番外編7「本編第三帖のボツシーン」
第三帖の冒頭、「白峰に雫をあきらめるように言われる壮馬」のボツシーンです。『ジャーロ』掲載原稿をもとに書きました。ボツの理由は最後に。
※本編のネタバレをしているので、未読の方は注意!
【ここからボツシーン】
「早く嬢ちゃんに告白して、振られちまったらどうだ。ちゃんと自分の気持ちを打ち明けないと、この先、何年も後悔することになるぞ」
「雫さんに、そういう感情は抱いてませんから」
平静を装って言うと、白峰さんは背伸びして顔を近づけてきた。
「そういう感情を抱きかけてるんだろう? 高望みしすぎだぞ。坊やがその気になったのは、宮司さま夫婦のせいだろう。あの人たちの責任は重大だな」
「勝手なことを言わないでいただきたい」
清涼感に満ちた、澄んだ声が響く。いつの間にかすぐ傍に、細面の美男子が立っていた。装束は白峰さんと同じだが、漂う雰囲気はまるで異なる。
ごつい俺とはなに一つ似ていない、兄にして源神社の宮司、草壁栄達だ。
「雫ちゃんのような超絶美少女と、壮馬ごときが不釣り合いなことは百も承知。しかし必死に努力すれば奇跡を起こし、僕らに夢と希望を与えてくれるはず──だよね、壮馬。お兄ちゃんは信じてるよ」
「一方的に貶めて勝手に信じるな」
「貶めるだけよりいいじゃないか」
「そもそも貶めるのをやめろ」
「あきらめろ、宮司さま。嬢ちゃんの恋人なんて、坊やには荷が重すぎる」
「なにを騒いでいるのでしょうか」
冷え冷えとした声に、空気が凍りついた。声の方に、おそるおそる顔を向ける。
雫が、全身から冷たい波動を発して立っていた。身長は一五〇センチ前後しかないのに、こちらを見下ろしているような、圧倒的な威圧感を醸し出している。
「仕事中にはしゃぐのは、やめてください」
『はい!!』
大の男が三人そろって、十七歳の少女相手に背筋を真っ直ぐ伸ばして返事をしたのだった。
【解説】
『ジャーロ』連載版では、このシーンに栄達(壮馬の兄)が登場していました。単行本版でも登場させるつもりでしたが、ページ数の都合でカット。第三帖を書いている途中くらいから漠然と「最後に壮馬の噓を指摘するのは栄達の役目だろうな」というラストが見えてきたので、「雫に怒られて株を落とすのは避けたい」というのもカットの理由です。
結果、ここで雫に怒られるのは壮馬と白峰の二人だけになりました。
でも、壮馬といちゃいちゃ(?)する栄達は楽しそうなので、こういうシーンは今後も書いていきたい。
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