみたいというのは、見果てぬ夢でした。
購入から4カ月。
無印に熟成させてもらったぬか床+下田さんのご指導のおかげで、生まれて初めて、ぬか床との心穏やかな日々を送っています。

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