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番外編3「巫女さんの前髪」第1話(全4話)

一作目を書いているときに知ったけど、本編に入れられなかった巫女さんの前髪蘊蓄を思いっ切り膨らませて、フィクションを織り込んだ話です。(今回の文章量:ほぼ文庫見開き)

 巫女の仕事は、優雅なイメージとは裏腹に肉体労働だ。境内を隅々まで掃除しなくてはならないし、神職が祈禱に出かけるときは細々とした神具を用意することもある。
 雑用係である俺は、雫のこうした肉体労働を手伝っている。ガタイがよくて体力は人並み以上にあるので、役に立っているという自負はある。

 ただし、俺には手伝いようがない仕事もある。

 その一つが「巫女と写真を撮りたがる参拝者に応対すること」だ。

 特に外国人観光客は、巫女さんと一緒に写真を撮りたがる。当然、「参拝者に愛嬌を振り撒くのは巫女の務め」というモットーを大まじめに実践する雫は、笑顔で写真撮影を受けている──
 というわけでもない。

「ハズカシクナイ、ハズカシクナイ」

 片言の日本語で話しかける白人男性に、雫は「ごめんなさい」と首を横に振る。
 両手の袖を目許に当てて、顔の下三分の二を覆いながら。
 白人男性は肩をすくめたが、むしろ喜んでいる様子でスマホを掲げ、雫と並んで自撮りした。

 雫は、滅多にお目にかかれないような美少女なので、こんな風に写真撮影を求められることが多い。それに応じはするが、毎回こうやって恥ずかしがって顔を隠す。

「プリティ。マエガミ、ベリープリティ」

 外国人観光客は、右手で、自分と雫の前髪を交互に指差し、左手を振りながら去っていった。雫は「えー」などと恥ずかしそうな声を上げつつ、自分の前髪に触れる。

 が、外国人観光客が境内から出ていった瞬間、噓のように感情を消し去り、氷の無表情になった。いつものように、愛くるしい笑顔は参拝者限定だ。

 でも、恥ずかしがっていたのはかわいい。

「社務所に戻りますよ、壮馬さん」

 雫はそう言うなり、俺の返事も待たずに歩き出す。恥ずかしがっていたことを、ごまかしているようにしか見えない。
 ますます、かわいい。

「髪型までほめられたんだから、ちゃんと顔も写させてあげればよかったのに」

 気づいたときには、からかうような口調で、そんな言葉が口から滑り出ていた。
 雫が足をとめ、俺を見上げる。眉間には、ちょっと驚くほど深いしわ。
 怒らせたか? 反射的に身構えたが、雫は眉間のしわをかき消し、首を横に振った。

「参拝者さまはともかく、壮馬さんにはわかってほしいです。この髪型だから、写真を撮ることができないということを」

 なに?

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