【予備試験過去問対策講座】平成27年刑事訴訟法
はじめに
この記事は「予備試験過去問対策講座」講義記事です。
今回は、平成27年刑事訴訟法を題材に、実際に過去問を解く流れを思考過程から段階的に解説していきます。
平成27年刑事訴訟法
設問1
本問では、令状のない写真撮影の適法性が問われています。論証を準備している方はすぐに吐き出したくなるところですが、そういうときこそ基本の処理手順を丁寧に履践し、適切な箇所で記憶していた内容を活用することが重要です。
捜査の適法性についての問題であることから、基本の処理手順は、「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項ただし書き)への該当性を確認するところからスタートします。強制処分に該当しないと判断する場合は、任意処分の限界を超えていないかどうかを確認し、該当すると判断する場合は、強制処分法定主義・令状主義が遵守されているかを確認することになります。
「強制の処分」とは、相手方の明示または黙示の意思に反する、重要な権利・利益に対する実質的な侵害・制約を伴う処分のことをいいます。
本問における検討対象の処分は、被疑者居室内の写真撮影です。居室内の撮影は家主の私的領域に侵入されない権利という重要な権利を実質的に侵害するものであり、通常はこれを拒否すると考えられることから、意思に反する処分であるといえます。よって、本件写真撮影は「強制の処分」に当たります。
そして、前述の197条1項ただし書きより、「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ」実施できません(強制処分法定主義)。また、根拠規定があったとしても、裁判官によって適切に発布された令状がなければ当該処分は違法となります(令状主義)。
写真撮影は一般に検証としての性質を有する(最決平2. 6. 27)ことから、強制処分として実施するには検証許可状の発布を受けるのが原則です(218条1項前段)。
本問では、①から③までの写真撮影に当たり、検証許可状の発布は受けていないため、これらの処分は令状主義に反し違法であるとも思えます。
一方で、Pらは甲方の捜索に当たり、捜索差押許可状の発布を受けています。これにより本件写真撮影が認められることはないでしょうか。
令状主義の趣旨は、捜索や差押え等の範囲を制限して捜査機関の権限の逸脱・濫用を防止する点にあります。したがって、写真撮影であっても、捜索・差押えに随伴する処分であるといえれば、捜査機関の権限の逸脱・濫用のおそれは小さく、認めても良いと考えられます。具体的には、捜索・差押手続の適法性を担保するため、相手方への令状の提示や捜索の実施状況、立会いの状況等を撮影する場合、及び証拠物の発見時の状況や位置関係を明らかにするために撮影する場合には、捜索・差押えに随伴するものとして、捜索差押許可状により写真撮影をすることが認められるといえます。
この規範の下、①から③の写真撮影の適法性を検討していきます。
■①の写真撮影について
呈示された捜索差押許可状を乙が見ている状況を撮影しています。捜索差押許可状は処分を受ける者に示さなければならないとされている(222条1項・110条)ことから、これは、手続の適法性を担保するための撮影であるといえます。よって、前述の規範に照らし、①の写真撮影は、捜索・差押えに随伴するものとして適法です。
■②の写真撮影について
引き出し内のサバイバルナイフと甲名義の運転免許証等を撮影しています。サバイバルナイフは、令状に記載された差押え対象物です。そして、甲名義の運転免許証がその近くにあったという状況は、サバイバルナイフの所有者が甲であることを推認させる重要な事実であることから、その発見時の状況や位置関係を明らかにするために撮影がなされています。よって、前述の規範に照らし、②の写真撮影は、捜索・差押えに随伴するものとして適法です。
■③の写真撮影について
引き出し内の注射器及びビニール小袋を撮影しています。これらは甲の覚醒剤の使用をうかがわせるものではありますが、差し押さえるべき物として令状に記載されていません。よって、これらの撮影は捜索・差押えに随伴するものとはいえず、違法です。
設問2
Pの作成した書面の証拠能力が問われています。証拠能力が問われる問題では、主に自白や伝聞法則、違法収集証拠排除法則の検討を求められることが多いですが、本問では、当該書面がPによる公判廷外の供述に当たりうることから、伝聞法則を検討すれば良いことに気付きます。
伝聞法則について検討する際は、対象となる証拠が伝聞証拠(320条1項)に当たるか、当たる場合、伝聞例外として証拠能力が認められるかという流れで論じていきます。
まずは、伝聞証拠への該当性を確認します。上記引用の通り、伝聞証拠に当たる場合は、原則として証拠能力が否定されます。
供述は、それが形成される知覚・記憶・表現・叙述の各過程において、誤りが入り事実誤認をもたらしうることから、反対尋問を通じて、その真実性をテストすることが期待されています。したがって、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠であって、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる証拠をいいます。
本件書面は、Pによる公判廷外の説明文及び写真を内容としますが、後者の写真は撮影時の状況を機械的に記録するものであるため、事実誤認のおそれがなく、供述証拠には当たりません。一方で、前者の説明文は公判廷外の供述証拠に当たります。そして、Vの血が付いたサバイバルナイフの所有者が立証されれば、当該所有者の犯人性が推認されますが、甲は犯行及び本件サバイバルナイフの所有を否認しています。したがって、要証事実は、甲が本件サバイバルナイフの所有者であることであるといえます。そうすると、本件書面の内容であるPの説明文にある通り、本件サバイバルナイフと甲名義の運転免許証等の発見状況や位置関係は、甲が本件サバイバルナイフの所有者かどうか、すなわち要証事実との関係でその内容の真実性が問題になるといえます。よって、本件書面のうちPの説明文は伝聞証拠に当たります。
この部分は、説明文があくまで写真の内容を補完する役割に留まる点に着目し、伝聞証拠に当たらないと結論付けることも考えられます。
では、本件書面のうちPの説明文は、伝聞例外を定めたいずれかの規定に該当するでしょうか。Pは司法警察員であるため、321条1項3号、同3項が候補に挙がります。ここで、3項の「検証」とは、五官を用いて対象の状態を感知する処分を指します。Pの説明文は、Pが捜索・差押え時に自身が視認した内容を記したものであることから、その性質は検証書面と同様です。よって、Pの説明文は同項の「検証の結果を記載した書面」に準じるものであるといえ、Pが公判期日においてその作成の真正性を供述したときは、証拠能力が認められます。
出題の趣旨
本問題について公表されている出題の趣旨は以下の通りです。
参考答案
以上の内容を反映した参考答案を添付します。
参考書籍
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