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万年筆 ~ペンクリニックと筆記測定|エッセイ(全文無料)

 2024年9月下旬
 万年筆をペンクリニックに出し、また、筆記測定というものを経験した。

 情報技術が隆盛を極めるこの現代において、私は前時代的な、万年筆という筆記具を愛用している。いまや道具としての実用性から離れ、ほとんど趣味のためだけの、ロマンのみを成分として出来上がるようになった万年筆。インドア派の趣味の極みともいうべき万年筆。私もインドア派の一員として、近年ますます、万年筆を愛するようになった。
 もちろん書き物をするときは、大部分はタイピングによるドキュメント作成である。しかしアイディアを書き留めたり、タイピング前に構成を整えたり、ふとその気になって「いま、書き始めたい!」というときなど、隙あらば万年筆を使おうとしている。
 たとえば就床して寝る直前など、突然その気になって書いてしまいたいときがある。眠くて目をこすっているのに文筆の意欲だけがもりもりと隆起するあの瞬間。起き上がって好きなノートをめくり、好きなインクを入れた好きな万年筆を手に取って、書き始め、文筆の悦びと万年筆筆記の楽しみとに陶酔しつつ、いいところまで書いてしまう。文字も、翌日読み返してギリギリ判読できるくらいの、乱れた字でよいのだ。そして使った万年筆に「今日もかわいい」と言ってキャップを締める。
 万年筆への興味の発端は、成人前に親に買い与えられたことだった。初めから夢中だったわけではなかった。それでも途中から段々と好きになっていって、いまや気に入りの数本をとっかえひっかえして日々の筆記を満喫し、ペン道楽にどっぷりつかるようになってしまった。(それでも「数本」にとどめているのが、節度ある感じがするでしょ!)

 さて、その万年筆のうち一本に不調があった。
 これは一年ほど前にペン先交換をして、おおむね調子よく使っていたものだ。しかし一点、たまに横に線を引く時ぴいっと言ってインクが飛び散るのが気に入らなかった。これまでこれに目をつむって使ってきたが、使っていても直っていかないので、店に相談した。
 この店は私の気に入った店で、最近では、万年筆を何かするときはほぼこの店と決めている。店が言うには、このメーカーはペン先調整を行わない、メーカー対応があるとすれば不良品としてのペン先再交換しかあり得ない、ということだった。すでにこのペン先を使用して一年分の愛着がある私は、困った。そこで店が勧めたのには、今度当店でペンクリニックというイベントをやる、私のペンもメーカー違いだが見てもらえる、必ず直る保証はないが、愛着のあるペン先自体は継続使用できるし、費用もかからないので、試してみるのがよいのではないかということだった。
 ペンクリニックというのは、すでにあるペンのペン先を、プロがあれこれいじって、調子を整えてくれる。ペン先調整だ。私はこのペンクリニック自体は経験があった。そのため、その作業自体に不安はなかった。そこで後日予約を入れ、この9月下旬、ペンクリニックのために店を訪れたのだった。

 当日、店内ペンクリニックコーナーへ行ってみると、すぐ横に
「筆記測定」
というコーナーがあった。私はこれに聞きなじみがなかった。聞けば筆圧や筆記角度など、書き癖を測定してくれる。そして測定を実施するメーカーのペン先ラインナップの中から、おすすめのペン先を選んでくれるというものだった。ついでに性格まで占ってくれるというおまけまでついていた。要するにメーカーの販売促進イベントの一環だが、性格占いはともかく、測定は面白そうだと思って、並んでみた。

 結果は筆圧50、ねじれ内側4度、筆記角度48度。加えて筆記速度やや早め、その他特徴これといって無し、ということだった。
 万年筆になじみのない方には、何のこっちゃ訳が分からないであろう。
 万年筆の筆記にはこういった要素があって、愛好家にしてみれば、多少とも興味があるのではないか。
 私も幾らか興味があり、偶然この筆記測定イベントに出会ったのをよい機会と思って、見てもらって、その測定結果を大変興味深く持ち帰ることができたのだった。

 ところでこの日の主目的であるペンクリニックの結果は、残念ながらよくなかった。
 さんざん見ていただいたが、とうとう、ぴいっと言ってインクが飛び散る症状は、ほとんど改善しなかった。
 さっと横線を引くことをせず、普通に筆記する限りでは問題がないので、しかたがない、いやむしろこれもこのペンの個性の一つと思うことにして、このままかわいがっていくことにした。

 なお、本記事の見出し画像は、そのぴいっと言ってインクが飛び散るペンで書いた。字を書く分にはこの通り、インクが飛び散ることはない。
 こうしてみると、どう、うちの子かわいいでしょう!


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