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『進化思考』×『「わかりあえない」を越える』 著者と訳者による対話イベントレポート

12月19日(日)、『進化思考』の著者である太刀川英輔さんと、『「わかりあえない」を越える』の訳者である今井麻希子さん、鈴木重子さん、安納献さんによる対話イベントをオンラインで開催しました。「海士の風の著者・訳者同士、何か根底に共通するものがあるはず」そんな確信に近い思いから生まれた今回の企画。どんなつながりが見いだせたのか、対話の様子をレポートします。

今日の対話に寄せる思いは?

冒頭では海士の風の萩原が、『進化思考』『「わかりあえない」を越える』の制作を進めるなかで感じてきた「根底に流れている思想や価値観、未来への願いが似ている」という思いから今回の対話企画が生まれたことを紹介。「予定調和ゼロ。この場を楽しんでいただけたら」と挨拶し、冒頭では話者それぞれが今回の対話に寄せる思いを共有しました。

太刀川:創造のメソッドである進化思考においても、『「わかりあえない」を越える』の軸となるNVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)の観点が大事だと感じています。というのは、何かをつくるというプロジェクトは一人でできるものではないから。「いかに相手に共感するか、つながるか」という観点が重要なんです。そう考えると、進化思考もNVCも同じところを目指している感じがするなと。今日はそんな話ができたらいいなと思っています。

今井:東日本大震災の直後に、災害時に役立つデザインの情報をTwitterで発信されているのを見て、太刀川さんを知りました。今日、このようなかたちでつながれたことがとてもうれしいです。

鈴木:私たち人類がものすごいスピードで進化してきた結果、生態のバランスがおかしくなってしまった。今、「いのち」の全体はどこに向かっているんだろう、私たち人間は何をどうしたらいいんだろう…と、特にこの1年あまりは閉塞感を感じていました。そんなときに『進化思考』に出会い、たくさんの可能性を見せてもらい、涙が出る思いがしました。私は、人類は、いのちは、ここからどこに行きたいのかをこんなに一生懸命に考えた人がいる。しかも、自分たち(NVCの観点)とはまったく違う観点から…。こんなに面白い世界を見せていただいたことに感謝しています。私たちが学んできたNVCと太刀川さんが体系化した進化思考がどのように折り合っていくのか、大変興味深い思いで今ここにいます。

安納:『「わかりあえない」を越える』やNVCの活動の根底には、生きるもののいのちが栄え続けてほしいという持続可能性への憧れがあります。しかし、現在の延長線上には持続可能ないのちが感じられないのが事実です。進化思考により、“現在の延長線上ではないもの”を生み出せるのではないか。そんな予感がして、この対話がその一歩になるのではないかと期待しています。

『進化思考』はどんな本?

4〜5名のグループに分かれてのチェックインで、参加者同士が「今日楽しみにしていること」を共有したのち、対話本編へ。司会・進行役は海士の風代表の阿部が務めました。

阿部:まずは、それぞれがどんな本なのかを簡単に紹介していただきましょう。太刀川さんからお願いします。

太刀川:『進化思考』は、ざっくり言うと、「人間の創造性は生物の進化と構造がそっくりですよ」ということを、創造性と生物の進化を探究しつつまとめた本です。生物の進化は、エラー(変異)が起こり、そのエラーが適切な観点で選択される(適応)…ということを繰り返すことで、自動的に起こるものです。それを創造性に置き換えると、「変異(エラー)」と「適応(選択)」の概念を往復することで、創造性は必然的に磨かれていく…ということになります。これが、進化思考です。

創造性って、「才能がないから」と諦めがちなテーマなんですよね。僕はそれが嫌で…。本来は、正しいやり方を教わればできるものなんだけど、僕たちはやり方を教わってこなかった。やり方に気づいたかどうかで分断が生まれ、格差につながっているのが現状です。創造性は、自分が自分らしくあるための手段、ありたい像に自分を近づける手段でもあり、教育の本質的な目的だと思うんです。

『「わかりあえない」を越える』はどんな本?

阿部:ありがとうございます。では、『「わかりあえない」を越える』についても、ご紹介をお願いします。

安納:NVCを提唱したアメリカの臨床心理学者、故・マーシャル・B・ローゼンバーグ博士は、人はどうしてわかりあえないのか、仲違いや暴力に発展してしまうのかという疑問から探究を重ねた結果、「人と人との間には関係性があり、関係性には質がある」という考えに至りました。関係性の質が良いときは相手を痛い目にあわせようとは思わないが、関係性の質が低下すると痛い目にあってもいいと思ってしまう。では、どうなったら質が低下するのか、どうしたら質を良くできるのか…と、考えました。

鈴木:マーシャルは、コミュニケーションのOSを換えることを提唱しました。話し合いの場では、意見を出し合って何が正しいかを決める「議論」になりがちですが、NVCでは、「どんなことを大事にしているのか」という意見の背景まで互いに聞き合います。みんなにとって納得のいく解決策を新しく見つけていこうとするプロセスがNVCであり、進化思考で語られる創造性ととても相性がいいと感じています。

今井:OSを換えるというのは、「何が人生を豊かにするか」とものの見方のパラダイムを変えるということです。私たちのなかに存在するいのちにどのように意識を向け、そこからいかに関係を築いていくか。NVCにおいて大事なのは、「解釈」ではなく「観察」です。自分や相手の感情の動きをつぶさに観察し、感情が伝えてくれる大事なもの(ニーズ)に耳を傾け、そこからどう選択(リクエスト)するか。こうしたプロセスをエクササイズを交えながら書かかれたのが、マーシャル・B・ローゼンバーグ著『「わかりあえない」を越える』です。ぜひ、多くの人に手にしていただきたい本です。

「海士の風」はどんな出版社?

阿部:では僕からも、出版社としての思いを。人と人、人と自然とがお互いをリスペクトする温かい関係性をつくりたい。そんな思いから14年前に島根県の離島・海士町に移住して起業し、人が人を大事にする社会になってほしいという願いを込めて、研修や地域づくりなどの事業に取り組んできました。そして、温かい関係性を築くため、幸せな未来をつくるための叡智を世界中から集め、本として多くの人に届けたいという思いで立ち上げたのが、出版社・海士の風です。本を世に出すだけでなく、本の中身をいかに社会に根づかせていくかに挑戦しています。

貧困や格差、戦争などにより生きることに必死だった時代を経て、1900年代後半以降は衣食住が満たされることが当たり前になった。私たちは生存の欲求が満たされた状態で今日という日を生きているけど、ここから先って何をどう高めていったらいいんだろう…そんなことを、これから皆さんと一緒に探究していきたいと思っています。

「進化思考」と「NVC」に共通するものは…?

太刀川:進化思考における「変異」は、思い込みや固定概念を壊すことで生まれるという点において、相手の本質を理解しようとするNVCと通じるものがあると思います。一方、「適応」は、周囲との関係性(生態)、内部の構造(解剖)、過去から現在の流れ(系統)、未来に向けた願い(予測)といった多角的な観点で、変異の良し悪しを判断するという思考です。適応もまた、相手を多角的な観点から理解するというNVCに近いように思います。

安納: NVCの根底には、「生きとし生けるものは、瞬間、瞬間に、いのちを生かすために最善を尽くしている」という考え方があります。鳥が空を飛んでいるのも、木が太陽に向かって枝を伸ばすのも、私たちが今日ここに集まるのも、自分のいのちを生かそうと最善を尽くしているから。ときにはその最善が他者を傷つけてしまうという残念なことも起こるけれど、最善を尽くし続けることには変わりないんだというのが根底にあるんです。そして、NVCでは、最善を尽くそうとする状態を少しだけ具体的にしたものを「ニーズ」と呼びます。例えば、「幸せに生きる」という最善のために必要な、「つながり」「信頼」「温かさ」「水」「食料」といったものです。

この考え方は、進化思考の「WHY」につながると感じています。WHY(適応)を実現するためにHOW(変異)があるというのは、いのちを生かそうとする衝動(目的)があったうえで、それを実現するための手段があるという構造ととても似ています。目的と手段を分けて考えることは非常に重要です。例えば、「楽しみたい」という衝動(目的)に対して、娯楽のニーズを満たす手段は、温泉、テレビゲーム、映画などいろいろあります。温泉がいい映画がいいと意見が分かれるかもしれないけど、娯楽というニーズ自体は共通です。つまり、コミュニケーションにおいては、表層を超えた先を見ていくこと、手段にとらわれないことがとても大事なんです。

手段で対立が起こっても、共通の衝動(目的)でつながることができれば、人類は協力し合ってより良い道筋を作れるのではないでしょうか。人間がここまで栄えられたのは、問題を仲間と共に考えて解決してきたから。今の時代は、その社会的な能力が発揮しきれていないがゆえに、対立や分断が増えているように感じます。私たち人類に備わった「協力する」という機能を活かすための道具や道筋が、進化思考に見いだせるのではないか。NVCと相乗効果を生み出せるのではないか。そんな期待感があります。

鈴木:NVCでは、心理的安全がとても重要です。そして、私たちが創造性を発揮するためにも、心理的安全の確保が不可欠です。何をしても大丈夫、失敗しても大丈夫、間違ってもいいし何をしてもあなたは大切だよ…という状態であれば、失敗を恐れず前に進んでいけるし、思いもかけないことができる。この「心理的安全の確保」も、NVCと進化思考とが関わるところなのかなと感じています。

今井:私自身がNVCに惹かれる理由の一つが、いのちのもつすごさや可能性を思い出せるから。対立や憎しみというネガティブな感情であっても、本当に大事なものがあるからこそ湧き起こっている。どんな状況でもいのちの最善が行われている。いのちって素晴らしい知恵をもっているんだなと、NVCを学ぶなかで腑に落ちたんです。そして、相手の深い感情に触れたときに自分とのつながりを感じたり、世代を超えていのちの記憶が受け継がれる感覚があったりして、いのちを個として捉えるのは難しいと思うようになりました。そうしたさまざまなつながりのなかで最善と思われることを選択しているにもかかわらず、残念な結果になることもあります。そういうときに、これはどういうことなんだ、誰が悪いんだ…と考えるのではなくて、いのちのもつある種の面白さとして受け止められるのではないかと思うようになりました。

太刀川:進化思考とNVCは、「別の見方をしてつながりを探究する」という根底にあるプロセスがとても似ているんですよね。相手のニーズも自分自身のニーズも、よく観察しないとわからないもの。皆さんのお話を聞いて、NVCは自分や相手を客観視するための知恵なんだと改めて思いました。

「自分」と「創造物」を切り離して考えてみる

太刀川:創造性って、簡単に痛みにつながるテーマなんです。おまえの歌は下手だとか、作ったものがよくないとか面白くないとか言われると、傷つきますよね。それは、「自分が生み出したもの」と「自分自身」とをつなげて考えているから。創造物に自分を投影しすぎると、創造物が評価されなかった際に自分という人間が否定されたと感じてしまうんです。大事なのは、その創造物が生み出されてきた「つながり」を理解すること。これは、NVCの「観察」とも通じます。例えば、自分の意見は自分だけでなくさまざまな状況のつながりが生み出したものだと考えると、自分が代弁しているものの正体がわかる。同様に、相手の意見の背景にはさまざまなつながりがあるはずだと気づくことができるのです。

進化思考ではこのつながりを「適応」と呼んでいます。解剖・系統・生態・予測という4つの観点で関係性を観察することで、創造物はある種の願いを引き受けて生まれてきたんだということがわかります。言い換えると、創造した自分は代弁者であるという、創造物の客体化です。これを拒むのが固定概念や思い込み。こうでなければいけないという思い込みが他の可能性に蓋をしてしまう。「こうではない可能性」が無数にあるなか、自分が選択したのはそのうちの一つに過ぎないと思うと、自分とは異なる相手にも寛容になれます。

阿部:自分の生み出すものと自分自身とを分けて捉えて、創造物を磨くためにいろんな意見をもらえばいいと。『進化思考』も試作版を作って100人あまりの方々に読んでいただき、フィードバックをいただきました。

太刀川:フィードバックを受け、かなり修正しましたよね(笑)。いろんなコメントがありましたが、僕自身はダメージを受けませんでした。すべてが『進化思考』を思ってくれてこその声。「批判的だ」とネガティブに受け止めはしませんでしたし、みんなと一緒に作るというプロセスを経た結果、『進化思考』が本としてとても磨かれたのは事実です。

安納:太刀川さんはダメージを受けなかったということでしたが、健康心理学の研究者であるスタンフォード大学のケリー・マクゴニガル氏は、「より大きな目的を意識化できているときは、ストレスに身体が対応してくれる」と言っています。「〜したい」という明確なパーパス、ストレスを乗り越えてでも実現したいといういのちのニーズが意識化できていると、心身ともに先へ進みやすいということですよね。

WHY(目的)は振らさず、HOW(手段)は自由に

阿部:『進化思考』の例のように、創るものを磨くためにみんなのニーズを集められるようになると、クリエイティビティの質が高まるのかなと…。

太刀川:あそこにいきたいというWHY(目的)が明確に見えているからこそ、そこに近づくためのHOW(手段)なら積極的に採用する、ということ。僕にとって心理的安全とは、「目的(パーパス)が共有できている」という状態。つまり、「あそこに一緒に行きたいよね」とみんなが思っているんだと信じられる状態。そういう関係性だと、論争や批判的な意見も問題じゃなくなる。だって、それはパーパスを達成するための手段だから。そういうことのような気がします。

WHYを探究していくと、自分のWHYと相手のWHYが一致するんですよね。何十万年もの間、変わらず在り続けてきたかもしれない、自分にも相手にも流れるものがあるんです。そういう共通のWHYを系統的に見出していくことが大事なんじゃないかなと。

鈴木:自分のWHYと相手のWHYのお話は、「観察によりニーズを知り、そのニーズを満たす方法を考える」というNVCのプロセスとの共通性を感じます。例えば、私が(安納)献さんに「最近あまり一緒に過ごせていないから、週末に一緒にご飯を食べよう」と言ったものの、献さんは「疲れているから嫌だ」と答えたとします。ここで、「献さんは私のこと大事じゃないんだ」と思うのではなく、献さんの立場に立って、献さんは何を感じ何を大事にしているのかを想像してみます。すると、「献さんは疲れていて、休養を必要としているんだ」と受け取ることができます。次に何をするか。ニーズを考えるんです。私のニーズは「つながり」、献さんのニーズは「休養」。じゃあこの2つを同時に満たせる方法がないだろうかと考える。ご飯を食べるだけじゃなくて、マッサージをしてあげよう、とか。このようにしてお互いのニーズが重なるところを探っていくのがNVCです。

太刀川:目的を満たすための手段はいくらでもあるし、変化し続けるものです。例えば、明かりは蝋燭や松明から電球、蛍光灯、LEDと変化していますが、「暗いところでも見えるように照らす」という目的は同じ。手段だけが変わり続けてきました。大事なのは、WHY(目的)は振らさず、HOW(手段)は自由にすること。「手段はなんでもいいから、目的を満たす方法をいろいろ考えてみようよ」と思えると、生きていくのが、誰かと向き合うのが、とても楽になるんじゃないでしょうか。

WHYを共有すれば、つながりやすくなる

太刀川:そうですね。鈴木さんのように、「私はあなたとつながりたいから、一緒にご飯を食べよう」と伝えられたら、「今はお腹がいっぱいだからご飯は食べたくないけど、つながりたい」という人とも、目的やニーズを共有できる。そして、じゃあどうしようかと別案を模索できる。WHYを共有しながら話すことで、つながりやすくなるんだなと実感しました。
僕らは普段、「私はあなたとつながりたいから」なんて言わないけど、NVCではそれをちゃんと伝える。これだけでずいぶん関係が良くなりそうですよね。

人類は共感し合ってコミュニティを作って生き残ってきた生物だから、「共感できること」「自分たちを幸せにすること」にはフォーカスが当たる。でも、自分たちはいいけど未来の世代にとって持続可能じゃないとか、生態系が大変だとか、そういうことが起こりやすい。自分たち以外のものへの理解が苦手であることが、今、歪みを生んでいるんだと思うんです。そう考えると、まずは異なるものへの理解・配慮が苦手であることを自覚し、地球環境や未来世代を擬人化してNVCをとることがすごく重要な気がするんですよね。

鈴木:NVCのプラクティスをするときって、自分の体感とつながるんです。物の手触りとか音とか匂いとかいった体の感覚を鋭くすると、周りで起きることを受け取りやすくなります。生物に限らず無生物のことでさえ、より多く気づくようになる。たとえ言葉を発していなくても、それが何を必要としているか、WHYを感知しやすくなる。人類の脳は外側は進化した脳だけど、内側は原始的な脳。体の中にいろんな生き物と共鳴できる遺伝子があって、共感を深めていけばいくほど、総合体としてのいのちへの理解が深まるんです。

太刀川:観点が違えば見えている世界が違うという考え方ってNVCにも通じますよね。相手の視点を自分の中に取り入れていくことで、物事を多角的に理解できるようになる。複数の箇所から見るとものは立体的に見えるし、つながりを広く見ていくと全然違う景色が見える。デザインでも、ユーザーの立場、ブランドの歴史といった多角的な観点で見ていくと、共通のWHYが見えてきていいものになるんです。

NVCは『進化思考』の何章のどこに入る!?

再びグループでの共有を挟み、対話は終盤へ。「NVCは『進化思考』の何章のどこに入るか?」について、思いを交わし合いました。

太刀川:解像度高く相手の気持ちに触れる手法であり、コミュニケーションを取り合い共通のWHYを見いだして分断を乗り越える手法であるNVCは、「適応」のうち生態系の話だと思います。人間は解剖的に内側を見るのは得意ですが、外側(生態)のことって意識しづらいんです。ものがどうやってできるかはわかるけど、捨てた後にどうなるかは知らないし、それが誰か・何かを傷つけているかもしれないということまで考えない。そこに思いを馳せる手法がNVCかなと。

鈴木:NVCって自分にも相手にもつながるためのものなので、実は「適応」の4つの観点(解剖・生態・系統・予測)すべてを含んでいるようにも思えます。

太刀川:確かに。相手がなぜそういう考えに辿り着いたかという経緯は、まさに「系統」ですね。参加者の方から、進化思考とNVCの「違い」はなんですか、と。どうでしょう?

鈴木:進化思考であまり扱われていないものでNVCが扱うのが「感情」です。進化のパワーの一つである感情をどう扱うのか、そこから大切なWHYをどう導き出すのか…進化を補完するものとして感情には大きな意味があると思っています。

安納:創造の観点でも、感情は大事だと思います。「意思決定=知的作業」と思いがちですが、脳は感情が伴わないと何も決められないんです。また、生理的な安全性も重要です。創造する、新しいことを考えるというのは、脳にとってエネルギー効率の悪い作業です。そこにエネルギーを費やすためには、生存に関して安全性が確保されている必要があります。

太刀川:感情は、創造性に向かう本能的羅針盤です。一方で、創造性は個人の意思や感情に紐付きすぎるがゆえに暗黙知化していて、僕はそこに課題を感じてきました。暗黙知をフレームに当てはめて形式化したのが進化思考。つまり、進化思考は、感情を客観視する手法、感情の奥にある論理に辿り着く手法でもあるんです。

「進化思考」×「NVC」でいのちを生かす未来をつくる

阿部:まだまだ話したいところなのですが、最後に皆さんから一言ずつ感想をいただいてクロージングしたいと思います。

太刀川:あらゆることにおいて、自分のことが一番わからないもの。NVCは自分を客体化するための手法であり、向き合いたくないことやどう向き合っていいかわからないことに対しての向き合い方を教えてくれる叡智です。今回、お話をして、NVCのなかで進化思考の適応の4軸が使えるんじゃないかと感じました。相手とまだ深く話す段階ではないというとき、とりあえず経緯を書いてみよう、状況を整理してみよう、相手の立場ってどうだっけ…というのを進化思考流にやっていくと、自分自身のことも相手のことも理解しやすくなるはず。進化思考の手法がNVCの実践者のヒントになるといいなと思いました。感動・共感がいっぱいの時間でした。ありがとうございました。

今井:太刀川さんと一緒に掘り下げたい、探究してみたいと思うことがたくさんありました。海士町で合同ワークショップなどやってみたいですね。何かが生まれそうな感じに、体が反応して鳥肌が立ちました。

安納:地球の歴史は、それぞれのタイミングでそれぞれのいのちが精一杯生きてきたことで作られてきたもの。これからもいのちが存続するなら、予定調和ではない変異と適応を起こしたい。手段にこだわらず、みんながそれぞれのいのちを精一杯に生かす未来を信じたい。そんな思いをもって、今日は終わりたいと思います。

鈴木:進化思考とNVCがどうやって折り合うんだろうというところから始まり、今は深く折り合ったという満足感、感動でいっぱいです。最後に受け取って共鳴したのが、「失敗してもいい」ということ。大切なものをつくるためなら、いっぱい失敗していい。挑戦も失敗ができなくなったとき、本当に先がなくなるのだと思います。私の人生は失敗で終わっても、その後にいのちが続いていく。その気楽さ、自由さを手に、うまくいってもいかなくてもいいから一緒につくっていこうという気持ちで一歩を踏み出せれば、楽しいのではないかと思いました。

阿部:今日は100人あまりの方にご参加いただき、チャットで質問もたくさんいただいています。まだまだ話したいこと、聞きたいことがたくさんあるので、ぜひ次回、開催しましょう。皆さん、今日は本当にありがとうございました。

編集後記:
至るところで見聞きし、自分自身も使ってきた「持続可能な社会」という便利なフレーズ。でもそれってどういう状態なんだっけ…というのがどこかで気になっていました。今回の対話を拝聴し、「それぞれのいのちが輝き続けることができる世界」ということなのかな、進化思考やNVCはそのWHYに向けた道筋を探るための手法なのかな…と、ふと腹落ちした気がしました。参加者の方々も、それぞれに大事な気づきや言葉を受け取ったようです。本記事を読まれた方も、受け取ったものをシェアしていただければ幸いです。


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『「わかりあえない」を越える - 目の前のつながりから、共に未来をつくるコミュニケーション・NVC』つながりのコミュニティ

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