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【予備試験過去問対策講座】罪数処理を極める(平成24年刑法)


はじめに

この記事は「予備試験過去問対策講座」のテーマ別講義記事です。
今回は、刑法の「罪数処理」を取り上げて解説します。解説編で具体的な処理手順を確認した後、実践編で平成24刑法を対象に、実際の事例問題における使い方を解説していきます。

解説編

罪数処理とは

通常、試験ではある人物の「罪責」が問われます。罪責とは、その人物に成立する犯罪及び科される刑罰の種類のことを指しています。成立する犯罪が1つであれば、罪責としてもその犯罪をそのまま答えれば問題ありませんが、複数の犯罪が成立する場合は、科刑上それらがどのような関係にあるのかという点まで検討する必要があります。この検討のことを罪数処理と呼びます。

例えば、甲がVの住居に侵入し、置いてあった財布を窃取した場合、甲には住居侵入罪(130条)と窃盗罪(235条)が成立し得ますが、答案の最後では、これらが科刑上どのような関係にあるのかまで述べる必要があります。結論を先取りしてしまうと、これらは手段と目的の関係にあることから54条1項後段が適用され、牽連犯となります。

第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

罪数処理は毎年必ず必要になるため、正確な理解の下、時間を掛けずに的確に対応できる練習をしておけると、それだけで差をつけることができます。

罪数のパターン

まずはじめに、罪数のパターンを確認しておきます。罪数処理では、すべての成立する罪について、これらのいずれに該当するのかを検討していくことになります。

本来的一罪
犯罪が一罪しか成立しないことから、科刑上も一罪となるグループです。典型的には、1個の行為が1個の構成要件に該当する単純一罪がこれに当たります。

1個の行為が複数の構成要件に該当するように見えるものの、そのうちの一罪のみを成立させるべき場合を法条競合といいます。強盗殺人罪が成立するときは同時に強盗罪と殺人罪の構成要件も充足しているはずですが、その場合は後二者の成立を否定すべきであるため、このパターンに該当します。

数個の行為を包括して1個の構成要件で評価するため、一罪のみが成立するパターンを包括一罪と呼びます。例えば、殺意をもって相手方を刺殺した際に、その衣服も破けた場合、殺人罪のほかに器物損壊罪の構成要件にも該当しますが、後者は前者に従属的な法益侵害であることから、殺人罪に吸収され、殺人罪一罪が成立します。

数罪
犯罪が複数成立する場合、行為の態様や犯罪間の関係に応じて科刑上は一罪とされるパターンと科刑上も数罪となるパターンに分かれます。

科刑上一罪となるパターンには、観念的競合(54条1項前段)と牽連犯(54条1項後段)があります。科刑上一罪と認められると、数罪が成立していても「その最も重い刑により処断」されることになります。

第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

観念的競合は、「一個の行為が二個以上の罪名に触れ」る場合をいいます。例えば、家屋に眠っている人を殺害する目的で、当該家屋に放火した場合、現住建造物放火罪(108条)と殺人罪(199条)が成立し得ますが、もとの行為は放火行為の1個であるため、両者は観念的競合になります。

牽連犯は、「犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れる」場合をいいます。つまり、犯罪間に手段と目的や原因と結果の関係のある場合がこれに当たります。

科刑上も数罪となるパターンには、併合罪(45条)と単純数罪があります。

第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

科刑上一罪にならない犯罪は、試験対策上は原則として併合罪となります。刑法の試験では、通常、確定裁判前の事情のみが問題として記載されているため、「確定裁判を経ていない二個以上の罪」という45条前段が適用されます。
答案上で論じる必要はありませんが、併合罪の場合は、「その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたもの」が長期とされます(47条)。

第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

併合罪とならない場合、つまり、確定裁判前に犯された罪と、その後に犯された罪とは単純数罪となり、刑が単純に併科されます。

論じ方の例

罪数処理は、成立する罪とそれらの科刑上の取扱いが分かるような書き方であれば特に決まった形式はありません。
例えば、住居侵入罪と殺人罪がそれぞれ成立し、両者が牽連犯となる場合では、以下のような論じ方が考えられます。

甲には、住居侵入罪(130条)と窃盗罪(235条)が成立し、両罪は牽連犯(54条1項後段)となる。

これを答案の最後に書くことになります。

3つ以上の犯罪が成立する場合も同様です。住居侵入の後、窃盗を行い、外に出てから当該住居に放火したようなケースでは、住居侵入罪と窃盗罪が牽連犯、それらと放火罪が併合罪になると考えられるため、答案では以下のような表現が考えられます。

甲には、①住居侵入罪(130条)、②窃盗罪(235条)、及び③現住建造物放火罪(108条)が成立し、①と②は牽連犯(54条1項後段)となり、それらと③は併合罪(54条1項後段)となる。

注意すべきは、観念的競合や牽連犯となるグループができたとしても、その他の犯罪との関係も含めて最後まで処理する必要があるという点です。上記の例では、①と②の処理だけで終わらせず、それらと③がどのような関係にあるのかという点まで言及する必要があります。

罪数の判断基準

以上を踏まえ、罪数処理の具体的な検討フローを解説していきます。

まず、行為も結果も1つしかない場合、当該行為が特定の構成要件にしか該当しなければ、その犯罪の単純一罪となるため、特に難しい点はありません。複数の構成要件に該当する場合には法条競合になるため、前述のような犯罪間の関係性を踏まえ、一罪のみが成立します。

次に、行為が1つで結果が複数の場合、結果同士に主従の関係があれば、従たる犯罪が主たる犯罪に吸収される包括一罪に、そうでなければ観念的競合となります。具体例はそれぞれ「罪数のパターン」で説明した通りです。

行為が複数で結果が1つしかない場合は、原則として包括一罪となります。例えば、同一被害者に対して複数回発砲して殺害したケースでは、殺人未遂罪と殺人罪が成立するのではなく、包括して殺人罪一罪が成立します。

行為が複数で結果も複数の場合、まずは牽連犯とならないか確認します。牽連犯は、数個の行為が手段と目的、または原因と結果の関係にある場合に成立します。典型的には、犯罪の目的をもって住居に侵入する場合の住居侵入罪と当該犯罪や、文書偽造罪と偽造文書行使罪、身の代金目的拐取罪と身の代金要求罪等がこれに当たります。
牽連犯にならない場合は、(試験対策上は)併合罪となります。

なお、牽連犯に関連した応用的なテーマとして「かすがい現象」があります。例えば、甲が、Aの自宅に侵入し、Aを殺害した後、同居のBも殺害したというケースにおいて、Aに対する殺人罪とBに対する殺人罪は、複数の行為で複数の結果が発生している場合ですが、手段と目的または原因と結果の関係にはないため牽連犯とはならず、併合罪となります。
一方、甲はA及びBを殺害するために住居に侵入していることから、住居侵入罪とAに対する殺人罪、及び住居侵入罪とBに対する殺人罪はそれぞれ牽連犯の関係にあります。
このような場合、判例上、住居侵入罪が「かすがい」となって、全体が科刑上一罪となるとされています。論文式試験での出題可能性は低いですが、余裕があれば押さえておきましょう。

実践編

では、平成24年の問題を対象に、実際の事例問題において解説編で述べた内容をどのように使うべきかを確認していきます。

成立する犯罪の確認

罪数処理を行う前提として、甲乙丙にどのような犯罪が成立するのか確認します。本来は答案のメインのパートですが、ここでは検討済みであるとして、答案構成のみ示します。

  1. 甲の罪責について

    1. 自己が運転するX車を乙が運転するY車に衝突させ、乙に頸部捻挫を負わせた行為について

      1. 傷害罪(204条)の成否を検討

        1. 客観的構成要件該当性→〇

        2. 主観的構成要件該当性→〇

        3. 違法性阻却事由(同意)→相当性なし

      2. 成立

    2. 自己が運転するX車を乙が運転するY車に衝突させ、Y車のバンパーを接触したAに右手首骨折を負わせた行為について

      1. 傷害罪の成否を検討

        1. 客観的構成要件該当性→〇

        2. 主観的構成要件該当性→〇(故意は阻却されない)

      2. 成立

    3. 保険会社に保険金を請求した行為について

      1. 詐欺未遂罪(250条、246条1項)の成否を検討

        1. 客観的構成要件該当性→結果×

        2. 主観的構成要件該当性→〇

      2. 成立

    4. 罪数処理(後述)

  2. 乙の罪責について

    1. 甲丙との共謀の範囲

    2. 乙に対する傷害罪

      1. 客観的構成要件該当性→「人の身体」×

      2. 不成立

    3. Aに対する傷害罪

      1. 客観的構成要件該当性→〇

      2. 主観的構成要件該当性→×(他人に傷害を負わせる故意なし)

      3. 過失→〇

      4. 自動車運転過失致傷罪が成立

    4. 詐欺未遂罪

      1. 客観的構成要件該当性→〇

      2. 主観的構成要件該当性→〇

      3. 詐欺未遂罪の共同正犯が成立

    5. 罪数処理(後述)

  3. 丙の罪責について

    1. 甲乙との共謀の範囲

    2. 共犯関係からの離脱→×

    3. 以下の罪が成立

      1. 乙に対する傷害罪の共同正犯

      2. Aに対する傷害罪の共同正犯

      3. 詐欺未遂罪の共同正犯

    4. 罪数処理(後述)

罪数処理

罪数処理は1人ずつ行います。

まず、甲の罪責を検討します。
甲に成立する犯罪は以下の3つです。

  1. 乙に対する傷害罪の共同正犯

  2. Aに対する傷害罪の共同正犯

  3. 詐欺未遂罪の共同正犯

1と2の関係から考えると、これはX車をY車に衝突させるという1つの行為から、乙の傷害とAの傷害という2つの結果が生じています。結果同士に主従の関係はないことから、前述のルールに従うと観念的競合となることが分かります。
次にそれらと3は、複数の行為から複数の結果が発生した場合に当たりますが、手段と目的または原因と結果の関係にはないため、牽連犯にはなりません。したがって、併合罪となります。
答案用にまとめると、以下のように書くことができます。

甲には、①乙に対する傷害罪の共同正犯、②Aに対する傷害罪の共同正犯、及び③詐欺未遂罪の共同正犯が成立し、①と②はX車をY車に衝突させるという1つの行為から発生しているため、観念的競合(54条1項前段)となり、これらと③は併合罪(45条前段)となる。

次に、乙の罪責を検討します。
乙には、自動車運転過失致傷罪と詐欺未遂罪の共同正犯が成立します。これらは、複数の行為から複数の結果が発生した場合に当たりますが、手段と目的または原因と結果の関係にはないため、牽連犯にはなりません。したがって、併合罪となります。

乙には、自動車運転過失致傷罪と詐欺未遂罪の共同正犯が成立し、両者は併合罪となる。

最後に丙の罪責を検討します。
丙に成立する犯罪は、甲と同様以下の3つです。

  1. 乙に対する傷害罪の共同正犯

  2. Aに対する傷害罪の共同正犯

  3. 詐欺未遂罪の共同正犯

丙は実行行為を担当しない、所謂共謀共同正犯ですが、この場合の行為の単複は、実行正犯の行為の数で判断します。そうすると、甲は、X車をY車に衝突させるという1つの行為から、乙の傷害とAの傷害という2つの結果を生じさせているため、丙の罪責としても観念的競合となります。
それらと詐欺未遂罪が併合罪になるという点も同様です。

丙には、①乙に対する傷害罪の共同正犯、②Aに対する傷害罪の共同正犯、及び③詐欺未遂罪の共同正犯が成立し、①と②は実行犯たる甲によるX車をY車に衝突させるという1つの行為から発生しているため、観念的競合(54条1項前段)となり、これらと③は併合罪(45条前段)となる。

なお、従犯の場合は、従犯としての教唆行為や幇助行為の数を行為の数として考えます。
例えば、甲が乙に対し、乙がV1を殺害するために使うことを知ってナイフを貸し与えた後、乙がV1だけでなくV2も殺害した場合、乙から見れば複数の行為で複数の結果が発生した場合なので2個の殺人罪は併合罪となりますが、甲から見ると、ナイフを貸し与えるという1つの行為で複数の結果が発生した場合に当たるため、2個の殺人罪の幇助犯は観念的競合となります。

解説は以上です。

参考書籍

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