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【注 ネタバレあり】『TAR』を見たからライトな映画ファンの感想を聞いてくれ

ただの音楽映画じゃない『TAR』

この映画が公開された時僕は,
「また『セッション』みたいな作品が来たのかな?」とワクワクしていた。
だけどいろんなサイトのレビューを見る限りでは、
どうもそんなサクッとしたものでもないらしいということがわかった。

こいつも充分重いけどいうて2時間無いのよ。

『セッション』は100分で人間を辞めるストーリーだったけれど、
『TAR』は本編時点で主人公はその遥か高みにいる
からの2時間45分
そこからどうなるのか、それがこの映画の肝だ。

ジェンダーや権威、そしてクラシック音楽についての話はもういろいろな人がしているだろうし。
今日はライトなオタクが理解できた浅い上澄みの話をしたい。
恐縮だけど、聞いてくれるかな?

構成と小道具

この映画の構成は大きく2つに分けられる気がする。
それは主人公『ター』が”普通の指揮者”になる前と後
具体的には、某人物をステージの上で殴りつけるシーン以前と以後だ。

それ以前のシーンは公式が言う『サイコスリラー』感も多少あって。
物が多いわりに生活感は少ないくせして、
ご近所トラブルで温度感がバグる。かと思えば、
パートナーや娘と住む家は綺麗で都会的でそして無機的。
観客の僕らの目に映る景色もどこか味気ない。

何より気になったのは鏡だ。物語の要所要所で彼女は鏡越しに映る。
そして不思議なことに、件のシーン以後は鏡(もしくは『ター』を映す何か)の登場頻度は大きく減っていたりする。

小道具と言えば『ター』の乗る車も気になる。
恐らくはテスラだろうけれど、何にせよ電気自動車だから車内がめちゃくちゃ静かなのだ。音楽すらかけていない。車内外のノイズすら聞こえない。
そら娘も気まずくなるわな。

車の話題から音に移ろう。
『ター』は音、というより”雑音”を排除することに強いこだわりがあるように思えた。

メトロノームはともかく、冷蔵庫の発する音なんて一般人の僕らにはあって当たり前のものだろうて。
むしろその手の生活音が聞こえていないと不安になることすらある。

そんな彼女は件のシーン以降、
何かとやかましいアジアへと居を移すことになる。
工事の音、川のせせらぎ、行き交うバイクなんかのエンジン音。
これらすべて、彼女が壊れるまで演出がされなかったもの

けれどもしんと静まり返る場面もある。
ここで出てくるのが、さっき話した鏡(実際には壁の反射)なのだから、
なにかしらの意図があるんだろうなと。

ロボットは誰?

劇中で彼女はSNSであることないことを発信、拡散する連中を”ロボット”と侮蔑的に呼んでいた。まぁ大体合ってる()

けれど”ロボット”はそうした市井の人々だけなんだろうか?
正直、僕から見れば彼女自身も別の意味で”ロボット”じみたところがある。

あまりにも強すぎる我を持ち、周囲の人間のしがらみにも流されず。
立場や仕事、そして音楽のためにスパッと何かを切り捨てられるその精神は、人と言うよりは機械に近い何かにしか見えない。

そんな”人間”が他人を”ロボット”と呼ぶのは、なんとも皮肉ではなかろうか。

鑑賞後に抱いた気持ち

この映画には賛否いろいろな意見があるけれど、
鑑賞後に僕が抱いたのは『安堵』とかその類の感情

なにせ『モンスターハンター』で指揮を取る彼女の顔は、
まるで憑き物が落ちたかのようだったから。

偉大なる指揮者ではなくなったかもしれないが、
少なくとも人間に近い存在にようやく戻ることが出来たと。僕はそう解釈した。
実質ハッピーエンドに思えたせいもあって、
この映画についての僕の認識は『ヒューマンドラマ』
だったりする。

人の感想が気になる映画

初見からしか得られない栄養が映画にあるのは知っているけれど、
この作品で欲しいのはその手の栄養素なんかじゃあない。

見た人が何を、どの部分を、どう感じたのか。
十人十色の回答が出そうな作品。だからこそ人の感想が見たいと思ったし、
僕も数日ぶりにNoteにこうして書き綴っている。

2時間45分、決して軽い気持ちでサクッと見れる映画じゃない。
じゃないんだけど。
是非シアターで鑑賞してその感想を聞かせてくれまいか。

見当違いなところもあるだろうけど、僕の感想はこんなところ。
それではまた。



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