『進化思考[増補改訂版]』─はじめに 公開
はじめに
レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた人体図、あるいは伊藤若冲が描いたニワトリの絵をじっとみつめてみる。チック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を耳を澄まして聴く。アントニオ・ガウディのサグラダ・ファミリアの空間に圧倒される。
理解できない。なぜ、これほどまでの作品を創ることができたのか。とうてい人間業とは思えない。そこで、私は思い知る。ああ、この人たちは天才なんだと。私など彼らの足下にも及ばない平凡な人間に過ぎないのだと。
あるいは、飛行機を完成させたライト兄弟、ガソリン自動車を発明したカール・ベンツ、印刷機を発明したヨハネス・グーテンベルク、コンピューターを開発したフォン・ノイマン。こうした歴史を変えた発明家たち。彼らも創造の天才だったから、それを生み出せたのだ。自分とは違うのだ、と思い知らされる。
だが人の創造力とは本当にそういうものなのか。
創造的なモノは、天才にしか生み出せないのか。
私やあなたも、そう諦めるしかないのだろうか。
実はどんな人でも、驚くべき創造力を秘めている。私はそう確信している。だがよく考えてみると、創造性の構造とか、創造性を育む適切な学習方法について、私たちは何も知らないのだ。椅子の設計や料理の作り方のように、ものづくりの方法なら教えてもらったことはあっても、こと「創造性」の体系について教わった人はいるだろうか。
ではもし創造性に確固たる構造があって、それを体系的に身につけられるとしたらどうだろう。そうなれば創造は、誰もが挑戦できる科目になるはずだ。
では創造とは何なのか。それはとても不思議な現象だ。他の生物が無数にいるなかで、人間だけが圧倒的な創造力を発揮しているように見えるのはなぜだろう。私たちも自然の一部だから、創造もまた自然現象には違いない。それに似た自然現象は存在しないのか。
そう考えていたら、ふと思いついた。自然界には、創造によく似た現象が一つ存在する。生物の進化だ。生物は進化を通じて、機能する多様な形が発生している。これは人間の創造力と本当によく似ている。この観点から、創造の不思議を解き明かせないだろうか。
こうして私は進化に取り憑かれてしまった。創造の構造と生物の進化について、気づけば二〇年近くも考えつづけ、それがついに「進化思考」という考えにまとまった。
本書には、進化思考の体系と、そこに至る私の探究、そして練習方法がまとめられている。進化思考の目的は、創造を巡る知の構造を解き明かし、多くの人が創造力を発揮することだ。この本があなたにとって、そしてこれから文明が直面する課題を、みずからの力で創造的に解決する人にとっての羅針盤になればと願っている。
■他にも一部公開しております。あわせてご覧ください。
・「増補改訂版に寄せて」 (特設サイト内一部公開にて)
・「増補改訂版の協力にあたって 監修者 河田雅圭(東北大学 総長特命教授)」
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