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<アリス来日ツアー その4 ビジネスリーダーへのメッセージ@京都GOOD NATURE HOTEL>

本文/写真/小野寺愛、編集/海士の風
本人の許可を得て、個人の投稿を転載しています。

さあ、京都市内に戻ります。
お昼は、大原で収穫した野菜を使って、生江さんと中東さんにお料理していただくのを目の前で見せていただきながら、アリスの話を聞くという、なんとも贅沢な時間です。

アリスは、大小様々な日本のビジネスに携わる人々に話をする機会ということで、何をメインメッセージにすべきか、考えているようでした。
話してくれた骨子は、こんな内容でした。

「日本のビジネスリーダーの皆さん、こんにちは!
私は皆さんに、ある大切な提案をお伝えしたくて、今日、ここに立っています。それは、地域の農業を豊かにするために、学校が経済エンジンになり得る、というアイディアです。

この地球上の誰もが、食べずに生きることができません。そして、世界中の誰もが - 状況さえ許せば - 学校に行き、学びます。”子ども” と ”食” をつなぐことに、私は未来を感じています。

公教育への誓い
無料で地産地消の学校給食を、すべての子どもたちに届けましょう。 その食材は、大地や働き手を大切にする農家や酪農家から購入しましょう。 食事を通して子どもたちに、身体に必要な栄養のこと、預かる責任、 そして、コミュニティの大切さを伝えたいのです。

60年前、私たちはどんなふうに食事をしていましたか?当時、輸入するのはコーヒー、紅茶、スパイスくらいで、他はすべて、そのとき、その土地にあるものを工夫していただいていましたね。食材は、ローカルで、オーガニックで、リジェネラティブ(環境再生型)な農家さんから買う他に、選択肢がありませんでした。

ニュージャージーで育った私は、冬の楽しみかたを知っていました。野菜があまりとれなくなるあの時期は、母が秋に仕込んだアップルソースや、冬に旬を迎えるカボチャのスープを美味しく食べました。大きなビジネスが『いつでもどこでもなんでも手に入る』という状況を作る前の時代は、世界中のどんな土地にも、豊かに暮らすための知恵がありました」

「52年前、留学先のフランスから帰国して自分のレストラン “シェ・パニース “を始めたとき、私は美味しさを求めていました。小さなフランス料理屋を始めたら “あの味” に出会えるかな?と思っていたけれど、美味しさを作るのは、レストランではありませんでした。地元で、リジェネラティブ(環境再生型)な農家さんに出会えて初めて、私たちは美味しさを発見したのです。

生産者とつながるたび、彼らは私の親友となりました。種の大切さや、気候危機を乗り越えるための土壌の役割など、この地球上で生きていく上で大事なことを、たくさん教わりました。自分の食べものを作ってくれる人たちと直接つながることは、本当に大切なことですね。

ローカルで、オーガニックで、リジェネラティブな農家、酪農家、漁師が安心して仕事をできるよう、私たちは仲買人を挟むことなく、彼らに必要な “本当のコスト” を直接、届ける必要があります。そうすることで、彼らもまた、私たちに一番美味しい、 “本当の食べもの” を届けてくれるようになります。シェパニースの成功は、私に旬や完熟の美味しさを教えてくれた農家さんなしには、あり得ませんでした」

この日シェフたちによって提供された料理の一部
野菜の美味しさが染み渡る

「さて、シェパニースがこの52年間してきたことを、学校がするようになったらどうでしょう?つまり、学校が、地域の生産者と直接つながり、彼らに必要な “本当のコスト” を直接、地域の生産者に届けるようになったら。そうすることで、学校の子どもたちにこそ、地域で一番栄養価が高くて美味しい、 “本当の食べもの” が届くようになったら?

公的な機関で給食を食べる子どもの数は、米国には3000万人います(日本だと小学校だけで600万人)。こんなに大きな購買力を持つレストランチェーンは、他にありません。バークレーの小さなレストランに立って、地域の経済圏を変えることができたのです。もし、すべての学校がそのエンジンになったらどうでしょう?

CSA(地域支援型農業)から、一歩先へ。各地の学校を起点にSSA(学校支援型農業)が導入されて、地元の農家さんを買い支える形で、すべての子どもたちに無料で、オーガニックな給食を提供することができたら。その地域の農業の風景が変わり、子どもたちの未来が変わります。ぜひ、皆さんにはその応援をしていただきたい」


最初から勢いよく語るアリスの言葉を、会場にいた皆さんがぎゅっと吸収していたように感じました。その間にも、中東さんと生江さんにより、美しい手つきで食材が料理されていきます。

アリスは、話をしながら、豆の鞘取りをしたり、野菜くずが出るたびにそれをコンポスト行きのバットに盛る役目を楽しそうに買って出ていました。
「野菜くずはいつも、感謝の気持ちと共に農園に戻しに行かないとね。これをエネルギーを使って燃やすなんて、もったいない。養分として土に還すことで、土壌が豊かになり、炭素も固定できるのだから」と。

参加者から、「農家さんから多くを教わったという話がありましたが、レストランとして農家さんの役に立った、アイディアを提供した、という経験もありましたか?」という質問がありました。

「レストランをはじめて、すぐにわかりました。私たちがいかに生産者(=自分たちの食べものをつくってくれる大地の世話人)に頼りきりであるかということを。私は料理人で、今日も、素晴らしいお二人が料理を作ってくれていますが、生産者がいなければ、料理人は役に立ちません」

…私たちは、生産者なしには、生きていくことができない。
朝、生江さんが仰ったのと同じ言葉を、アリスからも聞くことになりました。(打ち合わせなどしていなかったのでびっくり!)

朝は大原の畑で生江さん、中東さんの話を伺っていました

「その土地で、いつ、何がよく育つのか、農家さんはよく知っています。
初期の頃、メニューにこだわるあまり、そのとき目の前にある食材を料理に使わないことで、怒られたこともありました。私は、農家さんをガッカリさせたくなくて、”いま畑にあるものを全部ください” と伝え、言い値で食材を購入するようになりました」

…そのとき畑にあるものを、すべて購入して農家さんを支える。
朝、中東さんが仰ったのと同じ言葉を、アリスが言いました。
(もちろん、打ち合わせなど、してないですw)

「それでね、食べ物の本当の値段を生産者に支払うようになったら、面白いことが起こるようになったんですよ。
あるとき、私たちが頼りにしている農家のボブ・カナードが、バスケット一杯にネトル(イラクサ)の新芽を持ってきて、“栄養満点だよ。食べてみて” と言うんです。

驚きましたが、工夫してみることにしました。オリーブオイルをたっぷり使って、ニンニクで炒めて、、、ピザに乗せてみた。それが、大人気!
皆がネトルのピザを食べたくて、店は行列になりました。ネトルって、あの雑草ですよ。世界中、どこでも生えている雑草!

そんな風に、私たちが農家さんを買い支ることで、農家さんは、私たちがそれまで考えてもみなかったような美味しさを届けてくれるようになりました」

シェ・パニースのピザ

「生物多様性の美しさも、生産者が教えてくれました。トマトだけでも、数百種類はある。それぞれの品種をどう育てるか、旬がいつかを知っているのは、農家さんなんです。私は、少しずつ全部違う野菜の美しさに、いつも見惚れます。いちばんいい時に出したいから、メニューは、食材に合わせて変えていきます。

カリフォルニアのセントラルバレーに、ずっとお付き合いのあるマス・マスモトという桃農家がいます。私は彼の桃の大ファンですが、その旬はものすごく短いんです。

マスさんから “もうすぐ時期だよ” と一報が入ると、レストランのデザートメニューはすぐに変更するんですよ」

野菜の鮮やかさに心が躍る

そんな話を聞いている間に、素晴らしいお料理が出来上がりました。
生江さんが24年前、シェパニースにインスピレーションを受けたという、野菜の色と形を愛でるサラダ。ドレッシングは、アリスが数日前に訪れた海士町の漁師さんが突いたイシダイの骨の出汁、大原のすだち、フレンチマスタードとオリーブオイルで。

お料理をしている間にも、アリスはもちろん、生江さんからも中東さんからもたくさんの金言が飛び出して、食べる前から胸もお腹もいっぱいになるような昼下がりでした。

全部お届けしたいけれど… 
続きはぜひ、映画(&公式ムック)で観てください!


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